表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/132

第五十三話


説明ばっかり。

 お話しても? あ、はい。分かりました。

 こほん。私たち姉弟に、一人の本当に可愛い妹が出来たのです。その子は『アリス』と名づけられ、アリスは魔の者ではあり得ないほど綺麗な魂を持っていました。

 それこそ、天使かと思ったほどです。アリスの噂は瞬く間に魔界全土に広がり、アリスを一目見ようと私たちの屋敷には沢山の方々がいらっしゃいました。

 私たち魔の者も、綺麗なものを愛でる気持ちは人と同様にあります。いえ、私たちの寿命がほぼ不死であるせいで、あなた方人よりその気持ちはとても強いかもしれません。

 ともかく、アリスは父母や私たち姉弟、沢山の人々に愛されながら、可愛らしく可憐に育っていったのです。


 ですが、そんな時間もすぐに終わりを告げました。

 純粋に愛でてくださっていた方々が、特に強い力を持つ爵位の方々がアリスを欲しがったのです。

 独占欲でも出てきたのでしょうね。もちろん、全て断りました。私たちの父母も爵位を持っていて、断るくらいの力はありましたから。

 ですが、それでも諦めなかった者もいます・・・・・・。

 私たちの屋敷は何度か襲撃にあいました。アリスを力づくで奪おうとした方々によるものです。

 私たちはそのたびに戦い、必死にアリスを守りました。けれど、一度だけ、アリスを誘拐されてしまったのです・・・・・・。


 その者の名は『テリオス・アフトクラトル』侯爵。上位の力を持つ魔の者です。

 テリオスは父母を滅し、アリスを連れ去りました。私たちはその時、テリオスの手下と戦っていましたから、それに間に合わず・・・・・・。

 私たちはテリオスを追い、発見できたのは三日後のことです。テリオスはあろうことか、『蹂躙の法』を使おうとしていました。

 『蹂躙の法』とは、対象の記憶を消し心を自在に操る魔術のことです。普通の魔族には通じませんが、完全に力に目覚めておらず、生きてきた時間が短い幼子には有効な魔術です。


