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第三十四話


あやつ登場!

「この先の遺跡にあると書物には書かれていたが・・・・・・」

 男が呟く。緑の髪を後ろへ撫でつけ、緑の瞳は鋭く蛇のようだ。

 ローブをつけたこの魔術師の名は、『ヒルデスター・アグリッパ・オスマン』。

 『フォカーテの秘宝』、そしてアリアを我が物にせんとする者、またの名を『蛇風のオスマン』といった。

 オスマンが、灰の岩石散り乱れる周囲を見回す。

 ここは『地の底へ続く奈落』の外殻。その(ふもと)だ。背後には草原が広がっている。

「くく、もう少しだ・・・・・・『狼殺し』、待っておれ。お前はもうすぐで我のものとなる」

 細面の顔が笑みで歪む。

 歩き出した矢先、大きな羽音が響き、巨大な影がオスマンごと地面を覆う。

「む?」

 見上げると、魔獣が飛んでいる。体毛の無い緑色の皮膚に、腕が羽になっている竜種だった。

「ほお。『ワイバーン』か。外殻は竜種が多いというのは本当らしいな」

 オスマンが魔獣の咆哮を平然と受け、言った。

「だが、貴様のような下等種が我の前にでるなど、おこがましいにもほどがある」

 魔獣はひときわ高く飛ぶと、オスマン目掛けて急降下してきた。その巨体に似合わず、速い。

「散るがいい、痴れ者めが。トルネードランス」

 オスマンがローブから右手を出し、虫か何かを払うように振った。同時に、オスマンの左右、何も無いところから竜巻が巻き起こり、魔獣へ突撃する。

 二つの竜巻の先端は、魔獣の胴体を抵抗無く突き貫く。赤い血しぶきを撒き散らし、断末魔の悲鳴を上げ、『ワイバーン』は墜ちた。

 ぐしゃっと水音をならしながら、魔獣が地面に叩きつけられる。その衝撃で血が跳ね、オスマンのローブに付く。

「・・・・・・ローブが汚れてしまった。下種が」

 今度は左手を振る。魔獣と地面の間から風が巻き起こり、魔獣を吹き飛ばした。

 魔獣の体は大きめの灰岩にぶつかり動きを止め、長い首の先にある頭が、だらりと下を向く。

 完全に死んでしまったようだ。

「ふん」

 オスマンはそれを一瞥いちべつすると、止めていた歩みを再開させた。



 ヴァンたち三人は部屋から出た。

 すぐ隣は居間になっていて、工房長とエリュト、オイエスが大きめのテーブルを囲んで椅子に座っており、囲むテーブルの上にはフランが見つけた秘宝『リャルトーの弓』が置かれている。

 ドアを開ける音で、ヴァンたちに気づいた工房長が手を上げた。

「おう、話は終わったのか?」

 ヴァンが血のように紅い瞳を工房長に向ける。

「はい。三日もお世話になったみたいで、ありがとうございました」

 、頭を下げると、光より眩しい真っ白な髪を下向きに流れた。工房長たちはヴァンの髪が白くなったのを医者からも聞いているようで、特に驚いた様子はない。

「なぁに、良いってことよ! お、そうだ、フランの嬢ちゃん、これ返すぜ」

 がははと笑い、工房長が弓を掴みフランへ渡す。受け取りながらフランが口を開いた。


「工房長殿、わしは嬢ちゃんという年齢としではないぞ。して、何か分かったかえ?」

 聞かれた工房長は、大げさなほど首を横に振り、溜息をついた。

「いいや、全く何もわかんねぇ。一体どんなものをつかってんのか知らねぇが、叩いても切りつけても分解できねぇし、傷さえつかねぇ上に、呪文が組み込まれた跡もねぇ。その前についてる宝石も何故光ってるかもわからねぇし、なんで真ん中だけ消えてるかもわからねぇ。さすが『秘宝』ってことだけは、わかったぜ?」

 工房長の報告を聞き、フランが、ふむ、と弓をためつすがめつした。言うとおり、弓の前方真ん中に、宝石が三つ並んでおり、内二つは光っているが、真ん中の宝石だけ光を放っていない。

 宝石は最初から取り付けられていたが、光ってはいなかった。この秘宝を使った、あのときから光り始めたのだ。

 ちなみに、工房長が秘宝を調べたのはフランからの依頼ではなく、調べさせて欲しいと工房長が頼んだからだ。

 フランは考える。おそらく、この三つの宝石は碑文に書いてあった『オピス』、『バライナ』、『スコルピオス』という三つの矢をそれぞれ表しているはずだ。と、すれば、この真ん中の宝石は、名前の順列からして『バライナ』のことだろう。

 『バライナ』を使用したことにより光を失っている、と仮定すると――回復するかどうか分からないが――現在『バライナ』は使えなくなっており、残り二つの矢は使える状態だと考えられる。

 そこまで考え、自信なくしそうだぜ、と嘆く工房長が目に入り、思考を中断させた。一応フォローしておくか、とフランは笑う。

 片手でバンバンと大男の肩を叩いた。

「はっはっは! そう気を落とすでない。わしとて、百四十九年間も秘宝を探して、いまだ二つしか手に入れておらぬし、調べて分かったのといえば『絶対壊れない』ということだけじゃよ。たかだか五十年ほどしか生きておらぬ工房長殿に解明されては、立つ瀬がないしのぉ!」

