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第四十九話


※返事がない、ただの屍のようだ

 時間は少しさかのぼり、 闘技場でヴァンとウラカーンが剣戟戦を披露していた頃。

 ローブを羽織った二人組が草原を疾走していた。凄まじい速度であるにもかかわらず、ローブはめくれない。

「ずっと香ってくる・・・・・・! 急ぐぞ!!」

「分かっています!」

 男が怒鳴り、女性も声を荒げる。

 そこで二人が気づく。草花広がる地面から大きな魔力が二人に向かってきていることに。

「姉さん!」

「えぇ!」

 二人が左右に跳ぶ。次の瞬間、奔っていた地面から巨大な柱を模した炎が噴き昇った。

 それぞれ草原に着地しながら振り返る。

 そこには二人と同じくローブを頭から深くかぶった長身の男が一人。

「テリオス・・・・・・!」

 二人組の男が怒りを隠さない声でローブの男の名を呼ぶ。

「テリオス・アフトクラトル!!」

 ローブの女性が、目の前の男、テリオスに向けて右腕を突き出した。ローブから見えた白い指は細い。

 広げられた右手の前に、光の円陣が出現する。手のひらと平行に浮かぶ陣から白く輝く光の矢がいくつも発射された。

 テリオスが左手を差し出し、魔力の障壁を張る。光の矢は男に一つもかすることなく、眼前で消し飛ばされた。

 攻撃が無駄だったことに、女性が舌打つ。

「ふっ、随分と嫌われたものだな、セレーネ、ヘリオス」

 言いながらローブに手をかけると、自らの顔を外気に晒した。

 真っ白な長い髪と鋭く赤い瞳を持つ、整った顔をしている。髪は全て後ろに撫でつけ、背中まである髪の先は切りそろえられていた。

「あいにくと、いきなり攻撃を仕掛けてくるような人を好きになれるほど、心は広くありませんので」

 女性もローブを外す。

 こちらも真っ白な髪に赤い瞳だ。草原の風にゆれる滑らかな髪はかなり長いらしく、ローブの中へ隠れている。

「僕たちがあんたのことを、少しでも好いてると思ったのか? 意外だな」

 もう一人の男も片手でローブを払う。

 こちらも真っ白な髪に赤い瞳を持っていた。ところどころ尖った髪型をしている。

 女性と男性、どちらも似た顔立ちをしていて、女性、セレーネのほうは、丸みをおびた瞳に小さな顔でどこか幼い感じがする。対して、男、ヘリオスは少しだけ鋭い瞳をしていたが、誠実そうな印象を受けた。

