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第五十二話

「ヴァン・・・・・・」

 アリアがフランに背負われたヴァンを心配げな顔で覗き込む。

「落ち着け、アリア。ただ気を失っておるだけじゃて。体温が少し高いが、呼吸もしとるし、心臓も動いておる。多分、以前のように魔力切れによる失神じゃろう」

 歩きながらも背中から感じる、生きているという感触をアリアに伝えるフラン。

 そんな三人に後ろからついてくるウラカーンが、なははーと笑った。

「ほんとにねー、アリアちゃんは心配性だなー、宿について医者を呼べば万事解決大安心ってやつだよー」

 ウラカーンは両腕にそこら辺で見つけた布を巻きつけ手を隠し、その中からは鉤爪が伸びている。

 アリアがウラカーンを睨んだ。

「心配なんだから、しょうがないじゃないっ。ていうか、あんたいつまでついてくる気なの?」

「そりゃもちろん、宿までだよー。オレっちもヴァンちゃんが心配だしー」

 間延びした声を出すウラカーンに、アリアはふんっと鼻を鳴らしただけで、強く言わない。闘技場での戦いで、ヴァンのことを二回助けてくれたし、自分も詠唱中に守られているからだ。

 今三人は気絶したヴァンと闘技場から宿屋へ向かっている。ヴァンが倒れたときは死んでしまったのかと冷や汗をかいたが、破れたドレスから見えた白い肌は血にこそ濡れていたものの傷は全くない上に、呼吸もしていてただ気絶していただけ。

 それが分かったとき、アリアの瞳からまた大粒の涙が溢れ、ずっと抱きしめていたせいで、ヴァンを運ぶのが遅れてしまった。

 ちなみに、ヴァンの体を見ようとしたウラカーンは、フランの弓で軽く殴られたのだが、まぁそれは今は関係のないことだ。


「む?」

 前を向いていたフランが気づき、立ち止まる。アリアはヴァンを見ていたので、それに怪訝な表情を浮かべ、たずねた。

「どうしたの? はやくヴァンを」

「アリアちゃん、前前ー」

 アリアの言葉を遮って、ウラカーンがヒラヒラと爪で前方を指差す。

「なに?」

 促されるまま前を見るアリアの視界に二人組の人が視界に入ってきた。

 一般人かと思ったが、他の人々は、闘技場に乱入してきた魔獣の騒ぎで避難所へ逃げ隠れているはずだ。こんな大通りに居るはずがない。

 あり得るとすれば、この首都に駐在している騎士団や衛兵たちだが、彼らはアリアたちが闘技場から出てきたときと入れ替わりで闘技場に入っていったので、やはり、この大通りには居ないはずだ。

 じっとこちらへくる二人組を見据え、ある程度距離が縮まったとき、アリアとフランが息を呑む。

 二人組は男性と女性だった。男のほうは所々尖った髪型に、白い肌着の上から黒い革服を羽織り、前をはだけさせて、黒い革ズボンという格好。

 女性は、黒を基調とした赤いフリルのついたドレスを身につけていた。

 アリアとフランが、驚いたのは、その髪の色と瞳の色にある。

 光を受け輝く真っ白な髪に、血のように紅い瞳。ヴァンと、同じ。

 二人組は立ち止まり、フランに背負われているヴァンを見て目を見開いた。

「あなたたちっ、 その子を、アリスを放しなさい!」

 女性が怒鳴る。三人は目を白黒させたが、アリアが先に復活し怒鳴り返す。

「アリスって誰よっ」

「とぼけるなっ、そのハーフエルフが背負っている可愛い子のことだ!」

 今度は男が叫んだ。人目でハーフエルフと看破されたフランの表情が驚愕に塗りつぶされる。

 アリアはそれを気にせず叫び返した。

「確かにこの子はものすっごくかわいいけど、名前はヴァンよっ、アリスじゃないわ!」

「そんなことをいって、私たちを騙すつもりですね!? あなたたちがテリオスの手下だというのは分かっているのです!」

「テリオス・・・・・・? 誰じゃ、それは」

「白を切るつもりか、とにかく、アリスを返せ!」

「・・・・・・あのー・・・・・・」

「アリスじゃないって言ってるでしょっ、ていうか、返せってなによ! さてはあんたたち、さっき襲ってきた魔獣の仲間ね!?」

「誰が獣の仲間か! その前に、何故アリスは気を失っている? 貴様ら、手荒な真似をしたな!」

「もしもーし・・・・・・?」

「手荒な真似? 手荒な真似ですって!? ヴァンを殺そうとしておいて、よくそんなことが言えるわね!」

「なっ、あなたたち、その子を殺すつもりなのですか!? そんなことは絶対にさせません!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 二人組と言い争うアリア。途中で入っているのはウラカーンのものだ。

