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第四十三話

服を可愛く描写したい・・・。

 とっても大変なお風呂を終えたヴァンは、うつ伏せでベッドに倒れこんでいる。これから図書館に行くので、入浴後でも黒いフリルドレスだ。真っ白な髪の間から見える首や、スカートから少し出ている両足が赤く上気している。

「ヴァン、何を死んでおるのじゃ?」

 フランが濡れた赤い髪をタオルでガシガシと拭いている。三つ編みは解かれていて、軽く波を持っていた。

 いつもの革服に革ズボンではなく、上は袖なしの白い肌着、下は赤い女物の下着という、目のやり場に困る格好をしている。

「・・・・・・うるさい、ぐすっ」

 ヴァンが鼻をすすりベッドの枕に顔を押し付ける。

「もう、悪かったわよ。そんな怒らないで」

 ベッドに腰かけ、ヴァンの頭を撫でるアリア。レースの編まれた白い服の胸元を大胆に開け、桃色に染まる豊満な胸の谷間を見せている。上着の裾は、スカートに入れていない。

「・・・・・・」

 返事が無い。アリアが本当に怒らせてしまったかと心配になるが、フランは気にしてないように口を開いた。

「さて、それじゃあ、国立図書館へ向かうとするかのぉ。行くぞ、アリア。ヴァンは待っておれな」

 革服と革ズボンを着込み、普段どおりの格好になったフランが扉へ向かう。

「あ、ちょっとフランっ。ヴァンは休んでていいからね」

 ベッドから立ち上がり歩こうとすると、右腕の袖が引っ張られる。目を向けると、ヴァンがベッドの上でちょこんとすわり、俯いていた。

「・・・・・・俺も行く。・・・・・・別に怒ってないから」

 拗ねた声で言ってもあまり説得力が無いが、可愛さなら抜群にある。

 このまま襲ったら絶対に怒るであろうから、なんとかほんのうを抑え込んだアリアだった。



 明るい太陽が真上に来ている時間。大通りはいまだ人でごった返している。

「図書館は確か、闘技場の後ろにあったはずじゃ。正面門からは隠れて見えんかったがのぉ」

 ヴァンとアリアは、フランの後ろをついていく。その途中途中で、周りを興味深げに見るものだから、何度かフランに「はぐれるでないぞい」と注意された。

「なんかフランって、お母さんみたい」

 笑うアリアに、フランが微妙な表情をする。

「そりゃ二百年生きておるが・・・・・・母のようじゃといわれてものぅ。心はまだうら若き乙女じゃぞい?」

「そうなのか?」

 つい聞き返してしまったヴァンに、アリアがさらに笑った。フランもしかめ面をしていたが、我慢できずに噴き出す。

「はっはっは! こらヴァンよ! 聞き返すとは何事じゃ! わしはそんなに老けて見えるのか!」

 笑いながらヴァンの首に腕を巻きつける。ヴァンも顔に笑みを浮かべて巻きつけられたフランの腕を叩く。

「いたっ、いたたっ、フラン、痛いって! 悪かったっ、謝るから!」

 腕におさまるヴァンの顔も笑っているのを見てフランは、うむ、やはり悪くない。悪くないのぉ。と心の中で呟いた。


 ひとしきりヴァンの頭をぐりぐりしたあと、フランは腕の戒めを解く。

「あぁ、痛かった」

 首をさするヴァンに、アリアが苦笑する。

「あれはヴァンが悪いわよ」

「うむ。全く。女になってもそういう女心の機微が分からぬとは」

 ダメダメじゃな。と評価を加えヴァンの頭に手を乗せた。

「そりゃ悪かったな・・・・・・」

「でも、お母さんかぁ。元気かしら」

 懐かしそうに空を見上げるアリア。

「やっぱり、心配してるんじゃないのか? 無理に手伝うことないんだぞ?」

 それを母恋しいと勘違いしたのか、ヴァンがアリアの顔を覗き込んでくる。アリアは首を横に振って微笑んだ。

「ううん、これは私の責に・・・・・・私も一緒に頑張りたいから。それに、魔術学校出たあとずっと一人暮らしだったし。旅に出るときもお母さんには話してあるから、平気よ」

