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第四十七話


この話で例のものが明らかになります。

 第一回戦は、『豪腕の斧使い リディック・トマース』の勝利に終わった。

 カールスも瞬剣と自称するだけあって、速さはかなりのものだったが、剣なので接近せざるを得ず、近寄ったところをリディックの力任せの一撃を受け、得物がぽっきり折れてしまい、カールスは降参するしかなかった。

「ほっ、闘技大会ははじめてみるが、思ったより白熱するのぉ」

 興奮した様子で話すフランに、アリアはどこと無く心配そうな顔をしている。

 その表情に気づいたフランがアリアの肩を叩いた。

「なに、ヴァンのことなら心配するでない。まだ一回戦じゃが、あの程度であれば、ヴァンのほうが上手じゃろうて」

 そう、よね。とアリアは力なく頷く。

 闘いの場に目を向けると、退場する二人と入れ替わりでまた二人、扉から出てくるところだった。



 控え室では鉤爪手甲が試験官に詰め寄っている。

「なーなー、教えてくれよー、もう戦う順番とか決まってるんだろー?」

 持っている得物の凶悪さとはかけ離れた、人のよさそうな笑みを浮かべ、試験管に近づいていく。

「駄目だ、見せることは出来ん」

 試験官がかたくなに拒否する。試合前の裏工作を防ぐためだ。

「たーのーむーよー、気になるんだよー」

 男は試験官に自分の肩をぶつけて擦り寄ってくる。細身だが長身の男がやると、妙に気持ちが悪い。

「駄目だったら駄目だ!」

 ぶつかってくる男から離れながらも、書類の中が見えないよう胸に抱いていた。

「・・・・・・」

 ヴァンはそんな二人を見ながらも、気づいていることがある。男は、一度も書類から視線を外していない。

 青い両目に魔力がめぐっている。何かの魔術を使っているのは明らかだった。

 どうやらこの試験官は視えてないようだ。もっとも、魔力を視るには、魔術が使えることが条件でもある。

 おそらく、この控え室にいる者たちはほとんど視えていないだろう。

「ちぇー、分かったよ。ケチだなー、じゃぁ、トイレ、いっていい? それくらいならいいだろー?」

 ふっと目から魔力が消し、唇を尖らせる男。試験官が溜息をつきながら了承した。

 サンキュー、と言いながら入ってきた扉を開けて出ていき、その時、一瞬だけヴァンと視線を交差させる。

 男の唇が歪んでいたような気がした。



 異変に気づいたのは、男が戻ってきて、二回戦が終えた頃だ。いつまで経っても三回戦に出るべき名前を呼ばれない。

 原因は、慌しげに控え室入ってきた試験官と同じ服をきた人物によるもので、今は試験官といくつか話している。

「どうしたんだろうねー?」

 いつの間にか隣にきていた鉤爪手甲の男が声をかけてきた。

「・・・・・・さぁな」

 変な奴だが、話しかけられたらとりあえず返事をしなければ。思い、そっけなく返すヴァン。

「わー、君、そんな可愛い声してるのに話し方無愛想だねー。ていうか、なんで髪白いのー? 綺麗だなー」

 軽口を叩いてくる男を見上げる。ボサボサの赤髪に、人のよさそうな青い目、細面の長身痩躯。肌は少し浅黒い。

「オレっちの顔になにかついてるー?」

 高めで、間延びした声でヴァンの顔を覗き込む。ヴァンは溜息をついて、べつに、とだけ言った。

 その二人に試験官が歩み寄ってくる。

「グラシアードさん」

「あ、はい」

 呼ばれ、さぁ試合か、と気合を入れるが、試験官の口から出てきたのは意外な言葉だった。

「えー、あなたの対戦相手の『クレリック・レジン』さんの行方が分からないので、あなたの不戦勝となります」

「え?」

 そんなこともあるのだろうか。きょとんとする顔で試験官の話の続きを待ったが、何も言わない。

 まさかそれだけ? ヴァンが聞こうとする前に隣の男が口を挟んできた。

