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第四十二話


今回もコメディチックに!

 まだ空気が少し冷たく、空からにじむ太陽の光が気持ち良い早朝。

 工房長宅前に六人の人影がある。ヴァンたちだ。

「本当にお世話になりました」

 ヴァンが両手をふわりと膨らむドレススカートの上で重ね、頭を下げた。光り輝く真っ白な髪が動きにあわせて流れる。

 その両隣にはアリアとフランが立っており、どちらも軽く頭を下げていた。

「頭をあげなって! あたしらのほうこそ、まだまだお礼が足りないくらいだってのに」

 ヴァンたち三人と工房長宅の扉の間に挟まれたエリュトが慌てて手を振る。その左隣の工房長が豪快に笑った。

「がはは! 全くだぜ、もう少し居てくれても、いや、いっそおれの娘にならねぇか?」

 頭を上げた三人に片目をつぶる工房長。さらに左隣にいるオイエスが頭を抱えた。

「工房長、何無茶なこと言ってるんです。皆さん、気にしないでね」

 苦笑し、あぁ、とだけ言うヴァン。

 フランが何かを思い出し、声をあげた。

「おぉ、忘れておったわ。魔獣除けを返さねばのぅ」

 摩訶不思議袋から、外殻へ行く前に渡された試作品の魔獣除けを取り出そうとすると、工房長が手でとどめた。

「そいつぁ、持って行きな。特に、フランさんには必要だろ?」

 フランは秘宝探しをしている。遺跡は魔獣の巣になってしまっている場合が多い。

「それはありがたいが・・・・・・大事なものじゃないのかえ?」

 もしこれ一つしかない試作品ならもらうわけにはいかないが、オイエスがそれを否定した。

「平気ですよ、設計図さえあればまた作れますから」

「ふむ。そういうことなら、ありがたく頂いておこうかのぉ」

 おう、持っていきな、と豪快に笑う工房長。

「それじゃあ、気をつけてな」

 エリュトがヴァンの頭をポンポン叩く。結局最後まで子ども扱いだったが、まぁ仕方ない。ヴァンは困ったように微笑んだ。

「あぁ。ありがとう」

「たまには顔見せに来いよ!」

 三人は工房長一家に見送られて、その場を後にした。




「結構速いんだな、馬車って」

「ほんとねー、これなら早く着きそうよね」

 ヴァンとアリアが馬車の窓に体を向けて、外を眺めはしゃいでいる。二人の隣に座るフランが溜息をついてたしなめた。

「ヴァン、アリア、騒ぐでない。他の方々に迷惑じゃろう」

 ヴァンまで何しておる、と続ける。二人が体を馬車内に戻し、周りを見た。広めの空間に、ヴァンたちと同じく首都を目指す人々が座席に腰掛けており、皆微笑ましそうにヴァンとアリアを見ていた。

 そこで浮かれていたことに気づいた二人は、顔を赤くして縮こまる。


 三人は工房長たちに別れを告げた後、街を行き来する定期の馬車に乗った。お金を節約したかったヴァンだが、馬車に乗ったことの無いアリアがせがんだので、仕方なく利用することにしたのだが・・・・・・実は乗ったがないのはヴァンも同じで、今こうして二人ではしゃいでいたのである。

 馬車には魔獣除けが装備されていて、御者の仕事につけるのはある程度の実力を持った剣士や冒険をやめた冒険者たちなので、安全性は高く、力を持たない一般の人にとって、街間を行き来できる唯一の方法でもある。