 責任とは言わず、言い直したアリアにフランの頬がほころぶ。

「反対されたんじゃないのか?」

「全然。『あなたが決めたことなら、何も言わないけど、必ず無事に帰ってきなさいね』って言ってくれたわ」

「なんとも出来た母じゃな。一度会ってみたいもんじゃ」

 フランが感心感心とうなずく。そこでアリアが気になったことをたずねてみた。

「ヴァンのご両親は?」

「ん? 俺の親か? さぁ、どこにいるかな」

 曖昧な表現に、アリアが首をかしげた。

「どこにいるかなって、ご両親も冒険者なの?」

 聞くアリアを見て、ヴァンが困ったように笑った。

「いや、俺、小さい頃の記憶が無くてな。親の顔も覚えてないし。師匠が言うには、あ、師匠っていうのは俺の育ての親だ。その師匠が、外殻近くの森で子供だった俺を見つけて今まで育ててくれた。でもまぁ、師匠が親みたいなもので、同じ冒険者だから、どこにいるか分からないっていうのは、本当だな」

 そこで、アリアが悲しげな表情をしたので、再度困った笑みを浮かべる。

「そんな顔するな。俺は別に気にしてない。師匠が居てくれたからな。小さい頃の記憶がないって言っても、誰だって幼い頃のことは忘れていくものだろう?」

 気にされたほうが、困るぞ。と続けて苦笑した。

「まぁ、幼い頃の記憶が無くなるという点については、同意できるのぉ。わしももう物忘れがはげしくてな・・・・・・」

「・・・・・・さっき心はうら若き乙女のままだって言ってたじゃないの」

 フランの軽口に、アリアがツッコむ。

「ははっ」

 本当に気にしていない様子で笑うヴァンに、アリアは少し安堵した。と同時に、ヴァンのことが少しわかって、胸の内には嬉しさが湧き上がっていた。



 闘技場を通り過ぎ、その後ろに隠れるようにして建てられていた国立図書館に着く。

 図書館は闘技場より一回り小さいが、それでも十分大きい。

「さて、分かっとると思うが、館内では静かにするんじゃぞ?」

 念を押して注意するフラン。ヴァンとアリアが返事をした後、アリアは小さな声で、ほんとお母さんみたい、と呟いた。

 両開きの扉をフランがゆっくりと開け、館内に入る。二人もそれに続いた。

 アリアが、中に広がる光景に思わず声を出しそうになったが、慌てて手でふさぐ。

 図書館内左側は、長い机が規則正しく並んでいて、椅子も沢山あった。本を読むスペースだろう。

 そして図書館の敷地八割全てに、高い本棚が狭そうに並んでいた。本棚には大量の本がぎっしりつめられており、高いところの本は梯子はしごを使って取るようだ。

 長い机の椅子にはちらほらと人が座っていて、思い思いの本を読んでいる。結構な人が居たが、館内はとても静かだった。

 フランが図書館入り口のすぐ近くにあった受付と話している。利用許可をもらっているみたいだ。何かの用紙にペンを走らせていた。

 書き終えた後、またいくつか受付と会話し、戻ってきた。

「アリア、魔術に関する本は五十八番の棚だそうじゃ。ヴァン、わしらはそういう秘宝が無いかを調べるとしよう。秘宝に関する本や古文書は百二番の棚じゃ。さぁいくぞい」

 小声でひそひそと言い、フランが歩き出す。

 ヴァンとアリアは、百二本も本棚があるということに驚いていた。

 実際には三百本まである。ちなみに、本棚の数え方は『架』とも言う。閑話休題。



「・・・・・・目が痛くなってきたぞ」

 ヴァンが呟き鼻頭をもむ。元々本を読むということをしないヴァンに、調べ物とはいえ長時間文字を読むのは少々きつい。

「まだ一時間もたってないわよ?」

 本を大量に重ねてある長机をはさみ、向かい合って座るアリアがくすっと笑う。フランが本を数冊持ってヴァンたちの座る机に来た。

「これとこれも調べねばのぅ。わしが読んでおらんものを持ってきたぞい」

「・・・・・・まだこんなに読まないといけないのか?」

「だから、宿で休んでていいって言ったのに」

 今さら、やっぱり戻る、とは言えず、なにより自分が元に戻るために調べているのに、二人に任せきりというのも心苦しいヴァンは、シパシパと光る視界を何度もまばたきで治し、分厚い本と睨めっこを始めた。