 そこで、ヴァンの目が覚めた。

「ん・・・・・・んん・・・・・・ここは・・・・・・?」

 高く、それでいて甘えるような声が一つ。それだけで言い争う声がピタリと止んだ。

「起きたかえ?」

 フランがヴァンを下ろす。

 ヴァンは目を片手でごしごしとこすった。

「ん・・・・・・今日は闘技大会の日か・・・・・・アリア、フラン、行くぞー」

「・・・・・・ヴァン、それはもう終わったぞい」

 明らかに寝ぼけているヴァンに、その場に居る全員の視線が集まる。

「終わった・・・・・・? あぁ、寝過ごしちゃったのか・・・・・・悪いな、フラン・・・・・・」

 ぼーっとした目でフラフラと体を揺らす。

「いや、そうでなくてじゃな。先ほど、魔獣と戦ったじゃろう?」

「魔獣・・・・・・・・・・・・」

 ぽつりと呟いた後、だんだんと瞳に浮かぶ意思の光が強まってきた。

「はっ、そうだ、あいつは!? ていうか、俺は確かあいつに・・・・・・あ、あれ、傷がない。でも、ドレス破かれてるし・・・・・・あっ、アリア、そうだっ、確かアリアが暴走してて、それで・・・・・・!」

 一気に思い出したせいか、あたふたと自分の体を触り、あたりを見回し、アリアを発見すると、動きを止める。

「・・・・・・」

「・・・・・・ヴァ、ヴァン?」

 目を見開いた状態でアリアを見上げるヴァン。名前を呼ばれ、目の水分が豊富になっていく。

「ア、アリアー!」

「きゃっ、ど、どうしたの?」

 がばっとアリアに抱きつく。

「よく覚えてないけど、アリアが、いなくなりそうだったことは、覚えて・・・・・・うっく」

 ぎゅっと抱きしめながら、ヴァンが湿った声を漏らした。

 実際居なくなりそうだったのはヴァンだったのだが。

「ヴァン・・・・・・」

 アリアがヴァンの頭を撫でようと手を伸ばすと、ぴたっとまたヴァンの動きが止まる。

「・・・・・・?」

 首をかしげるフランとアリア。ヴァンがゆっくりと離れると、再度アリアを見上げた。

「・・・・・・」

 アリアと視線があうと、顔を紅くして俯く。どうやら、抱きつくまで寝ぼけていたようだ。

「・・・・・・目、覚めたかの?」

 フランの言葉にヴァンが、こくん、とうなずく。

 取り残された二人組とウラカーンは、とりあえずその光景を眺めているしか出来なかった。



「こほん・・・・・・つまり、あなた方はアリスを守ってくださったのですね?」

 ヴァンたちが借りた部屋、その椅子に座り、女性、セレーネがアリアとフラン、ウラカーンに確認を取る。

 ヴァンが混乱し、寝ぼけるという自体がおさまったあと、ヴァンが二人組に「・・・・・・それで、あなたがたは?」と聞いてくれたことにより、なんとか話が進み――といっても、誤解を解くことと自己紹介程度――、こうして一同宿屋に会している。

