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第四十六話


エロスバンザイ!(←ちょ)

 もうすぐで夜が明ける刻。草原を歩く二人の影。

 ローブを深くかぶった男女、外殻遺跡前に居た二人だ。

「この方角から・・・・・・香りましたね」

 女性がくんくんと鳴らしながら言った。男も肺一杯に大気を吸う。

「・・・・・・はぁ〜。・・・・・・あぁ、この先で間違いない。少し時間が経っているが、一瞬、二回香ってきた」

「急ぎましょう。私たち以上に、あの香りに敏感な方はいないでしょうが・・・・・・」

「油断は出来ない、な」

 女性が首肯した。

 二人は足を速め、草原を往く。





 窓から差し込む光が顔に当たり、眩しさでヴァンの意識が覚醒する。

「ん・・・・・・朝か・・・・・・」

 今日は確か・・・・・・大会の日だな。起きようと身をよじり、背中に大きくて柔らかいものが当たる感触に気づく。

 そして自分に回されている白い腕。

「・・・・・・アリア、朝だ。起きろ」

 ヴァンを後ろから抱きしめ、まさに抱き枕のように扱っている金髪の少女を呼ぶ。

「ん、んん〜・・・・・・」

 もぞもぞと動きながら、ヴァンをさらにぎゅっと抱きしめる。背中にあたる感触がかなり強調された。

「お、いっ、起きろ!」

 ヴァンが焦る。アリアにこうやって抱きしめられるのは久しぶりだからだ。

 工房長にお世話になっていたときは、皆一つずつのベッドを使っていたし、昨夜はフランに抱き枕にされた。フランの体は男よりは柔らかかったが、それでもやはり筋肉質で、女性のふくよかさが、正直、乏しい。

