第四十一話
今回、お話は全然進みません。ちょっとコメディのアレをあれするために・・・・・・。
結論から言うと、かなり大変な依頼だった。もちろん、ヴァンにとって、である。
「あの・・・・・・これ、着るんですか?」
ヴァンが赤い瞳を泳がせて、目の前にいる女性に聞いた。女性の隣にはアリアが居る。
「えぇ、それ着なきゃだめですよ、制服なんですから」
「制服はしっかり着なきゃね、ヴァン」
アリアと女性が妙に嬉しそうな顔をして、さぁ、はやくはやく、とヴァンを急かす。
今ヴァンが手に持っているのは、紺のエプロンドレスで裾がかなり短い。描写せずとも、誰でも分かる、いわゆるあの服。女性の使用人がつける服だ。
「これ・・・・・・メイド服、ですよね」
「えぇ。メイド服ですよ」
「・・・・・・ここ、喫茶店でしたよね?」
「えぇ。喫茶店ですよ」
「・・・・・・・・・・・・なんでメイド服なんですか?」
「そのほうがお客様が喜ぶからですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでスカートこんなに短いんですか?」
「そのほうがお客様がものすっごく喜ぶからですよ」
少し前からヴァンと目の前の女性・・・・・・この喫茶店の主にして依頼をだした人物、店長さんは押し問答をしている。
ちなみに、アリアは男嫌いということもあり皿洗いを任され、フランは「わしよりヴァンがいいじゃろ」とニヤニヤ笑いながら厨房で料理をすると逃げた。
接客をする店長さんとヴァンだけが、このメイド服を着ることになる。
順を追って説明すると、依頼を受け依頼人のところへ行くと、そこは喫茶店であり何でも昨日から店員が全員風邪で休んでしまっていて、かわりも居なく仕方ないのでギルドへ依頼を出したという。
昨日は店を開けることができなかったが、ヴァンたちが来てくれたので今日は店を開けるそうだ。
「もう、じれったいわね。冒険者なんでしょ? 依頼を受けたんでしょ? 諦めて着けなさい」
「そうよ、ヴァン。あ、分かった。前みたいに着られないのね? 手伝ってあげるわ」
店長さんの正論に諦めかけたヴァンだが、以前にも聞いたアリアの言葉で後ろへ下がった。
「い、いや、平気だ。全然大丈夫だ。ばっちり着けられる。だから、近づくな!」
「はぁはぁ、そうね、アリアさん。手伝ってあげましょう。こんな機会はきっともうないわ。なんて可愛い子なの、はぁはぁ」
店長さんがアリアに賛同し、危ない目つきで危ない言動で危ない鼻息で、ヴァンにつめよった。
ヴァンは直感した。いや、本能が叫んだ。
この人、アリアと同じ種族だ。と。
「こ、こないでください、着れますから!」
一応依頼主なので、敬語は崩さないヴァン。だが、逆にそれが嗜虐心をくすぐる。
さらに後ろに下がるが、背中から誰かに羽交い絞めにされた。
「っ!?」
首だけを動かすとそこには何時の間に移動したのか、黒い笑いを浮かべるアリアがいた。
「駄目よヴァン。人の好意を無碍にしちゃ」
「全くですよ。大丈夫。痛くしませんから!」
店長さんが羽交い絞めにされているヴァンに手を伸ばし、黒いフリルドレスを掴むと手際よく脱がせていった。
「あっ、ま、まってくだ、ふわっ、なんでそんなとこさわっ! ひゃっ、アリアっ、はな、あっ、ほ、ほんとにやめ、ふわー!」
後ろからアリアに捕まえられている為、ヴァンはなす術もなく店長さんにペタペタ触られる。
「んんー、なんて柔らかくてすべすべなお肌・・・・・・髪も真っ白だけど光があたると銀色でしかもサラサラ・・・・・・さらに言うなら感度も良好ね、すばらしい、すばらしすぎるわ。あなた、ここに永久就職しない?」
「しません!!!」
ヴァンが叫ぶ。
「駄目ですよ、店長。ヴァンはこれからも私たちと旅を続けるんですから」
アリアも店長さんに拒否の言葉を送る。
「そう、残念だわ。じゃぁ楽しませてくださいね。どうせ今日だけでしょう?」
店長さんがアリアを見ると、アリアは微笑んでうなずいた。
「えぇ、どうぞ。たっぷり味わってください」
