第五十一話
またまた戦闘です。かっこ良く書けたかな?
草花咲き乱れる草原で、想像を絶する激闘が繰り広げられている。
ローブを脱ぎ去り、空中に浮かぶセレーネ。身をつけているのは、黒を基調に赤いフリルがついたドレスと、足を全て隠している長いドレススカート。
その四肢は色のない炎のようなものに包まれていた。
「はぁぁぁっ!!」
両手を交互に幾度も突き出し、セレーネ自身ほどもある光の矢をいくつも発射する。
狙うは地面すれすれを飛行するローブを羽織ったままのテリオス。降りかかり光矢の合間を飛ぶ。矢はどれもテリオスに当たることなく、草原を抉っていった。
「でぇぇい!」
テリオスの進行方向を読み、ヘリオスが頭上から光で出来た大剣を振り下ろす。
ヘリオスもローブを脱ぎ捨てていて、白い肌着の上から黒い革服を羽織り、黒い革ズボンという格好だ。
四肢にはセレーネと同じ見えない炎が揺らめいている。
「ふっ」
迫り来る大剣に、恐怖を微塵も感じていない笑いをもらすと、テリオスの飛行軌道が直角に曲がった。
轟音が鳴り響き、草原に大剣が深くめり込む。
「ちっ」
ヘリオスが大剣を引き抜く。その大剣はヘリオスの身長より大きく、横幅もまたそれ以上だった。
「なるほど、なるほど。たしかに、あの時より幾分か強くなっているようだな」
テリオスが宙に浮き、ヘリオスを見下ろす。視界にセレーネも入ってきた。
「・・・・・・ヘリオス、あまり遅くなるのは」
地に足をつけず、ヘリオスのそばで浮かぶセレーネが弟に視線を向ける。
「分かっている」
ヘリオスもセレーネに視線を返し、うなずく。
「ふっ、私を倒す算段か? 無駄なことを」
先ほどから避けるだけの男を睨み上げた。
「何度も言わせるな。あんたをさっさと倒して、あの子を迎えに行く」
「あなたにはあの子は渡しません」
二人がお互いに少し距離をとり、四肢をおおう魔力を解き、光の大剣も消す。
いきなり武装解除したセレーネたちに、テリオスが眉をひそめる。ヘリオスはそんな男を見上げながら、唇を笑みの形にゆがめた。
「僕たちが考えた、あの子を守るための力・・・・・・味わえ」
セレーネとヘリオスが口を開き、詠唱をはじめる。
「我の力は護るために。我の力は戦うために。我が身に巡る魔の力よ、想いを力にかえたまへ。愛する者に仇なす者を、滅する力、我が身に宿せ!」
そこまで同時に詠い、次は違う言霊を叫ぶ。
「我求むは、戦う力! ファンタズマ・ブリガンダイン!!」
「我求むは、護る力! テアー・フィスティニア!!」
瞬間、二人の体から衝撃と激しい光が発せられる。その光の強さにヘリオスが目を細めた。
徐々に収まっていく激光ののち、セレーネとヘリオスの姿が現れる。
「ほぉ・・・・・・」
思わず感じ入った呟きを漏らす。二人の格好は全く別物になっていた。
セレーネは、煌くティアラをかぶり、胸元を大きく開けた黄金に輝くドレス風の魔装を身に着けている。足を全て隠していたスカートも、前方だけが切り抜かれたようになっていて少し短く、それ以外の部分は長い。
体の回りには大きな薄い魔布が浮かび、両端をセレーネの両腕に巻きつけ、背後で弧を描いている。
両肩とスカートの左右には白銀の鎧が貼り付けられていて、戦乙女という言葉がふさわしい。
一方、ヘリオスのほうは、こちらも白く輝く鎧の姿に変わっていた。
真ん中に宝石がはめ込まれた額鉄をつけ、胸、両肩、両腕、両手首、両手、腰、両膝、両脛、両足首、両足が間隔をあけて鎧に守られている。いわゆる、軽鎧というやつだろう。