「まぁ、守っていたというのは語弊があるがのぅ。ところで、アリスというのはヴァンのことなのかえ?」

 壁に寄りかかりフランが尋ねた。どう考えても女の名前である。確かヴァンは元男だと聞いたが・・・・・・。

「はい、そうですよ? あ、今はヴァンと名乗っているのですね。では、そちらにあわせましょうか」

「それは良いんだけど・・・・・・あなたたち、ヴァンのなんなの?」

 セレーネとヘリオスがお互いの顔を見合わせ、ヴァンを見た。

「僕たちは、アリス・・・・・・ヴァンの兄と姉だ」

「なんだとっ?」

 一番驚いたのはヴァンだ。今は血のべっとりついたドレスではなく、宿屋のバスローブをつけている。

「待て、待て待て。確かに俺には幼い頃の記憶がないが、だけど、いくらなんでも」

「落ち着いてください。・・・・・・ヴァン」

 二人とも、ヴァン、と呼ぶのに抵抗があるようだ。

「まず、順を追って説明しようか。・・・・・・その前に聞きたいことがあるんだが、何故ヴァンは少女の姿に?」

 ヘリオスの問いにアリアがヴァンと視線を合わせ、ヴァンがうなずいたのを確認すると、アリアがその経緯を話した。

「なるほど・・・・・・では、封印が完全に解けたわけではないのですね」

「封印?」

 聞きなれない単語に、ヴァンが聞き返す。

「あぁ。それを交えて、説明しよう。・・・・・・まず、僕たちとヴァンは、人間じゃない。魔の者・・・・・・君たちの言うところ、『魔族』という種族だ」

 これには全員が目を見開いた。

「私たち魔族は、皆真っ白な髪と紅い瞳を持っています」

 自らの髪と瞳とヴァンのそれらを交互に指差し、セレーネが言う。

 アリアが口を開き、それに反論する。

「で、でも、ヴァンは元々、ええと、男のときはどっちも真っ赤で、女の子にしちゃったときは、両方とも青かったのよ?」

「うむ、男のときは知らんが、女のときはわしも確かにみたぞい。白くなったのはショック状態に陥ったからじゃと、医者から聞いたのじゃが?」

 フランもそれに続くが、セレーネは首を横に振った。

「それはそのお医者様が勘違いをなさったんですね。そもそも、あなた方人にとって色とは魔力の色、白の属性など、存在しますか?」

 逆に問われ、アリアとフランが言葉に詰まる。ウラカーンが代わりに口を出した。

「あんたたちのそれはー? なんで白いのー?」

「私たちの髪が白いのは、全属性が先天属性であるから、といわれています。はるか昔から私たちの姿はこうですので、改めて問われても正確に答えることはできませんよ」

 つまり全部混じってるわけねー、とウラカーンが結論付ける。

「そんなことはどうでもいい!」

 突然ヴァンが怒鳴った。全員が目を見開き、視線をヴァンに向ける。

「色がどうとか属性がどうとか、どうでもいいんだ。はやく先を話してくれ。封印とは何か、本当に俺が魔族だとして何故今まで人として生きてきたのか・・・・・・俺の幼い頃の記憶がないのも、そのせいなのか?」

 セレーネとヘリオスは、ヴァンの言葉に再度顔を見合わせると、またヴァンを見た。

「そうですね・・・・・・では、ちょっと昔話をしましょうか」

 セレーネは一呼吸置きゆっくり口を開く。



 私たち魔族は、この大陸中心の大空洞、その遥か底『魔界』に住んでいます。

 そこは太陽の光こそ入ってはきませんが、地表となんら変わらない世界です。

 ある日、私たち姉弟に、一人のとっても可愛い妹が出来ました。

 その子の名前は『アリス』。魔族ではあり得ないほど美しい魂を持った私たちの妹の噂は、瞬く間に魔界全土にひろが


「まてまてまてー!」

 語るセレーネの話を、ヴァンが遮る。

「はい? どうしました?」

 話せと言われたから話していてそれを言った本人に邪魔されたセレーネだが、嫌な顔せずヴァンに聞き返した。

「い、いもうと? 弟の間違いだろう? 俺はアリアの魔術で女になったわけで」

「そういえば、あなたたち、さっき一目でヴァンのことを分かってたわね?」

 二人の言葉にヘリオスが、あぁ、と思い出したように説明する。

「これはあとでまた封印について詳しく話すが、アリ・・・・・・ヴァン、君は元々女性だ」

 衝撃的な事実をヘリオスがさらりと告白した。

 あまりのインパクトに部屋の時が一瞬止まる。

「な、な、なんだとー!?」

 ヴァンはこの日一番の大きな驚愕の声を上げた。


呼んで頂きありがとうございます。

出会いましたね、二人と四人。正直、キャラたちを操りきれるかどうか・・・ゴ、ゴクリ。

がんばりますよ!

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