 眉をくっつけそうなほど眉間にしわ寄せ、目を細くしながら本を読むヴァンに、フランとアリアは苦笑しながらも手に持つ文の集合体へ視線を落とす。

 そのまま三人は、「閉館しますよ」と言われるまで本を読み続けた。



 図書館を出た三人は、宿屋近くの飲食店で食事をすることにした。もう夜なので夕御飯だ。

 飲食店には客が結構入っていて、それぞれ料理を楽しんでいる。

「はぁ、結局有力な情報はなし、かぁ」

 アリアが野菜のスープをスプーンですくい口に運ぶ。

 三人が食べているのは、野菜のスープとパン二つ。この飲食店で一番安いメニューだ。

「そうじゃのぅ。まぁまだ読んでない本は大量にあるからのぉ。また明日も行くとしよう」

 フランがパンを千切り、口に放り込む。

 ヴァンが咀嚼そしゃくしていた野菜を飲み込んで口を開いた。

「ん・・・・・・そうだな。・・・・・・はぁ、また本と睨めっこか・・・・・・」

 がっくり肩を落とすヴァンに、アリアが、まぁまぁ、とその肩に手を置いた。


「それでよぉ、なんと今月の優勝者には秘宝がもらえるらしいぜ!」

 聞こえてきた男の声に、フランが目を向ける。

「秘宝じゃと・・・・・・?」

 目が鋭くなり、その男の話を盗み聞く。といっても、酔っているのか大声で話している為、こちらが静かになれば自然と聞こえてきた。

「それって本当なのかよ? おれはただの噂だって聞いたぜ」

「マジなんだって! おれよ、一目、秘宝ってやつをみようと闘技場にいってきたんだよ。そしたら、ちょうど運ばれてる最中で、ガラスの箱に入ってたけど、ありゃ確かに秘宝だって!」

「なんでそんなことわかるんだよ、おまえ、秘宝みたことないだろが」

「ないけど、あれは間違いないって。明後日の闘技大会は、すげぇのがいっぱいくるんだろうなぁ。それで誰かがあの秘宝を手にするんだ、すげぇなぁ」

「まぁたはじまったよ。お前はほんっと強いやつが好きだねぇ、弱いくせに」


 アリアが男たちから視線をはずし、フランを見て、はぁ、とため息をついた。

「聞いたかおぬしら」

 目を輝かせてテーブルに乗り出す。

「えぇ。聞こえたわよ。なに? もしかして闘技大会に出るつもりなの?」

 ジト目で見てくるアリアに、フランが自信満々にうなずいた。

「もちろんじゃ! 秘宝を集めるのが、わしの旅の目的じゃからのう!」

「・・・・・・調べることが、じゃなかったかしら?」

 最初のあたりで聞いていた目的と微妙に違うフランの言に、アリアがさらに目を細める。

 フランはそんな視線を全く意に介さず、パンを噛み千切って宣言した。

「明日は早速闘技場に行くぞい!」

 楽しそうなフランに、アリアが再度、はぁ、とため息をつく。

 ヴァンがテーブルの下で、手を小さく握った。


読んで頂きありがとうございます。というわけで、実は本が苦手なヴァン子でした。そしてお約束的、というか、私がやりたかった闘技場です。はい。

これから結構物語が進んでいく、かも?


感想批評、大歓迎でございます!さぁ、バッチコォイ!そぉいっ、そぉぉい!そぉ(ヒュ、ザク、バタリ

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