胸と腰、脛の鎧は黄金に輝き、それ以外の部分は白銀だ。
二人とも時折魔力がバチっと音を立ててはじける。
「これはこれは・・・・・・『超鎧魔術』を再現するとは。私はそれほどまでに警戒されていたのか。くくっ、光栄だな」
余裕の表情を浮かべるテリオスだが、内心驚いていた。まさか、これほどのものを出してくるとは思わなかったからだ。
ヘリオスが不敵な笑みを浮かべる。
「その余裕・・・・・・いつまで持つかな?」
両腕をあげ、振り下ろす。先ほどの光り輝く大剣が二振り、ヘリオスに握られた。
「これで終わりにします」
ふわっと上昇し、左手を横に薙ぐと、セレーネの周囲に魔力の塊がいくつも出現する。
左腕を下ろすと今度は右手を上げた。魔力の塊が次々と矢の形をなしていく。
「・・・・・・良かろう、私も本気を出させてもらう!」
ローブを剥ぎ取り自らの外装をさらけ出した。テリオスが先ほどまで身に纏っていた革服と似た白い革服だ。
更なる闘いの幕が開ける。
「行くぞっ!!」
ヘリオスが大剣を振り回し、テリオス目掛けて跳躍した。
「はっ!」
次いでセレーネが高く上げた右手を振り下ろす。無数の魔矢がテリオスに迫る。
「数を増やせば当たるわけでもあるまい!」
ヘリオスが右手を突き出し魔力を放とうとした。が、魔矢は突然軌道をかえ、ばらばらな動きでヘリオスの周辺を飛びまわる。
「ぬっ!?」
「誰があなたに当てるものだといいましたか? それらは・・・・・・」
微笑みを浮かべる姉の言葉を、テリオスの下方から跳んできた弟が続けた。
「僕の足場だ」
一つの矢を蹴り、さらに上昇し左手の大剣を右に薙ぐ。
「くっ」
紙一重で避けるが、セレーネがヘリオスの跳ぶほうへ魔矢を動かす。それにヘリオスが足をかけた。
「はぁぁっ!」
蹴る。右手に握る大剣を振り下ろす。さらにそれもかわす敵に、ヘリオスが速度を上げた。
「ぬっ、おぉぉ!?」
三撃目以降はもはや避けることが出来ない。魔力で創られた大剣では斬ることができないが、強烈な打撃を与えることはできる。
「がっ!」
喰らい、宙で体勢を崩すテリオス。ヘリオスがさらに加速した。
「でやああああああっ!」
跳躍。打撃。跳躍。打撃。跳躍。打撃。跳躍。打撃。跳躍打撃。跳躍打撃。跳躍打撃。打撃打撃打撃打撃。
すでに目で追うことの出来ない速度になったヘリオスの大剣に、魔矢の部屋中心でテリオスの体が踊る踊る踊る。
「ぜぇいっ!!」
一際大きな気合を出し、ヘリオスが最後の魔矢を蹴り、地上へ飛び降りながら一閃。
轟音をならし、着地する。
無数の魔矢に囲まれテリオスの体が重力に逆らって浮いている中、セレーネがくすっと笑った。
「テリオス、謝ることがあります。私、本当は当てるつもりでした」
右手をすっと横に薙ぐ。瞬間。足場とだけなっていた大量の魔矢が、全てテリオスに集まる。
連続する爆音が草原に響いた。
恐るべきはそれらの攻撃をすべて可能にした二人の『超鎧魔術』と、完全に息の合ったコンビネーションか。
地に立ち、真上を見上げるヘリオスは再度大剣を構える。セレーネも魔弾を出現させた。
あれほどの攻撃を受けたなら、これで終わりそうなものだが、二人は油断しない。なにせ、テリオスには過去苦汁を舐めさせられたときがあるからだ。
魔力爆発による黒煙が消えていく。二人が息を呑んだ。
「そんな・・・・・・!」
「バカな・・・・・・!」
二人はそれを見て目を疑った。
目に入ったテリオスが、漆黒の鎧に包まれていたのだ。