 ちなみに片道料金は銅貨五枚。

 工房長たちからもらった強力魔獣除け試作型の効果も合わさり、道中は安全で何の危険もなく、多くの人を乗せた馬車は首都へ着いた。


 周りを高い壁に囲まれる『リモニウム共和国』首都の人口密度に、ヴァンとアリアが息を吐いた。

「リモの街もすごかったけど、ここもすごいわねぇ」

 アリアが感想を述べ、ヴァンもうなずく。

「さすがはこの国の中心といったところだな。人だらけだ」

 三人の視界には、赤青黄緑と色とりどりの頭が行き来していた。ヴァンのような真っ白な髪は一人もいない。

 大通りの左右には、やはり、というか、リモの街のように露店が沢山開かれている。

 人ごみの向こう、この大通りの先に大きな建物が見える。遠くからでもそれが円状をしているのが分かった。

「あれは?」

 聞くアリアにフランが答えた。

「あれは闘技場じゃのぉ。このリモニウムの首都では月に一回大きな闘技大会が行われておるそうじゃ」

 『闘技大会』という単語に、ヴァンがぴくっと反応した。

「へぇ・・・・・・まぁでも、私たちには関係ないわね。今日の宿を取ったら、早速図書館行きましょうか」

「そうじゃのぉ。・・・・・・ん? どうしたんじゃ、ヴァン?」

 歩き出すアリアに続こうとしたフランだが、ヴァンがぼおっとしているのに気づいた。

「え? あ、いや、なんでもない」

 話しかけられ我に返ったヴァンは、慌てたように首を振る。真っ白な髪が左右に暴れた。

 振り返ったアリアは怪訝な顔をするが、フランはヴァンが見ていた先に視線をうつし、ニヤニヤと笑った。

「そうかそうか。なるほどのぉ。じゃが、いつ行われるかもわからんし、今回はあきらめるんじゃな」

 かっかっか。声を出して笑うフランに、ヴァンは何だか恥ずかしくなってくる。

 頬を紅潮させ、俯いて叫ぶ。

「ち、ちがう! そんなんじゃない!」

 二人のやり取りにアリアも気づいたらしく、ははーん、と唇を浮かべた。頭上から聞こえるアリアの声に、ヴァンががばっと頭を上げた。

「ち、ちがうからな! 別に、そんな出たいとかないんだからな!」

 両手を胸の前で握り、顔を赤くして見上げてくる。

「はいはい。分かりましたよ〜」

 アリアはくすくす笑い、顔を赤らめているヴァンの頭を撫でた。

 ヴァンはさらに顔を赤くして俯く。闘技場に出たいだけなら、別に恥ずかしくなどない。男――正確には元――なら自分にどこまで出来るかと試してみたくもなる。

 だが、この二人に知られるのは、なんとなく、自分の子供のような部分を見られているようで、猛烈に恥ずかしいのだ。

 恥ずかしさのあまり涙目になりながら、きっと二人を睨むヴァン。首は俯いたままなので、上目遣いのようになる。


 ヴァン の うわめづかい !

 アリア の 理性ヒットポイント に 3600 の ダメージ !

 フラン の 心の壁わしはのぉまるじゃ に 250 の ダメージ !

 アリア の 本能ぼうそうゲージ が 80 たまった !

 フラン が 進化あぶのーまる しそうになった!


