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第五十話


ずっと戦闘です。

「フレイム・アロー!」

 アリアが叫び、魔獣へ向けて炎の尖矢を二度放つ。

「しっ!」

 フランが魔力を秘宝にこめ、創られた四本の矢を射る。

 合計六本の魔矢は奔るヴァンとウラカーンを高速で通り過ぎ、ライカニクスへ迫った。

「その程度、避けるまでもない!」

 魔獣が吼え、矢を体に受けながら突進してくる。

「はぁっ!!」

 炎のつるぎを振り下ろす。両刃剣は魔獣の頭にぶつかり、動かない。

「くっ、かたいっ」

 ぐんっと魔獣が頭を振り上げ、剣を押し返した。ヴァンの軽い体が宙に舞う。

「でぇいーっ!」

 ウラカーンの鋭い右鉤爪が魔獣の喉へ伸びる。魔獣が左足の爪でそれをおさえた。

「また力比べかー? 良いぜー!」

「混ざり物がっ、勝てると思ってるのか!」

 ウラカーンと魔獣がそれぞれの腕に力を入れる。みしみしと軋む音が聞こえた。

「バーニング・カラム!」

 そこにアリアの凛とした声が響く。魔獣が地面から来る魔力に素早く横へ跳んだ。

 魔獣が居た場所から炎の柱が噴き上がる。そして

「わちゃちゃちゃちゃちゃー!」

 バランスを崩したウラカーンに、火の粉が降ってきた。

「アリアちゃん! もう少しタイミング考えてよー!」

「うるさいわね! あんたこそ察しなさいよ!」

 ぎゃーぎゃーと言い合う二人にヴァンが叱り、次いでフランに叫ぶ。

「お前ら! こんな時に喧嘩するな! ・・・・・・フラン、行くぞ!」

「よしきた!」

 ヴァンが跳んだ魔獣へ疾走し、フランが弓を構える。

 秘宝に魔力を込めていき、矢を出現させた。その数、八本。

「『オピス』!」

 左手を赤く光る矢からはなすと、八本の矢は次々と発射されていく。

「はぁぁっ!」

 ヴァンは炎剣を軽く振り回し、ライカニクスの顔目掛けて薙いだ。

 魔獣がヴァンの攻撃を再度右へ跳び、避ける。魔矢も魔獣がいた地面に刺さるかと思われたが、赤く輝く光矢は地面すれすれで直角に曲がり、ライカニクスにぶつかっていく。

「ぬぅっ」

 空中で衝撃を受け、着地をずらされた魔獣の体勢が崩れる。ヴァンがその隙を逃すまいと地を蹴り奔った。

「てやぁっ!」

 跳び、地面に落下中の魔獣へ、すれ違い様の一閃。ライカニクスの腹部が裂け、そこが少し燃え上がった。

「ぬぐぁぁっ! ぐるがああああ!」

 傷つけられた痛みで魔獣が怒りの咆哮をあげ、着地した瞬間にヴァンへ跳びかかる。

 今度はヴァンが空中で身動きの取れない状態で隙を見せてしまった。

「あちょー!」

 気の抜けた叫び声と共に、ウラカーンが魔獣へ跳び蹴りを喰らわせる。魔獣が体をくの字にし、闘技場の壁にぶつかった。

「これでヴァンちゃん助けたの、二回目だねー?」

 同時に地面に降り立ったウラカーンがヴァンに笑顔を見せ、親指を立ててくる。

 そこで今度は後ろからアリアの怒鳴り声が飛んできた。

「さっさとどきなさいよ! 一緒に燃やすわよ!」

「え? おおぉ!?」

 ウラカーンが振り向き、目に入ってきた光景に慌ててその場から離れる。ヴァンも邪魔にならないよう後方へ跳んだ。

「喰らいなさいっ、ヴォルケーノ・クラスタァァァ!」

 両手を高くかざし、その上で集めていた超巨大な炎塊を闘技場の壁、そこにぶつかった魔獣へ投げつける。

 轟音と熱風を撒き散らし、ド級炎弾がライカニクスに直撃した。

 爆音が闘技場を揺らす。巨大な炎柱が天高く立ち昇った。

「どうかしら?」

 波打つ金髪を手で払い、アリアが勝ち誇った顔で笑う。

「相変わらず、加減を知らないというか・・・・・・」

 燃え上がる炎柱をみてヴァンが苦笑しながらも、闘技大会に出さないで、本当に良かったと切に思った。

「・・・・・・どうやら、まだみたいじゃのぉ」

 フランが呟く。炎柱に目をやると、炎が何かに吸い込まれるようにして小さくなっていく。

「ええー・・・・・・またー・・・・・・?」

 勝ち誇り顔から一転、心底嫌そうな顔をするアリア。ヴァンと初めて出会ったとき戦っていた魔獣も、炎があまり効かなかった。そのことを思い出しているのだろう。

 あっという間に炎は魔獣の口の中に吸い込まれていき、ライカニクスが、げふぅ、と少し炎を吐き出した。