 ゆえに、身動きが取りづらいだけと考えることもできた。だが、アリアの場合、胸がすごいのでもろに女性と意識してしまう。

 今まで人との関わりが極端に少なかったヴァンにとって、これは刺激が強すぎる。

「起きろって!」

「んんんー・・・・・・はむっ」

「ふひゃん!」

 腕の中で暴れるヴァンに眠りながらも顔をしかめ、ヴァンの真っ白な髪から見える耳を甘噛みするアリア。

「ぁ、ちょ、アリッ、ア! やめっ、おま、えっ、起きてるだろ!?」

 あむあむと耳を噛まれるごとに、そこから電流のような痺れが体を走る。

「ふぁ、あ〜ぁ」

 壁のほうを向いているヴァンの後ろ、アリアのさらに向こう側からフランのあくび声が聞こえてきた。

 体をがっちり抱きすくめられ、耳を噛み噛みされているヴァンは、フランの姿を確認することはできないが、布のこすれる音で、体を起こして伸びをしているのは分かる。

「フ、フランっ、ちょっと、こい、つ、ぁ、を、おこ、んくっ、どか、せ、はっぁ」

 電流に耐えながらヴァンがフランに助けを求める。

「んんー? なんじゃおぬしら、朝っぱらからサカっておるのか。今日は大会当日じゃし、ほどほどにするんじゃぞー」

 ベッドから降りてあくびをもらしながらフランが風呂場へ行く。

「ま、まてっ、こい、つを、あっ、どかし、んっ、て、から! いけ、ひゃ!」

 結局、アリアが目を覚ましてヴァンを解放したのはフランが着替えを終えた後で、その頃になると、ヴァンの真っ赤になった耳はよだれまみれになっていた。



「『リモニウム総合闘技場』へようこそ。お待ちしておりました。・・・・・・お顔が赤いようですが、どこか具合でも悪うございますか?」

 闘技場の受付嬢が、ヴァンを見て心配そうに聞いてきた。

「い、いや・・・・・・なんでも、ない」

 答えるヴァンの顔は朝の出来事のせいで、まだ少し赤い。今は真っ白で長い髪に隠れているが、噛まれていた耳はさらに赤く、微妙に歯型がついているはずだ。

「左様でございますか。では、ヴァン様はあちらの扉から、お二方は観客席へどうぞ。闘技参加者のお連れ様の入場料は無料となっております」

 これは昨日説明してもらったことだが、闘技者の関係者は、大会主催者側からの計らいで、無料で大会を観戦できるそうだ。粋なことをするのぉとフランが感心していた。

 ちなみに、大会の闘技者は優勝して初めてお金、つまり賞金がもらえる。途中で負ければ何もなし。

 散々戦っても優勝者以外には何も恩恵がない。もっとも、優勝賞金はそれらのマイナスに目を向けさせないほど、莫大なものであるが。

 しかも今回は『秘宝』までついてくる。自分が負けることなど想像もしない者たちばかりが出場していることだろう。


 アリアがヴァンの右手を両手で包み、口を開いた。

「それじゃあ、気をつけてね。危なくなったら無理しないですぐに棄権するのよ?」

 朝からこの調子だ。どうも当日になって急に不安が湧き上がってきたらしく、事あるごとにこうして心配してくる。

 ヴァンが苦笑した。

「大丈夫だ。無理はしない。約束する」

 といっても、アリアは手を離さず心配そうな表情を浮かべていた。

 横からフランも話しかけてくる。

「狙うは優勝じゃな。多少無理してもおぬしなら平気じゃ! 足りない分は勇気で補えい!」

「・・・・・・いや、お前は少し心配するとかしろよ」

 右手を胸の前でぐっと握り、結構無責任なことを言ってくるフランに、ヴァンは一応ツッコんでおく。

 そんなやり取りをしていると、昨日の試験官が呼びにきた。昨日の試験の時より少し落ち着いているが、それでもあの時とは違って敬語だ。

「じゃ、行ってくる」

 ヴァンがぎゅっと掴んでくるアリアの両手から右手を引き抜くと、その手を軽く上げてきびすを返す。

「いってらっしゃい・・・・・・」

 アリアはその背中を見送っていたが、フランに言われ観客席へと向かった。



 試験官に、昨日と同じ試験の間と呼ばれる部屋へ案内された。ここが控え室だそうだ。

 前日と違うのはいかにも腕に自信がありますといった風貌の男たちが十数名ほど居ることだけ。当然だが、女性の姿は見えない。

 こことは反対側の場所にも控え室があるそうなので、もしかしたらそこには女性がいるかもしれない。

 ヴァンが入ってくると、闘技者たちが一斉に視線を向けた。

 ある者は不思議そうな顔で、ある者は嘲笑を浮かべて、ある者は品定めをする目で、ヴァンを見る。

 ヴァンはそれらを平然と受け、室内を歩く。長く真っ白な髪が流れ、黒いフリルドレスが揺れた。

 部屋の端まで行くと、壁を背もたれにし両手を組んだ。

 周りから話し声が聞こえてくる。

「あのガキが・・・・・・昨夜・・・・・・か?」

「あぁ・・・・・・レガ・・・・・・ぶっとばした・・・・・・」

「どう・・・・・・そんな力・・・・・・みえんな」

「・・・・・・事実・・・・・・おれ・・・・・・見たんだ」

 断片的に聞こえる会話で、昨夜の酒場での噂だと分かった。

 昨日は昨日で目立ちすぎたかもしれないが、こう噂されるのはいい気分ではない。ヴァンが一つ溜息をつくと、先ほど案内してもらった試験官が喋りだした。

「えー、では、大会を始める前に、いくつか説明と補足をさせていただきます」

 控え室にいる全員が、試験官に顔を向ける。

「まず、今大会は勝ち上がり方式を使っております。名前を呼ばれたら向こうの扉から闘いの場へどうぞ。基本的に武器の使用は可。魔道具類は不可となっています。対戦者が気絶、または降参すれば勝ち。なお、魔道具類の使用が確認された場合、即座に失格となりますのでご注意ください。他にご質問は?」