 私とヘリオスは、テリオスと三日三晩戦い続けましたが、テリオスの力は強大でアリスを奪い返し逃げるのが精一杯でした。

 そのときには・・・・・・すでにアリスの記憶は奪われていて・・・・・・幸い心までは侵入されていなかったので、私たちはアリスに封印をかけることにしたのです。

 魔族としての力、潜在能力を封印しさらに人の少年の姿に変え、地表へ連れて行きました。

 ・・・・・・私たち姉弟は弱く、お父様とお母様が殺されたあの時、私たちにはそれしかアリスの『心』を守る方法がなかったのです・・・・・・。

 本来なら地表の安全な場所へ送りたかったのですが・・・・・・追ってきたテリオスとまた戦闘になって・・・・・・その時にアリスとはぐれてしまいました。


 ・・・・・・その後のことは、アリス自身が良く知っているでしょう。



 話し終えるとセレーネが紅い瞳から雫を一筋流した。

「・・・・・・ごめんなさい、アリス。私たちが弱かったばかりに・・・・・・」

「すまない・・・・・・。だけど、これだけは信じて欲しい。僕たちは強くなって、君を迎えに行くつもりだった。だから・・・・・・」

 そういうヘリオスの頬にも涙が一つ流れる。

 向かい合って座っていたヴァンが息を深く吐いた。

「・・・・・・あんたたちが謝ることは、無い。・・・・・・助けてくれて、ありがとう」

 ヴァンの胸のうちには、様々な感情が渦巻いている。それでも、目の前に座る二人は、本当に自分のことを想ってくれていることだけは分かった。

 礼を言われたセレーネは両手で顔を覆い嗚咽を漏らし、ヘリオスもうつむき、涙をぽたぽたと落とす。

「・・・・・・」

 結局二人が落ち着くまで、その部屋には沈黙だけが存在することになった。



「ということは、元々女の子だったから、男の姿に戻らなかったのね?」

「はい、おそらく。聞いた感じ、アリアさんがこの子に使った魔術は『真の姿』に戻す魔術だと思いますので」

 落ち着いたセレーネとアリアが話している。ヘリオスもそれに参加していた。

「だが、それだと、封印が完全に解けていないのは妙じゃないか?」

「それは多分、その前にヴァンを女の子に変えちゃったからじゃないかしら?」

「そうかもしれませんね・・・・・・。これも推測になりますが、アリアさんがヴァンを男に戻そうとして使ったとき解除されたのが、『女性の姿にされた男性の姿』だったのかも。それなら魔族としての潜在能力の封印がその時点で解かれ無かったのも合点がいきます」

「じゃあ、魔力切れを起こしてヴァンの髪と目が魔族のそれに戻ったのは?」

「おそらく、潜在能力ではなく魔力のみがあふれ出た形になったんだろう。少しの穴でも、中の水が大量ならすぐに決壊する」

 ヴァンのことについて話し合ってるのだが、当の本人とフラン、すっかり空気になったウラカーンは何を話しているのかさっぱり分からない。

 封印というのもピンとこない上に、魔術について詳しくないからだ。

 ぼうっとしていたヴァンが視線に気づく。向くと、セレーネとヘリオスがヴァンを微笑みながら眺めていた。

「な、なんだ?」

 少したじろぎ、ヴァンが聞く。二人は嬉しそうな顔をして口を開いた。

「ごめんなさい、あなたが・・・・・・私たちの目の前にいることが嬉しくて」

「あぁ。はぐれたときは、もう二度と会えないかもしれないと思ったが・・・・・・こうして、元気な姿が見られている。もし神が居るなら、僕は初めて感謝しても良い」

 ニコニコと笑うセレーネとヘリオスに、ヴァンは気恥ずかしげに顔を背ける。この二人と過ごしたであろう幼少時の記憶が無いので、そんなことを言われても何と返して良いかわからない。