自分の危機に、ヴァンの背筋に寒気が走る。
「え、あ、た、たのしませる? あじわう? なにいっ、てひゃん! まってください、ほんと、もうやめてくださ、しゃいっ、アリア、もっ、はな、しぁっ! フ、フランー! 助けてー!」
どんどん脱がされ、どんどん着せられ、どんどん触られていくヴァン。
助けを求められたフランは、部屋の扉にもたれて観察していた。
「ふむぅ、これはなかなか・・・・・・背徳感があるというか、参加したくなるというか・・・・・・いや、実に楽しみじゃのぉ。次の宿が」
「フランっ、聞いてるのか!? あっ、まっ、てんちょ、やあああああ!!」
最後の絶叫は、もう何だか女の子なヴァンでした。ちゃんちゃん。
「いやいや・・・・・・終わるの早いから・・・・・・」
依頼を終え、帰路につく三人。もう空は茜色に染まっていて、向かう先は工房長の家だ。
フランに背負われて眠るヴァンがもごもごと寝言を言っている。
「よく眠ってるわねぇ」
アリアがヴァンの顔を覗き込む。フランも少し首を動かして背負うヴァンを見た。
「まぁ、最初から疲れることをされておったしのぅ」
笑うフランの言葉に、アリアが少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「やっぱりやりすぎだったかしら・・・・・・ごめんなさいね、ヴァン」
アリアが手を伸ばし、ヴァンの頭を撫でる。その長く流れる髪は、夕日を受けて橙色に輝いている。
「ん・・・・・・むにゃ」
撫でられたヴァンがくすぐったそうに身をよじる。
妖精のような小顔に紅い瞳を隠して眠るヴァンは、寝息を立てていなければ、本当に人形と間違えそうだった。
「これが元は男、のぅ。思えんわい」
「・・・・・・でも、事実よ。私が私のわがままで、ヴァンを女の子にしちゃったの」
アリアの表情が暗くなる。
「そのせいで、ヴァン、負わなくても良かった怪我をして、しなくてもいいことをして死にそうになったり・・・・・・私のせいで」
声がだんだんと小さくなっていき、うつむく。
フランがアリアを見ずに口を開いた。
「・・・・・・わしにはおぬしらに何があったのかは知らんし、おぬしらにも会ったばかりじゃが、これでも二百年以上生きてるでな。ヴァンはそれでおぬしを責めるような者じゃないことくらいは分かるぞい。アリア、おぬしもそれは知っておるじゃろう?」
「・・・・・・うん、ヴァン、言ってくれたから。気にするなって。前に『おあいこ』、もした。けど、でも・・・・・・」
フランには『おあいこ』が何かは分からないが、それでも言いたいことはある。
「もし、おぬしが、何かしらの償いをしたいとおもっておるなら・・・・・・そうじゃな」
フランが言葉を切り、今度こそアリアを見た。
「何があっても、ヴァンを悲しませない程度に、頑張ればいいじゃろうて」
『ヴァンを悲しませない程度に』。胸の中で一度呟き、フランを見上げる。
「ヴァンを、悲しませない程度に?」
次は口に出し、聞き返す。
「うむ、悲しませない程度に、じゃ。無理をしないことこそが、ヴァンへの『償い』にもなるじゃろうて」
アリアが首をかしげる。『悲しませない』は分かるが、なぜ『無理をしない』が『償い』になるのだろう、と。
「はっは。分からぬか、まぁ、いずれ分かるときもくるじゃろ。そうさな、百年生きたあと、くらいにのぅ」
にかっと笑うフランに、アリアもつられて笑った。
「なによそれ。死ぬまでわかんないってことじゃない」
「はっはっは! それもそうじゃのう!」
結局、フランの言いたいことは理解できなかったけれど、伝えたいことはなんとなく感じとれたアリアだった。
読んで頂きありがとうございます。メイド服でした、ちゃんちゃん。
依頼のお仕事シーン、飛ばしちゃいました。まぁいいですよね!皆様、脳内補完をお願いいたします。
アリアとフランの会話。ちゃんと心情描写というか・・・つまりそういうシーンになってるか不安です。
感想批評、大歓迎でございまぁ〜す!