「行方不明なら、先に別の試合してればいいんじゃないのー?」

 男の言葉に、試験官が顔をしかめる。

「それが、次の試合はウラカーンさん、あなたなんですが、あなたの対戦相手『レラード・ミッチェリス』も行方不明なんですよ」

 ヴァンの目が鋭くなり、隣に立つ鉤爪手甲を流しみた。

「ええー、ほんとー? でもそれっていいのー? 三回戦からいきなり不戦勝試合が続いてー」

 言われ、試験官がさらに顔をしかめた。闘いの場へ続く扉から、観客のざわめきが聞こえてくる。

 男が、あっ、と声をあげ、鉤爪手甲をがちゃんとぶつけ合わせた。

「じゃぁ、こうしようよー、オレっちとヴァンちゃんの試合をするのよー、そんで、お客さんには不戦勝試合のことを知らせないで、準備におくれたーとかにすれば、万事解決じゃんー」

 嬉しそうにいう男に、ヴァンの紅い瞳が鋭さを増す。

 男の提案に、試験官が目を見開いたあと、名案だと呟き、ヴァンに聞いてきた。

「グラシアードさんは、それでもよろしいですかな?」

 ヴァンは少し考えた振りをした後、頷いた。

「えぇ、かまいませんよ」



 観客席は不満と怒声につつまれていた。

「それで、私はあの時の子にこういって・・・・・・あ、もういい? えー、皆さんお待たせしました。次の試合の準備が整ったようです」

 そこに司会者の声が響く。

「なんだったのかしら?」

 アリアが首をかしげる。ついさっき、いきなり司会者がしどろもどろになったかと思うと、昔話を始めたのだ。

「良く分からんが・・・・・・わしは、あの子に言ったことが何なのかが気になるぞい」

 この場で昔話の続きが気になっているのはフランだけである。

 やっと次の試合が見れるということに、野次や怒声が収まっていく。

「では、第三回戦の戦士、入場です!」

 司会者の声と共に、東の扉から、二人の人影が出てきた。観客がざわめく。

 一人は、鉤爪手甲をつけた長身痩躯の男。

 もう一人は、アリアとフランの良く知る人物。長く真っ白な髪をなびかせ、歩くごとに黒いフリルドレスを揺らす、妖精と間違えるような可憐な少女。

「ヴァンー!」

 ざわめきの中、アリアの声だけが大きく響き、呼ばれたヴァンは二人に気づき、照れたように小さく手を振った。

 鉤爪手甲の男がヴァンの視線を追い、アリアたちをみるとヴァンに一言二言話しかける。

 ヴァンは呆れた顔で男と言葉を交わした。

「な、何あの男! なれなれしいわね!」

 会話の内容までは分からなかったが、自分から遠いところでヴァンが男と会話しているというだけで、アリアの胸には嫉妬が渦巻くようだ。

 フランがそれをなだめる。

「まぁまぁ、落ち着け。・・・・・・それにしても、あの男、無害そうな笑みをしておるが、あれは相当の強者じゃな」

 フランの言葉にアリアが落ち着きを取り戻し、同意する。

「・・・・・・えぇ。持ってる武器こそ接近戦用みたいだけど、あの男の魔力、普通の戦士にはないものよ。魔術を使うみたいね」

 ヴァンと鉤爪手甲が、闘いの場の中心付近まで歩き、ある程度距離を持って立ち止まる。



 闘いの場に出る少し前。

 控え室の扉から、闘いの場へ伸びる廊下を歩くヴァンと、鉤爪手甲の男。

「・・・・・・で、俺を指名した理由は?」

 ヴァンが男の隣で問う。男は少し目を見開くが、すぐにヘラヘラとした笑みを浮かべた。

「なんだー、気づいてたのかー」

「まぁな。何かの魔術使って、試験官の書類見てたみたいだしな。トイレに行くといったのも、どうせ対戦者の所へ行ってたんだろ?」

 俺の名前を呼ばなければ、確信は持たなかったが。と付け加えた。

「あちゃー、やっぱり名前呼んじゃまずかったねー、だよねー、あの時、オレっちは君の苗字しか知らないはずだもんねー。でも、分かっててよくオレっちの誘いにのったね? なんで? あ、オレっちに惚れたとかー? やだなー」