 試験官が控え室を見渡す。ヴァンが手を上げた。

「はい、グラシアードさん」

 手を下ろし、口を開く。

「魔術の使用は?」

 この質問には二つの意味がある。一つは単純に失格とならないかどうか。使って失格、となっては、アリアとフランに申し訳ない。

 もう一つは、ヴァンが魔術師だと思わせておけば、油断を誘うことも出来るということ。

 といっても、その油断をつくのは一度しか出来ない上に、酒場でのヴァンの戦い方を知っている者がいれば全くの無駄になるわけだが、種はまいておいても損は無い。

「可、でございます」

 試験官の返答に、そうですか、とだけ返す。

 他に質問は? と再度聞く試験官。次は一人の男が手を上げた。両手に鉤爪手甲をつけた、長めの赤髪をボサボサにした男だ。

「もし、相手を殺しちゃったら失格になる〜?」

 高めの声に間延びした口調で言った。

 無害そうな笑みを浮かべる男に対して、控え室の空気ががらりと変わる。

 試験官が喉を鳴らし、答えた。

「な、なります。不慮の事故である場合、罪には問われませんが、故意であると判断された場合、衛兵に引き渡します」

 そっかーよかったー。胸を撫で下ろし男はへらへら笑い続けた。

 良かったの意味が分からないヴァンが男を見る。男はヴァンの視線に気づくと、鉤爪手甲をひらひら振ってきた。

「・・・・・・変な奴」

 呟き、視線を外す。


 しばらくすると、入ってきた扉とは反対側にある扉から、歓声が響いてきた。

「開会式が終わったようです。それでは、最初の方」

 試験官が手にする書類に目を通し、名前を読み上げる。

「カールス・エドリーさん、どうぞ」

 一人の男が無言で出て行く。もう一人の名前は呼ばれないので、向こう側の控え室にいるのだろう。

 男が出て行き、少しした後、また歓声が聞こえてくる。その中でひときわ大きな声も聞こえてくるが、何を言ってるのかは分からない。

 これからあの歓声の中で戦うのかと思うと、自然と鼓動が早くなる。

「(・・・・・・緊張してきた)」

 表面上は平然としていても、中身はそうでもないヴァンであった。




 観客席に囲まれた闘いの場はかなり広く、土の地面は草一本生えていない。

 入り口の方角から向かって左右の扉が開き、二人の男が出てきた。

 フランとアリアは円形の内側、観客席の一番前に座り、闘いの場を見下ろしている。

「ほぅ。中々強そうじゃのぉ」

「そうね。見た目だけじゃなければいいけど」

 二人は他の観客のように歓声を上げていない。フランは他の闘技者の闘いもそれなりに興味があるが、アリアにいたってはヴァンの試合にしか関心がないようだ。

「さーて、第一試合開始までもう少し。その前に、二人の勇敢な闘技者をご紹介しましょう!」

 大音量で響く声は先ほどから色々と喋っていた司会者だ。どこから話しているのかは分からないが、声を響かせる魔道具をつかってるらしい。

「東の扉から来ましたのはー、蝶のように舞い蜂のように刺す、瞬剣の使い手『カァァァアァルス・エドリィィィィィー』!!」

 名前を巻き舌で叫ぶ司会者。

「続きましてぇ、西の扉から出でるのはぁ、その一撃は岩をも砕く、豪腕の斧使い『リィディィィィィック・トォマァァァァアス』!!」

 またも巻き舌だ。

「・・・・・・変な司会者」

 溜息をつくアリアに、フランが話しかける。

「あれがこの闘技場名物の一つ『闘技者自己紹介』というやつか。アリア、おぬしがヴァンのものを考えたんじゃったな? して、どんな紹介にしたんじゃ?」

 名物の一つ『闘技者自己紹介』。自己紹介とは名ばかりで、連れの者が考えてもいいという適当な紹介文である。

 聞かれたアリアが、嬉しそうににやけた。

「んふふー、それはヴァンが出てきてからのお楽しみ。もうばっちり合ってるんだから」

 もったいぶるアリアに、フランも、そうかそうか、と笑みを浮かべる。



「・・・・・・くしゅんっ。あ〜・・・・・・風邪かな・・・・・・?」

 緊迫感漂う控え室に、ヴァンの可愛いくしゃみが響いた。



読んで頂きありがとうございます。

闘技大会始まりましたね。なんかあまりうまくできてないきが・・・むむーん。

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