ヘリオスのような軽鎧ではなく、全身を覆うフルアーマーだ。肩当ては鋭く尖り、両肘と両肘も同じく尖り、指の部分も先が鋭利なもの。
顔を隠している兜は赤い瞳だけが見え、左右から曲がりくねった角が前へと突き出されている。
「何をそんなに驚いている? 私が『超鎧魔術』について、何も調べなかったと思っていたのか? ふっ、力を求めているのは、そなたらだけじゃないのだぞ」
フルフェイスから出る声は兜の中で反響してくぐもっていた。
セレーネとヘリオスがテリオスをきつく睨む。
「さて、第三幕といくとしようか?」
テリオスが手のひらを上に向け、指をくいくいと動かす。
両足に力をこめ、ヘリオスが叫んだ。
「いや・・・・・・これが終幕だ!!」
地を蹴る。ヘリオスは右手に魔力を集中し、黒く光る両刃剣を出現させた。
「せぇいっ!」
「ふんっ!」
斬り上げる大剣を黒剣を振り下ろすことで抑える。
「でやぁぁぁぁっ!」
「ぬぉぉぉぉぉっ!」
二振りの大剣が何度も振り回され、その度に黒剣とぶつかり合う。
「行きなさいっ」
そこにセレーネが魔弾を発射させた。二人に向かう魔力の塊は途中で矢に変わり加速する。
テリオスが大剣をはじき、ヘリオスの腹へ蹴りを落とす。
「がっ!」
蹴られたヘリオスがかなりの速さで墜ちていく。すぐにそれから視線を魔矢へ移し、黒剣を持ってない左手をセレーネのほうへ向けた。
「はっ!」
手のひらから、いくつもの黒い魔弾が飛び出し、セレーネの魔矢たちと相打っていく。
「ふははっ」
湧き上がる力にテリオスが笑う。セレーネの魔矢を全て撃ち落した後、右の黒剣を二度振った。
その軌道に沿って、弧を描く黒い魔力の波が二つ、セレーネに迫る。
「っ!」
セレーネは両手を前に突き出して、魔力障壁を張り波を受け止めた。
「くあっ」
障壁を通して衝撃が体に走る。予想以上の力に耐えるため、目を瞑ってしまう。
「敵を目前にして視界を閉ざすとは愚かだぞ、セレェェェネェェェ!」
すぐ目の前から聞こえる叫びに、びくっと肩を震わせ、目を開く。そこには漆黒の鎧が黒剣を振り上げる姿があった。
「させるかぁっ!」
黒剣を振り下ろす途中で、ヘリオスが横から突撃する。
白と黒の鎧が重なり白が黒を押していく。
「ぐぅぅぅ!」
「むぉぉぉ!」
大剣を交差させ振りぬこうとし、それを黒剣が二つの大剣の中心をおさえる。
接触する部分から白と黒の火花が激しく散った。
「ふっ!」
突然ヘリオスが力を抜き、すばやく後退する。押していたところを急に引かれ、テリオスの体勢が前のめりに崩れた。
「む? ぐあっ!」
視界からヘリオスが消えると、かわりに巨大な魔弾があらわれ、直撃する。
「かぁっ!」
全身にぶつかってくる巨弾を黒剣で微塵に切り裂く。爆散する魔力の中から、またヘリオスが視界に入ってきた。
「ぜりゃぁっ!」
「ごっ、がはぁ!」
左右の大剣で、一撃、二撃。漆黒の鎧に衝撃を与える。
「おのれっ、二人がかりとは卑怯なっ!」
「今更それを言うか!」
さらに大剣を振り回すが、黒剣と激しく音を響かせるだけになった。
「はぁっ、はぁっ」
「ふぅっ、ふぅっ」
「ん・・・・・・はっ、はっ」
両者共に地面に立ち、距離をとってにらみ合う。荒い呼吸は、ヘリオス、テリオス、セレーナの順だ。
先ほどまで光り輝いていたお互いの魔装は陰を帯びている。
「いい、かげん、諦めろっ」
「出来ん、相談、だな!」
「はぁっ、はぁっ」
ヘリオスが一振りになった大剣を構え、テリオスも少し細くなった両刃黒剣を持ち上げる。