 笑う男に、ヴァンが溜息をついた。

「違う・・・・・・戻ってきたお前には、死臭がついてなかった。殺してないんだろ? 対戦者」

 聞くヴァンに、男はまたも笑った。

「そりゃそうだよー、死んだらおしまいじゃんかー。痛いだろうしさー」

「・・・・・・そうだな。ま、もしお前が対戦者を殺してたら、あの場でぶっ飛ばしてたけどな。・・・・・・本音を言えば、お前がわざわざそんなことをしてまで、俺と戦いたがってる理由が知りたかっただけだ」

 ヴァンが男を見上げる。男もまたヴァンを見下ろす。

「君があの中で、一番強いからだよ」

 間延びのない真剣な声で告げた。ヴァンがふっと微笑む。

「せっかちだな、ウラカーン」

 二人は薄暗い廊下から、光を浴びる闘いの場へと、足を踏み出した。



「ヴァン!」

 闘いの場中央へ歩いていると、自分を呼ぶ声がする。見るとアリアとフランが手を振っていた。

「はは・・・・・・」

 ヴァンも恥ずかしげに小さく手を振る。

「おー、あれ、君のお仲間? かーわいいー、れべるたかいなー、なに、君たちってどっかのお嬢様たち?」

 隣を歩く男がフランとアリアを見てヴァンにたずねる。

 ヴァンが呆れた顔でウラカーンを見上げた。

「なんでそうなる・・・・・・お前はさっきから口が軽いな」

「なははー、オレっち、軟派だからー」

 口笛を吹きながら、ぴょんぴょんと小走りで先を行き、中央付近で立ち止まる。

 ヴァンも溜息をつきながら、ウラカーンより少し離れたところで足を止めた。

「さぁ、それでは闘技者名物とまいりましょう!」

 どこから喋っているのか、男の声が響く。魔道具の類を使っているのだろう。普通では絶対にでない声量だ。

「鋭い鉤爪は狙った獲物を逃さないっ、孤高の軟派師! 『グラウゥゥゥゥゥクス・ウラカァァァァァアァアン』!!」

 巻き舌で名前を叫ぶ司会者。

 これが昨日アリアに任せた『闘技者自己紹介』というやつか。と内心思うヴァン。ということは、今からアリアが考えた紹介文があの変な司会者に発表されるというわけだ。

「そしてそしてぇ、なぁんと、もう一人の美少女はぁ! 今大会唯一の女の子! 東の紅一点! 戦場に咲く一輪の華!」

「・・・・・・変な司会者だな」

 ヴァンがアリアと同じ感想を呟く。そしてアリアが考えた紹介文を司会者が高らかに叫んだ。

「その可憐さに見る者全てを恋落とす! 戦う愛☆天使! 『ヴァァァァンン・グラシァァァァァド』!!」

 司会者のテンションにつられて叫ぶ観客たち。轟く歓声に闘技場が揺れた。

「・・・・・・」

 ヴァンがアリアたちのほうを向く。フランは大笑いしていて、アリアは両手を振ってきゃーきゃー叫んでいる。

「・・・・・・あとでしばく」

 両手で真っ赤になった顔を覆いながらヴァンが呟く。

「なははー、なるほどー、ぴったりだねー、愛☆天使!」

「うるさい!!」

 びっと親指部分の鉤爪を立てるウラカーンに、ヴァンが怒鳴った。

「それではぁ! 第三回せぇぇん!」

 司会者の言葉を聞き、ヴァンは顔を赤くしながらも構え、ウラカーンはヘラヘラとではなく、楽しげな笑みを浮かべて同じく構える。

「開始ぃぃぃぃ!!」

 合図と共に、ヴァンとウラカーンが、同時に奔った。



読んで頂きありがとうございます。

戦えっ、愛☆天使!

はい、というわけで、ちょっと終盤強引だったかな・・・もうちょっと大会について勉強するべきでした、反省。

感想批評、大歓迎です!

「貴様はゆえに駄目なのだ」的なのもお待ちしております!

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