第三十九話
『ヴァン育成計画編』です。嘘です。
アリアのびっくり料理が並ぶ夕御飯を終え後片付けを手伝ったあと、いつもの部屋に戻った三人。
「それで、この後どうするんじゃ?」
フランが赤くした顔を二人に向けたずねた。赤いのは酒のせいだ。
「これからも旅を続けようと思っている」
答えたヴァンを見てフランが、ふむ、とだけ言って黙る。少しの沈黙が続く。
「それは・・・・・・いや、その前に少し聞きたいことがあるんじゃが、いいかの?」
「・・・・・・? あぁ、かまわないが」
フランは怪訝な表情をするヴァンから視線を外し、アリアに向けた。聞きたいことが自分にあると気づいたアリアは首を縦に振る。
「アリア、おぬし、ヴァンがオスマンと戦っているときに、『ヴァンの力は、今は見た目通りにしかない』と言っていたな? そして、『わたしのせいで』、とも。言葉どおりの意味とすれば、ヴァンは元々違う姿で、おぬしのせいで今の姿となった・・・・・・という風に聞こえるんじゃが、差し支えなければ、詳しく教えてくれんかの? ずっと気になっててな」
アリアが、しまった、という顔をしてヴァンを見たが、ヴァンはフランを信じられる人物としてみていたので平然として口を開いた。
「そのことか。問題ない、話そう。フランは命の恩人でもあるしな」
ヴァンの言葉でアリアとフランの頭の中で、初めて出会ったときのことが思い出される。
「うむ、ならば、教えてたもれ」
良いか? とアリアに確認をとるヴァン。アリアにとってもフランは命の恩人だし、ヴァンが話しても大丈夫だと判断するならば、異論は全く無い。すぐにうなずいた。
「さて、最初から話そうかな」
ヴァンは、アリアとの出会いから女になるまでの経緯と、ギルドでの事、生きていると知られることの危険、などをフランに全て話した。
フランは最初、驚いたように聞いていたが、命の危険あたりから真剣な表情になっている。
話し終えた後、ヴァンが深く息を吐く。フランも椅子の背もたれに体をあずけ、息をついた。
「なるほどのぉ。いや全く、不可思議なこともあるもんじゃなぁ」
「信じて、くれるの?」
あっさりと受け入れたフランに、アリアがたずねた。フランは首を横に振るが口から出てきたのは肯定の声だ。
「そんな嘘をつく必要なぞないじゃろう? それにわしもおぬしらを信じておる。おぬしらがわしにその話をしてくれたほどにはの。・・・・・・にしても、わしは最初、おぬしらの仲の良さに、そういう趣味かとおもっておったぞ。思わず自らの貞操を危惧してしまったわ。はっはっは!」
豪快に笑うフランをアリアがため息をついて返した。
「失礼ね。私は小さくて可愛い女の子しか手を出さないわよ」
「アリアアリア、微妙に失礼な上に、否定できてないから」
呆れ顔をするヴァンを、フランが笑いをとめ、じっと見つめてくる。
「な、なんだ?」
「ふむぅ・・・・・・わしは『のぉまる』じゃが、なんというか・・・・・・ヴァンを見ていると確かに、いけない気分になってきてしまうのぉ」
ぴきっと固まるヴァン。アリアが握りこぶしで力強く同意した。
「そうよね!? そうでしょう! この可愛さは異常だと思うのよ! 私がこれまで一体どれだけ我慢してきたか・・・・・・っ!」
「そうかえそうかえ。まぁわしはこれからもおぬしらについていくつもりじゃが、わしに気にせず存分に楽しんでくりゃれ。必要とあらば協力するぞい、アリアよ」
「あら、本当? ぜひお願いしたいわ!」
同盟を結びかけるアリアとフランに、ヴァンが吼えた。
「待てー! なに不穏な協力関係を結ぼうとしているんだ!? ・・・・・・って、は? ついてくる?」
椅子から立ち上がったヴァンがフランを見た。座っているフランと立っているヴァンの目線は同じくらいだ。
「うむ、おぬしらと居ると楽しいしの。それに、『フォカーテの香水』が無い今、あとはのんびりと秘宝探しを続けるしかない旅になるしな。・・・・・・まぁ、本音は一人に飽きてきたたけなんじゃが」
最後の言葉は苦笑と共に言う。迷惑かえ? と座りなおすヴァンに視線を向け聞いてくるフラン。アリアが口を開いた。
「一緒に来てくれるなら、心強いわよ。ねぇ、ヴァン」
「あぁ。助かりこそすれ迷惑だなんてことは、全くないぞ」
二人の言葉に、フランが破顔した。
「そうかそうか、すまんなぁ。よろしく頼むぞい」
「俺たちこそ、これからもよろしく」
「よろしくね」
ヴァンとアリアも笑い、うなずく。
フランという心強い仲間が出来たところで、今後について話し合うことにした。
「それにしても、性別を変える魔術・・・・・・のぉ。わしは魔術についてよく知らんが、よく考えればかなりすごいことじゃな」
褒められているのだが、ヴァンのことを考えると素直に喜べないアリアは曖昧な笑みを浮かべた。