 ヘリオスがセレーネのことを、姉さん、と呼んでいたので二人は姉弟の関係なのだろう。似ているのもうなずける。

「ふむ、相変わらず、あの子に顔立ちだけは似ているな。美しい。顔だけ見れば」

 尖ったアゴを触りながら、テリオスが二人を交互に見て言った。

「・・・・・・まだあの子のことを諦めてなかったのか」

 ヘリオスが少しだけ鋭かった双眸を尖らせる。

「はっ、これは異なことを。諦める理由がどこにある? それに、私が諦めてなどおらぬことに気づいたゆえ、そなたらもここにいるのだろう?」

 唇をニヤリと歪ませてテリオスが肩をすくめた。

「えぇ。そうでなければ良いと何度も思いましたけれど」

 セレーネが両腕に魔力を込め、テリオスを睨む。隣の弟も同じように全身に魔力をめぐらせる。

「ほぅ。もしや私と戦うつもりか? やめておくのだな。過去、何があったか、忘れたわけではあるまい?」

 テリオスの言葉に、姉弟が苦しげな表情になったが、それは一瞬だった。

「私たちの力が不変であると考えるならば、あなたは私たちに負けます」

「あのときの僕たちじゃない・・・・・・! それを今からあんたに思い知らせてやる!」

「ふっ、それは楽しみだ」

 三人から魔力があふれ出る。どれも強大で、周囲の草花を潰し、大気を揺るがせ、空間を歪ませた。

 まさに一触即発。と、急に男がニヤリと笑った。

「・・・・・・何がおかしい?」

 睨みながら問うヘリオスに、男は含み笑いで答えた。

「くっく、いや、失敬。そなたらがあまりにも滑稽でな。まさか、気づいていないのか?」

「何を言って」

 セレーネが聞き返そうとし、息を呑んだ。ヘリオスも気づき、勢い良く振り返る。

 テリオスが笑う。

 二人が気づいたもの、それは『あの子』の魔力と共に出る甘い香りに、強い魔の者の力が紛れ込んでいることだ。

「ま、さか・・・・・・」

「さて、ここでそなたらに問おう。私はここに来て、もう二十数年になるが、その間、ただ凡々と過ごしていたと思うか? 私がそなたらをわざわざ攻撃し、私に注意をそらしたのは、何のためだ?」

 二人の頭から、問われるごとに答えが出た。

 つまり、テリオスには協力者がおり、そして、テリオスは二人を足止めしていた、ということ。

「もっとも、それに気づいたところで、私はそなたらを往かせぬがな」

 轟音を響かせ、テリオスの体から魔力がさらにあふれ出る。

 セレーネとヘリオスの表情に焦りと怒りが表れた。

「姉さん、あの子のところへ。テリオスは僕が食い止める」

 弟の言葉に、セレーネが叫ぶ。

「いけません! あなたが一人で敵う相手ではないのですよ!?」

「だが! そうしなければあの子が・・・・・・!」

「そなたら、私はどちらも往かせぬ、と言っているのだぞ?」

 テリオスが言いながら、二人の立つ地面から炎の柱を噴き上がらせる。

 すばやくそれを避けると、セレーネが弟に怒鳴った。

「もしもあなたに何かあれば、あの子が悲しみます! 今は二人でこの者を!」

 ヘリオスには分かった。姉もまた、焦っているのだと。

「くっ・・・・・・なら、さっさと終わらせてやる!!」

 ヘリオスが吼え、三人は魔力を解放させた。




「っ! アリア!!」

 地を蹴り、魔獣へ奔るヴァン。

 魔獣とアリアの距離は急激に縮まっていく。

「しっ!」

「ファイアボール!」

 フランが魔力で創った矢をライカニクスへ連続して射ち、アリアが右手から炎塊を何度も放つ。

 だが、魔矢は硬い獣毛にあっさり弾かれ、爆ぜる炎塊は魔獣の勢いを少しも衰えさせることが出来ない。

 ヴァンは魔獣に追いつけない。歯を食いしばり、さらに魔力を両足にめぐらせる。


 間に合え間に合え間に合え間に合え!