セレーネはもう話せる状態じゃないが、右手に魔力の塊を出した。
最後の力を振り絞ろうとした時、獣の遠吠えと共に魔の者の気配が近づいてくる。
ヘリオスとセレーネが焦った表情で気配のする方を向く。視線の先に一匹の大型魔獣が四肢で地を蹴り、こちらへ駆けてくるのが見えた。
「くそっ・・・・・・ここにきて・・・・・・」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
二人が苦い顔をし、テリオスも走ってくる魔獣に目を向ける。フルフェイスなので、その表情は分からない。
段々とその魔獣の容貌がはっきりとしてきた。セレーネたちが目を見開く。
魔獣は傷だらけで、目の前まで来たというのに、魔の力がほとんど感じられない。
「ライカニクス? 何故ここに? では、あの子の近くにいるあの大きな魔の気配は誰なのだ?」
テリオスの言葉を聞き、先ほどからずっと感じていた大きな魔の者の気配は、この魔獣のではないことを知る二人。
魔の気配はいまだあの子の所にある・・・・・・それが二人の心に不安を生んだ。
「申し訳ございません、主殿。美しき者を見つけることは出来たのですが、この魔の気配は混ざり物の・・・・・・いえ、それよりもお話したいことが」
大型の魔獣、ライカニクスは自らの主人の前で頭を垂れた。
あれがテリオスの協力者・・・・・・ セレーネとヘリオスが魔獣を睨む。ライカニクスも二人を睨み返して、自らの主に報告をする。
「・・・・・・美しき者が力を見せました」
盗み聞きしていたセレーネたちの表情が驚愕に強張った。テリオスも息を呑む。
「なんだと・・・・・・? それは本当か?」
「はい、ほんの少しですが・・・・・・」
テリオスがアゴに手をおく。かちゃっと金属音が鳴った。
姉弟がそこで鼻をひくつかる。
「・・・・・・姉さん、あの子の香りが途切れてる」
「えぇ。・・・・・・完全には解けてないはず、急がないと」
姉の言葉にヘリオスがうなずき、大剣の切っ先をテリオスと魔獣へ向けた。
「そうと決まれば、あんたたちを今すぐ倒す」
セレーネも右手だけではなく、左手にも魔力の塊を出す。ライカニクスが主に敵対する二人にうなり声を上げた。
「・・・・・・計画を変更する必要がある、か」
ぽつりと呟き、テリオスが振り返る。
「帰るぞ、ライカニクス」
いきなりの帰宅宣言に、その場の全員が呆然とした。歩き出す主を慌てて魔獣が追いかける。
「待て、逃げる気か!」
ヘリオスが叫び、テリオスが首だけを動かす。
「逃げる? ふっ、面白い冗談だな。それより、そなたら、はやく愛しい妹のところへ行ったほうがいいのではないか? くくく、はははっ」
笑いを上げ、テリオスと魔獣が、文字通り消えた。
「・・・・・・」
二人の体から魔力が消え、魔装が砕け散る。光の粉が風に飛ばされ、セレーネたちは元の格好へ戻った。
テリオスが消えた場所をじっと見つめる弟に、セレーネが声をかける。
「なんのつもりかは分かりませんが、今はあの子のほうが心配です。急ぎましょう!」
「・・・・・・そうだな。行こう、アリスの下へ」
姉兄たちは戦闘の疲れを無視し、草原を奔った。
読んで頂きありがとうございます。
ヴァンの行方は次回です、はい。引っ張ってごめんなさい。
ちょっと高度、というか、強大な戦闘で頑張ってみました。いかがですか?
え? ヘリオスの攻撃、どこかでみたことある? キノセイデスヨ。
感想批評、めっちゃくちゃ大歓迎です鯛☆