だが、逆にヴァンが気にした風もなくフランに同意した。
「あぁ。三年もかけて編み出したといっていたが、四属性使えることもあるし、アリアはすごく優秀な魔術師だな」
屈託のない笑顔を浮かべるヴァンに、アリアはそのせいでヴァンは・・・・・・と考えてしまい、表情にかげりが出てくる。
「そんなこと・・・・・・ないよ」
元気がなくなっていくアリアにヴァンは不思議そうな顔だ。
「ふむ・・・・・・」
何事か得心したフランは、話題を変えることにした。
「それでじゃ、今後の目的は、ひとまず『ヴァンを元に戻す』で、いいんじゃな?」
二人は、聞くフランに視線を向ける。ヴァンがうなずき、アリアは口を開いた。
「えぇ。私が考えた魔術なのに、元に戻せないっていうのが納得いかない・・・・・・というより悔しいんだけどね」
「そうじゃのぉ・・・・・・アリアが創った魔術で駄目なら、別の視点から探すのもいいかもしれんな」
フランの提案に、ヴァンが首をかしげる。
「別の視点?」
「うむ、たとえば・・・・・・そうじゃなぁ。男のアレをくっつけてしまう、とか」
アレ、という単語にアリアが顔を赤くした。ヴァンは呆れ顔でため息をつく。
「あのな、くっつけただけで男になれるんなら苦労しない。大体、男のときの姿に戻ろうとしてるのに、今の姿のまま一部分だけ男に戻ってどうする」
もっともな意見に、フランはあまり残念がってない。冗談だったようだ。
「ま、確かにの。じゃが、まぁ、おぬしの見た目ならついていても、アリじゃと思ったんじゃがのぉ?」
思わずその姿を想像する二人。ヴァンは後悔し、アリアは嫌そうな顔をした。
「嫌よ、この可愛さに醜悪なのがつくなんて」
刺々しい口調のアリアに、ヴァンが少なからず傷ついた。
「醜悪って・・・・・・俺にも元々ついてたんだが・・・・・・ていうか、見たことあるのか、お前」
「み、みたことないわよ! 悪い!?」
「いや、別に悪くは無いけど・・・・・・」
むしろ安心した、とは言わないヴァンであった。
とりあえず、見目麗しい少女と女性がアレについて話しているのもあれな感じなので、またもやフランが話を戻す。
「これが駄目なら、そうじゃな。もしかしたらそういう秘宝もあるかもしれんのぅ」
「秘宝に、か。ありそうな気はするが・・・・・・」
「・・・・・・そんな都合よくあるのかしら? なんだか最近、秘宝に対する認識が変わってきてる気がするわ」
フランがアリアの発言に苦笑する。
「まぁ、噂や伝説で聞く秘宝は神々しいとかそんなんばっかりじゃからのぉ。といっても種類は様々であるし、造りは違っても所詮魔道具じゃからな。便利でなければ話にならんじゃろうて」
『秘宝』のありがたみがあまり感じられない言葉だ。いや、便利だと思っている時点ではありがたがっているのか?
「うーん・・・・・・もっと神秘的であって欲しかったわ、秘宝は」
そうだなぁ、とヴァンも苦笑した。
「さて、して、どうするかえ?」
フランがヴァンを見て聞く。
「そうだな・・・・・・とりあえず、そういう秘宝があるかもしれない可能性も考えて、やっぱり情報を集めないとな」
「ふむ、それなら『リモニウム共和国』首都に行ったほうが良いかもしれんな」
「首都へ?」
アリアが聞き返す。
「うむ。首都には大規模な図書館があってな。さすが交易の国といったところか、蔵書量もかなりのものじゃったぞ」
「図書館、か。良いかもしれないな」
「私も賛成ね。魔術について書いてある本があるかもしれないし」
満場一致で次の目的地が決まった。
目指すは『リモニウム共和国』首都、その図書館だ! とヴァンが立ち上がり宣言する。アリアとフランが、おー、と楽しげに続く。
「・・・・・・で、だ」
すとん、と座ったヴァンが両肘をテーブルに置き、唇の前で両手を合わせる。その表情は真剣そのものだった。
いきなり空気を変えたヴァンに、アリアとフランが首をかしげた。
「それにあたって、重大な問題がある」
少女特有の高さとどこか甘えるような声で重々しく言った。
一体どんな問題なのか、とフランが猫目を鋭くさせ、アリアがごくりと喉を鳴らす。
そして、ヴァンが口を開く。
「金が、無い」
何というか、もう何というか・・・・・・な発言に、部屋の時がカチリと止まった。
読んで頂きありがとうございます。コメディチックにできてるでしょうか?
アリアのびっくり料理、まぁ、ベタベタですね!え?それって前話でいうことじゃないかって?
まぁ気になさらず。フランさんレギュラー化。わーい。
『世界に生きる人々』のネタ、宜しければ皆様、「あいつがみたい!」「こいつがみたい!」をお教え下されば嬉しいです。それにしてもヴァンたち、貧乏暇なし!ですね。
ご感想評価、大歓迎でございオスマン!