「ふむ・・・・・・悪くない味だな。だが、どこか、形が雑だ」

 まるで料理を食べた後のように批評するライカニクス。アリアの眉がぴくっと動いた。

「そう・・・・・・熱くて喉が渇いたでしょ? 飲み物を差し上げるわ!」

 火が得意なら逆の属性を使えば良い。

「ウラカーン、フラン、時間を稼ぐぞ!」

 ヴァンはアリアが水属性を使うとき詠唱に時間がかかることを知っている。

「任せろいっ」

 フランが魔力で創った矢を二筋射った。ウラカーンも、人使い荒いなーとぼやきながら奔る。

「はぁぁっ」

 突っ込み、炎剣を振り上げるヴァン。当たりはするが、全く効果が見られない。

「ちっ・・・・・・!」

 魔矢が魔獣の体に刺さり、消える。出来る傷は小さなものだ。

「そいやー!」

 妙な掛け声を上げてウラカーンが魔獣の横腹に後ろ回し蹴りを突き刺す。

「ぬぐぅ!」

 魔獣が痛みに顔を歪め、うなり声を上げるが、すぐさま爪や牙をふるいヴァンとウラカーンを吹き飛ばした。

「くそっ!」

 ヴァンは着地しながら苛立ちを口から吐き出す。今この場で、足手まといになっているのはヴァンだけだ。

 アリアは炎が効かなくとも、土、水、風の三属性も操れるし、フランもまだ『矢』を二つ残している。ウラカーンにいたっては、半分魔獣だからか、その力がかなり強く、普通の物理攻撃で十分にダメージを与えていた。

 魔獣の注意も引くことが出来ない、何も出来ない自分に、苛立ちがつのっていく。

「おあああああっ!」

 ウラカーンの叫びに、ヴァンがはっと我に返る。視線を向けると、鉤爪の男が魔獣の口をおさえ、進行を邪魔していた。

 魔獣が走りぬけようとしている先には、詠唱しているアリア。ずっと使っている属性から違う属性を使うとき、魔力変換が一番時間がかかると言っていた。目を閉じ集中し、身から出る火の粉を少しずつ氷の結晶へ変えていっている。

 もしウラカーンが押し負ければ・・・・・・。

「くっ」

 最悪の映像が頭をよぎり、ヴァンはそれを振り払うように奔った。

「はぁぁぁぁっ!」

 魔獣のわき腹目掛けて、炎剣を突き出す。炎剣は刀身の半分ほど、魔獣の体に侵入し、肉を焼いていった。

「ぐがぁぁっ!」

 ライカニクスが突然の激痛に暴れ、左前足をヴァンに振り薙いだ。

「っ!」 

 炎剣を引き抜き、防ごうにも遅い。

魔獣の鋭利な爪はヴァンの黒いドレスを引きちぎり、それに包まれていた肢体の腹から胸にかけて、切り裂いていった。

 ドレスの破れる音と肉を裂く音が響き、鮮血が飛び散る。

「ヴァンっ!!!」

 ウラカーンの切羽詰った声に、アリアが目を開いてしまった。

「え・・・・・・ヴァ・・・・・・ン・・・・・・?」

 ふっと溜めていた魔力が消え血を噴出しながら倒れていく者の名を呼ぶ。信じたくない光景。

 ゆっくりと流れる時の中、ヴァンが完全に地面に体を預け、赤い水溜りを作った。

「い、いや・・・・・・いやあああああ!」

 アリアの慟哭が闘技場に響く。駆け寄ろうとする嘆きの少女をウラカーンが慌てて捕まえ、後方に下がる。

「よせ、アリア! 魔獣は君を狙ってるんだ!」

「離して! ヴァンが! ヴァンが!」

 ウラカーンの腕の中で暴れ、右腕をヴァンへ突き伸ばす。

 まずい、今襲われたら・・・・・・!

 焦るウラカーンだが、その危惧に反して、魔獣はヴァンを見下ろし顔をゆがめていた。

「我はなんということを・・・・・・あの方にどうお詫びすればいいのか・・・・・・」

 その言葉に、アリアの動きがぴたりと止まる。

 怪訝な顔をするウラカーンだが、次の瞬間、アリアの体からあふれ出る魔力の衝撃と熱量に吹き飛ばされた。

「許さない、許さない、許さない」

 ぶつぶつと呟き、魔獣を睨み、叫んだ。

「殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるー!!」

 アリアを中心に熱風が巻き上がり、周囲に炎を撒き散らした。離れたところにいるフランでさえ、全身が熱でチリチリ痛む。

 顔を左手で庇いながら呟いた。

「魔術の・・・・・・暴走、か!?」

 それはあのときのオスマンと同じ。

 かくいうフランも、出来ることなら『リャルトーの弓』を最大限まで使い、アリアのように暴走できれば、どれだけ気が楽だったか。だが、それではいけない。そうなってしまったら、本当に最悪の結果しかでない。