 フランとアリアが唐突にヴァンから少し離れ、背中を向けてコソコソと話し始める。

「まずいぞ、アリアよ。わし、今ちょっと、何か覚醒めざめしそうになったぞい!」

「わ、わたしもあぶなかった。危うく襲うところだったわよ。からかうのも命がけね!」

 なら、からかわなければ良い、という選択肢は、もちろん存在しない。

「・・・・・・何してるんだ?」

 いきなりの二人の奇妙な行動に、ヴァンが後ろから声をかける。

「いやいや、なんでもないぞい」

「えぇ、なんでもないわ。さ、宿探しにいきましょうか」

「あ、あぁ・・・・・・」

 背中を押して急かす二人に、ヴァンは訳が分からないという顔をして歩き出した。



 大通りは人であふれかえっていて活気もすごい。

 『リモの街』ではこの時期、安い宿は取れないといわれていたが、そこはさすが首都。安い宿は腐るほどあった。

 といっても空いている部屋がある宿を見つけることが出来たのは、十二軒目回ったあとだったが。

「ほぉ、安いわりにはしっかりとした部屋じゃのぉ」

 先に部屋へ入ったフランが声をあげた。ヴァンとアリアも中へ入る。

 関所の宿のつくりに似ている、とヴァンは思った。

 部屋奥にはベッドが二つおいてあり、間に棚が置かれてある。その上には水差しとコップが二つあった。

 関所の部屋とは違い、結構広い。ベッド二つで一杯一杯というわけではなく、部屋の中心、ベッドの手前には、小さい質素なテーブルと椅子が二つ。

「あら? お風呂用品一式そろってるわね。これで三人あわせて銅貨五十枚は破格だわ」

 ヴァンの後ろ、入り口左にある扉の中を覗き込みながらアリアが言った。

 一緒にいて分かったことだが、アリアはかなりの綺麗好きだ。泊まった宿でのお風呂を欠かさないし、工房長のところで厄介になっているときも、申し訳なさそうにしながらお風呂をしっかり借りていた。

 ヴァンは男だった頃、というか、一般的にもお風呂は二日に一回か、人によっては三日に一回。たまにすごく汚れたときに入るくらいのものだ。

 ヴァンも例外ではなく、男だったときは二日に一回の頻度であった。アリアと旅をするようになってからは、引っ張り込まれたり、逃亡先だったりして、最近は毎日お風呂に入っている。

「ふむ、風呂か。そういえば、ヴァン、おぬし、昨日はいっておらんな?」

 そしてこのフランも風呂好きである。綺麗好きとは違う。入らなくても困らないが、風呂の雰囲気やゆったりできる時間が好きらしい。

「ん? あー、そういえば、昨日は悪かったな。連れて帰ってくれたんだろう?」

 依頼の後、フランが背負って帰ってきたというのはエリュトたちから聞いていた。

「いやいや、かまわんでな。おぬしは軽いしのぅ。で、はいっておらんな?」

「・・・・・・は、いってない、けど、それが?」

 楽しそうに唇をゆがめるフランに、ヴァンの背中に嫌な予感が走る。

 この感じ・・・・・・まずい! ベッドの方向から歩いてくるアリアに、ヴァンが振り返って入り口から逃げようとした。が、そこには当然アリアがいるわけで。

「逃げようとしてもダメよ。女の子はいつも綺麗にしなきゃ」

 うふふ。フランと同じ笑みを浮かべながらヴァンに近寄ってくる。

「ま、まて。どうせこのあともでかけるだろう? 今はいってどうするんだ?」

 無駄だと分かりつつも、そんなことを言ってみた。

「いやいや、今はいりたくてのぉ。我慢できそうにな・・・・・・ごほん。何度も入って水を無駄にするわけにもいくまいて」

 背中を見せていたヴァンの肩を、がしっと捕まえる。小さな悲鳴を漏らし、ヴァンの肩が一つ震えた。

「さ、はいりましょうか」

「な、なぁ、我慢って何だ? ていうか、お前ら、俺が男だって、忘れてないか? 忘れてるだろ? 忘れてるよな?」

 ヴァンの言葉に、フランとアリアが視線を合わせる。

 少し見つめあった後、不思議そうに口を開いた。

「今は、女の子でしょ?」

「うむ。何をいっておるんじゃ、おぬしは?」

「あれ? 俺? おかしいのって俺なのか? いやいやいやいや、そんなことはないだろう。俺はおかしくない!」

 叫びながら暴れるも、両肩をつかまれているので無駄である。

 アリアが、はいはい、と言いながらヴァンの腕をひっぱり、三人はお風呂場へ入っていっていく。

「おかしいだろおおおおお!!」

 この絶叫が、ヴァンが最後に口にした元気な声だった。


 なら、どんな声を出したかって? またまたー、わかってるくせに。

 分からない? 仕方ありません。一言だけ、お聞かせしましょう。



「やっ、あっ」



 おっと、二言お見せしてしまいました。失礼。

 では、お粗末さまです。




読んで頂きありがとうございます。工房長さんたちとはお別れです。

あと、いつものヴァンたちになってきてます。フランもそれに加わり、さぁ大変。主にヴァンが。

馬車、そんなものがあったとは!

はい、作者も忘れてました。

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