 返事に窮しているヴァンをみて、フランが助け舟を出した。

「では、おぬしらはどうやってここまで来たんじゃ? ヴァンが居るところが分かっておったんじゃろう? あの魔獣もそれを知っておった節があったしのぅ」

 たずねられ、ヘリオスがフランに視線を向ける。

「あぁ、それについては、あなたに礼を言わないといけないな、フランさん」

 わしに? と首をかしげるフラン。

「フランさんが教えたんでしょう? 『フォカーテの香水』の使い方を、この子に」

 いきなり秘宝の名が出てきて、フランどころかヴァンとアリアも訳が分からなくなってきた。

 怪訝な表情をする三人に、セレーネも不思議そうな顔をする。

「・・・・・・フランさんのその弓、秘宝ですよね? フランさんは秘宝に詳しいのでは?」

 フランが背負う秘宝『リャルトーの弓』を指差し、セレーネが言った。フランも秘宝に目を向けるが、それでも意味が分からない。

「確かにわしは秘宝を探しておるし、この弓も秘宝じゃが・・・・・・『フォカーテの香水』の使い方なぞ分からんぞ? というか、あれは惚れ薬ではなかったのか?」

「ははっ、惚れ薬? そんなもの、わざわざ創るわけが無い。『フォカーテの香水』は香りをつけた者に好意を寄せる人物が、香水の使用者の居所を知るための物だ」

「なっ!?」

 三人に衝撃が走り、ウラカーンは「それは便利だねー」とのんきな声を出している。

 本当に驚いている様子のヴァンたちをみて、セレーネとヘリオスが戸惑った。

「知らなかったのですか・・・・・・? それでは、何故『フォカーテの香水』を使っていたのです?」

「使っていないっ。あれはあの時、炎に包まれたらいつの間にかなくなっていて・・・・・・」

 ヴァンの言葉にセレーネたちが面食らう。

「無くなった? 炎?」

 今度は二人が訳が分からないといった顔で目を合わせるが、何かに気づいたようにヴァンを見て同時に叫ぶ。

「アリス!!」

「え? わっ!?」

 突然セレーネとヘリオスがヴァンの両手を掴み、自分たちにぐいっと引っ張った。

 向かい合って座っていた二人とヴァンの間にはテーブルがあったので、ヴァンはそれに乗り出す形となる。

「な、なにを」

 抗議の声を上げようとしたヴァンの鎖骨のあたりに、二人が鼻をうずめてきた。

「ひゃんっ」

 首の臭いをかがれ、びくっと体を固まらせるヴァン。

「ちょ、ちょっと! 何してるのよ!!」

 怒鳴るアリアだが二人は気にせずにくんくんとヴァンの首筋を嗅いでいる。

 匂いを嗅がれていることに顔を赤くしたヴァンが何とか言葉を発した。

「お、いっ、くすぐ、たいっ、やめろっ」

 それでも嗅ぎ続ける二人から、アリアがヴァンを引っ張り戻す。

「いい加減離しなさい!」

 戻される力が少し強く、ヴァンは背中を椅子の背もたれに強打した。

「つぅ・・・・・・」

 背中をさすりながら二人に目を向けると、セレーネとヘリオスは赤くなってるヴァンと真逆の顔面蒼白になっている。

「なんてことだ・・・・・・」

「・・・・・・秘宝を吸収してしまったんですね・・・・・・」

 苦しげな表情でしぼるように言うセレーネたちに、アリアが説明を求めた。

「吸収? どういうことよ?」

 セレーネがちらとアリアを見て問い返す。

「あなた・・・・・・アリスのことが好きですか?」

 急な質問に頬を染めるがしっかりとした声で答えた。

「えぇ。好きよ。それが?」

 直球なアリアにヴァンの顔がさらに赤くなる。

「・・・・・・近くにいて、甘い香りをかいだことは?」

「え? ・・・・・・うーん・・・・・・ヴァンはいつも甘い匂いしてるけど・・・・・・ねぇ?」

「うむ。おかげでわしも目覚めてしまったくらいじゃからな」

「あぁー、ヴァンちゃんの甘い香りって香水だったんだー」

「そうなのか・・・・・・? 自分では分からないが・・・・・・」

 三者とも同じことをいうので、くんくんと自分の腕をかぐヴァン。

 ヘリオスがため息をつく。

「それが『フォカーテの香水』の匂いだ。ヴァンに好意を抱いていればどこまでも香ってくる・・・・・・だから、僕たちもヴァンの居場所が分かった」

「香ってくる頻度から考えて、ヴァンに吸収された『フォカーテの香水』は魔力を使うごとに効果が発動しているようですね・・・・・・。困りました・・・・・・テリオスはまだアリスを狙っているというのに」

 最初、きょとんとしていたヴァンと三人だったが、段々とそれの意味が頭の中に染み渡っていく。

 ヴァンは、ふぅん、と他人事のように呟くが、アリアたちはかなり動揺していた。

「ちょ、ちょっと待たんか! それってつまり・・・・・・!」

「どこの誰でも、少しでもヴァンのことを『あ、あの子かわいいなー』とか考えたら!」

「誰でもヴァンちゃんの場所が分かっちゃうって、ことー!?」

 アリアとフラン、そしてウラカーンの叫びに、セレーネとヘリオスが重くうなずく。

「そういう、ことです」

「な、なにをそんなに慌ててるんだ?」

 事の重大さに気づいていない――というか、そこまで人に好かれることは無いだろうと思っている――ヴァンを見て、セレーネたちを含めた五人の胸のうちに不安がつのり、

「(ダメだこれは! 早くなんとかしなければ!!)」

 声にこそ出さなかったが、ヴァン以外の全員は心の中で同時に誓った。


呼んで頂きありがとうございます。

むーん、グダグダーノ。私のことはザ・グダグダーと呼んでください。

というわけで、フォカーテの香水がどこにいったか明らかになりました、はい。

お話が少し進んだかも? たぶん。

感想批評、大大歓迎でございます!

「ヘイユー、これっておかしくないかい?」とか是非ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