「あああああっ!!」

 ぐん、とヴァンの体が一気に加速した。魔獣は牙の並ぶ大口を開き、アリアに飛び掛っている。

 加速したヴァンはライカニクスを追い越し、アリアに勢いよくぶつかった。

「ヴァ・・・・・ンっ!」

 自らの体でアリアを庇うヴァンに、庇われた金髪の少女は次来る惨劇に悲鳴を上げそうになる。

 魔獣も赤い目を見開くが、もう止まれない。


 強烈な金属音が鳴り響く。

 死を覚悟したが、命を刈り取る牙はいつまでも襲ってこず、とうとうヴァンはアリアと共に地面を転がった。

「いやー、ヴァンちゃんって、意外と無茶するんだねー」

 二人で倒れこんだあと、後ろから聞こえてきたのは緊張感のない間延びした声。

 ヴァンがアリアの上で馬乗りになりながらも、慌てて振り返る。

 そこには、両手甲で魔獣の上下アゴをおさえているウラカーンの姿があった。

「ニンゲン・・・・・・! 貴様・・・・・・!」

 口を開いた状態で声を出すライカニクス。力を入れているのか、魔獣の口が震えていた。

 であるのに、ウラカーンは軽いものでも押さえているかのように、魔獣のアゴの力に耐えている。

「ヴァン! アリア! 平気か!?」

 倒れているアリアと、それに馬乗りになっているヴァンに、フランが駆け寄ってきた。

「あ、あぁ」

 ヴァンがアリアの上からどき、アリアもすぐに立ち上がる。二人の視線は魔獣と力比べをしているウラカーンに向けられていた。

「あー、ヴァンちゃん? できれば手伝って欲しいなー」

 ウラカーンの声に、呆然とみていたヴァンがはっと我に返る。

「があああああっ!」

「おお!?」

 魔獣が咆哮し、さらに力を込めてきた。ウラカーンの手甲が音をたてひび割れる。

「やばっ」

 すばやく手を引き抜くが、手甲が砕け、魔獣に咀嚼そしゃくされた。

「なっ!? お前、その爪・・・・・・!」

 ウラカーンを援護すべく奔ってきたヴァンが、手甲が割れあらわになった男の両手を見て息を呑んだ。少し離れたところでアリアとフランも声をあげる。

「あちゃー、ばれちっち」

 なはは、と笑うウラカーンの両手から伸びる爪は、手甲の鉤爪ではなかった。

 正真正銘、ウラカーンの手から伸びるものであったのだ。

「やーでも、ここにはヴァンちゃんたちしかいないから別にいっかー」

 カキカキと爪をぶつけ合わせる。魔獣がウラカーンを見据え、声に出し嗤った。

「ふはははっ! 貴様、混ざり物だったのか!」

「まざり、もの?」

 ヴァンが呟き、ウラカーンを見る。

「くくく、そうだ。美しき者よ。この男は、人と魔の者の間に生まれた者だ。卑しき親を持ったのもだな、混ざり物。ニンゲンと子をつくる魔の者なぞ・・・・・・」

「卑しいだ? 殺すぞ、クズ」

 ウラカーンがライカニクスの言葉を遮る。魔獣に向けられた殺気だが、その冷たさにヴァンたちの背筋にも寒いものが走った。

「かっ、出来損ないにも親への情があるか。良いだろう、貴様がいかに不完全か教えてやる」

 ライカニクスが四肢の爪を地にめり込ませ、ウラカーンも両手の鉤爪で構えを取る。

 その隣で、ヴァンが炎剣を軽く振って立った。

 それに気づいたウラカーンが驚いた表情でヴァンを見下ろす。

「ヴァンちゃん、なにをしてるのー?」

 先ほどの殺気のつまった声とは魔逆の緊張感のない間延びした声でたずねる。

「決まってるだろう。あいつを倒す。お前、手伝え」

「へ?」

 間抜けな声を出したウラカーンを、ヴァンが呆れた顔で見上げた。

「なんだ? やる気満々のくせに、手伝うのは嫌なのか? それなら下がってろ、先客は俺だ。・・・・・・あぁ、それと、さっきは助かった。ありがとう」

 ふっと微笑むヴァンに、ウラカーンが戸惑う。

「え、いや、そうじゃなくてー・・・・・・」

「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。私、はやくあいつをぶっ飛ばしたいんだけど?」

「全く・・・・・・ヴァン、どうせ目的は同じなんじゃから、聞かずにさっさと行けばいいじゃろうて。援護はまかせろい」

 後ろからの声に振り向くと、フランが弓を構え、アリアが体から火の粉を散らさせていた。

「あ、あれー・・・・・・?」

 なんだか、違う。何かが違う気がする。

「それもそうだな。よし、俺が突っ込む。お前ら、援護頼むぞ!」

 ヴァンが、最初の言葉は後ろの二人に、最後の言葉はその場にいる全員に叫ぶと、奔った。

 やっぱり、なんか違う。

「・・・・・・まぁ、いっかー」

 間延びした声で考えを放棄し、ウラカーンもヴァンの後を追い、疾走した。


「ザオリク〜」・・・・・・ふぅ。

読んで頂きありがとうございます。ちょっとネタ入れすぎたかもと反省しております。でも後悔はしてないです。

セレーネたちの戦闘・・・めっちゃかっこよくしたい。

感想批評、大歓迎でございます!

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