 暴走するアリアをみて、フランは何とか冷静を保たなければ、と己を戒めた。

「ああああああああ!!!」

 突き出したアリアの両手へ炎が集まっていく。炎は術者であるアリアにも傷を負わせていった。

「アリア・・・・・・! やめろ! ヴァンまで一緒に燃やすつもりか!」

 熱風と炎で動けないウラカーンが叫ぶが、アリアには聞こえていない。

 徐々に巨大化する炎に、魔獣が倒れるヴァンの前にたち吼えた。

「あれでは助けられる者も助けられん! アリアァ! 気をしっかり持たんかー!!」

 フランは熱の轟音と炎の燃え上がる音で聞こえないと分かっていても、叫ばずにおれなかった。

「あああああああ!! あ、ぁぁぁ・・・・・・ぁぁ」

 突然激しかった炎が弱まっていき、アリアの顔が怒りと憎しみの形相から呆然としたものに変わっていく。その視線の先は、魔獣のさらに後ろ。

 フランとウラカーン、魔獣の視線もそこへ集まる。

「なっ!?」

 驚きの声をあげたのは、ライカニクスだ。フランとウラカーンの目も大きく見開かれ、口を閉じることが出来ないでいる。

「あ、あぁ・・・・・・ヴァン・・・・・・」

 まるで迷子が自らの母を見つけたときのように、弱弱しく、それでいて心の底から安堵したような声で、ライカニクスの側に立つ者の名を呼んだ。


 その場の皆の視線を集めているのは、魔獣の横に力なく佇むヴァン。

 虚ろな瞳でアリアを見つめ、ドレスは血でさらにどす黒くなり、破れた間から見える白い肌は血に濡れ、痛々しい姿をしていたが、切り裂かれた傷はどこにもない。

「あり、えん・・・・・・!」

 魔獣の声は恐怖に彩られていた。それもそうだ。先ほどの感触は、明らかに、殺していたのだ。

 数多くの命を奪ってきたライカニクスだから分かる感触が、切り裂いた爪から伝わってきたはずなのに。

「・・・・・・」

 ヴァンがアリアと視線を交じ合わせたまま、戦慄せんりつする魔獣を左手でそっと触れた。

 刹那、ヴァンの左手から空間を歪ませるほどの力が放出される。ライカニクスの巨体にとてつもない衝撃が走り、吹き飛ばされた。

「ぬ、ぐがっ、がああああ!」

 魔獣は闘技場の地面を凄まじい速度で転がり、壁にぶつかる。しかしそこでも勢いはとまらず、観客席を抉りながら転がり上っていく。

 やっと動きが止まったのは、観客席の一番上、闘技場を一望できる場所だった。

 フランとウラカーンが転がる魔獣を目で追った後、ヴァンに視線を戻す。

「ヴァン、ヴァン・・・・・・」

 熱で浮かされたように名前を何度も呼ぶアリア。ヴァンがゆっくりと呼ばれるままに近づいていく。

 手の届く位置まで来たヴァンを、アリアが抱き寄せ、力強く抱きしめた。

「ヴァンっ、ヴァンっ!よかっ、よかった・・・・・・!」

 嗚咽を漏らし、大粒の雫が碧眼から流す。ヴァンはまだ少し虚ろな目をしていたが、両腕をアリアの背中に回して、撫でた。

「・・・・・・大丈夫。言ったでしょう、約束は必ず守るって。だから、はまだ死なない」

「うん・・・・・・っ、うんっ・・・・・・」

 それでも涙はとまらず、ヴァンの頭に顔をうずめた。アリアは、気づかなかった。

「・・・・・・今の力は、いったい・・・・・・」

 魔獣が転がり出来た抉り道を眺め、ウラカーンが呟く。

 フランも同じように視線を移動させ、はっとした。

「魔獣がおらん・・・・・・」

 どこかから不意打ちでもするつもりかと周りを見渡すが、あの巨体で、こんな見渡しのいい闘技場で、不意打ちなど出来るはずがない。

 どうやら逃げたようだ。

「ふぅ・・・・・・どうやら危機は去ったようじゃのう」

 安堵したのも束の間、アリアが悲鳴を上げる。

 慌てて顔を向けると、ヴァンがぐったりとして今にも倒れそうになっており、アリアがそれを必死に支えていた。

「ヴァン! ヴァン!!」

 悲しみに表情をゆがめアリアが悲痛な声で叫ぶ。ウラカーンとフランは急いで二人に駆け寄った。


呼んで頂きありがとうございます。ヴァンはいったいどうなってしまうのかー!

これから色々お話が進みそうな予感!

次回!『お前の血は何色だ』お楽しみにー!(←ちょ

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