 笑い続けるフランを、その場にいる全員が驚いた顔で見ていた。

 その視線に気づいたフランがたじろぎ、勘違いをして弁明する。

「ち、違うぞ? 秘宝を手に入れたのが、二つしかないだけで、見つけた数は十を超えるんじゃぞ!? ちとわしの力じゃ荷が重いから入手は断念しただけであって・・・・・・」

 驚いている方向と別のベクトルで言い訳を続けるフランを、アリアが止めた。

「そこじゃないわよ! 百四十九年間って言った!? 今!」

「んむ? うむ、言ったぞい?」

 フランが不思議そうな顔をして叫ぶアリアを見た。次にヴァンが聞く。

「・・・・・・フラン、あんたいくつなんだ?」


「年? うーん、いくつじゃったか・・・・・・二百を超えたあたりから数えんかったしのぅ、二百五十くらいじゃろうか?」

 自信無さ気に言うフランだが、ヴァンたちは衝撃を受けていた。エルフは人間より寿命が長いというのは聞いていたが、目の前にいるフランが二百を超えてるとはとても思えない。

 フランは起伏こそ乏しいものの、長身細身の引き締まった体をしていて、とても健康的だ。どう多くみても二十代後半にしかみえない。

「本当、なのか?」

 居間にいるフラン以外全員の疑問を、ヴァンが代表して口に出す。

「なんじゃ、信じておらんのか? まぁわしとしては信じてもらわずともかまわんがの」

 からからとフランは笑った。釈然としないヴァンたちだったが、証拠も出せというほど追求するつもりもない。

 工房長がヴァンたちに座るようすすめたが、ヴァンが首を横に振る。

「いえ、俺たち、もう行こうと思ってるんです」

「え? もう行っちゃうのかい?」

 エリュトが寂しそうな顔を浮かべる。オイエスと工房長も似たような表情だ。

「えぇ。目的地もはっきりしたし、お世話になったお礼が今出来なくて」

 アリアの言葉を工房長が遮った。

「何いってやがんだ、嬢ちゃんたちにはうちのモン助けてもらったし、約束してたじゃねーか。それに、フランさんには魔獣倒してもらったしよぉ。これぐらい当然だろーが」

 何気に、フランさん、と言いかえているのをフランが苦笑した。

「残念だけど、引き止めるわけにはいかないよね。それで、これからどこに?」

 オイエスがたずえ、アリアがヴァンとフランを見る。二人がうなずくのを確認し、言う。

「私たちは大空洞外殻に行くわ」

 重い口調で告げるアリアに、エリュトとオイエスが驚き、工房長が勢い良く椅子から立ち上がった。

「バカヤロウ! あんなとこに行くんじゃねぇ!」

 激昂する工房長をさらに驚いた顔をしたエリュトたちと、目を見開くヴァンたちが視線を向ける。

「・・・・・・あそこは、地獄だ。悪いことはいわねぇ。いや、頼む。行くんじゃない。恩人をむざむざ見殺しにしたくねぇ」

 過去に行った事があるのか、工房長は苦しげな顔をしていた。

「・・・・・・ありがとう、工房長さん。でも、俺たちは行かなきゃいけない。行かないと・・・・・・」

 言葉を切り、ちらっとアリアを見上げる。

「うむ。行かねばならぬ。一人の幸せを守るためにのぉ」

 フランがヴァンに続いて口を開いた。工房長は三人を見つめ、溜息をつく。

 決心は固いと分かったのだろう。

 どかっと椅子に座ると、オイエスに言葉を投げた。

「オイエス、奥からあれ、もってこい」

 何をとは言わなかったが、オイエスはそれを知っているようでうなずき席をはずした。

 少ししてオイエスが持ってきたのは、小さなヴァンの顔ほどの黒い四角の箱だ。鈍い光を側面の四角の穴から出しているところをみると魔道具だろうか。

「これは・・・・・・?」

 ヴァンが聞くと、オイエスが説明する。

「試作段階の魔獣除けだよ。効果は従来の約六倍。だけど、効果範囲が極端に短くてまだ完成に至ってないんだ。それでも、持ち歩けば十分に使える代物さ」

「・・・・・・それを持っていきな。気休めにしかならねーだろうが、無いよりマシなはずだ」

「いいんですか?」

 ヴァンが工房長に顔を向けた。

「あぁ。これくらいしかできねーしよ。・・・・・・本当なら、おれ自身がついていってやりてぇとこだが、みろ、思い出すだけで手が震えてやがる」

 自らの震える手を持ち上げ、ヴァンたちにみせ、すまねぇ、ともらす。

「いえ、俺たちを心配してくれて、ありがとうございます」

「じゃの。三日も世話になってしかも魔道具までもらえるとは、ここでさらにしてもらってはバチがあたってしまうじゃろ」

 弓を背中に直したフランが、ありがたくいただくよ、とオイエスから魔獣除けを受け取る。魔道具はずしりと重かった。

「これは袋にいれても効果はあるかえ?」

「はい、大丈夫です。実験済みなので」

「そうかそうか」

 フランが腰につけていた変わった道具袋の中に、魔道具を入れた。明らかに袋は小さく、拳大ほどしかないのに、四角の魔獣除けは吸い込まれるように入っていく。

 入りきった後も、袋の形は変わらない。何度目かの驚愕の表情を浮かべる皆に、フランがにやっと笑う。

「これが手に入れた一つ目の秘宝じゃてな」

 『秘宝』は何でもありだな、ヴァンの呟きが聞こえた。



読んで頂きありがとうございます。

でましたね、こやつ。フランがあんな歳だなんてびっくりですね!


感想評価、大歓迎でございます!

「このばかやろう!」的なものまで!

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