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第三十二話


はい、というわけで、大戦闘です。

「秘宝を試すって・・・・・・あなたエルフでしょ!? 使えないんじゃないの!?」

 前を走るフランに、アリアがヴァンの腕を引き叫ぶ。その言葉通り、エルフは魔道具の類が使えない。それどころか、魔術も使えない。

 エルフは総じて魔力が高いが、魔術ではなく『精霊魔法』と呼ばれる強大な力を使う。その場合、呼び寄せた『精霊』に自らの魔力を勝手に吸ってもらうため、自分で魔力を操作する術をもたない。

 ゆえに、魔力を『注ぎ込む』という『操作』が必要な魔道具を使うことが出来ないのだ。そして、『秘宝』もその根源は魔道具と同じ。魔力を注ぎこまなければ使えない。

「安心せい。わしは『ハーフエルフ』じゃ。『精霊魔法』は使えんが、魔力を操作することはできる」

 フランがヴァンたちを見ずに言った。

 『ハーフエルフ』、つまり、人間とエルフの間に生まれた者のことだ。

 走る二人の目が見開かれる。本の中でしか見たことの無い存在、『ハーフエルフ』が目の前で走っているからだ。

 どの本にも『ハーフエルフ』のことは同じように書かれていた。

 『人間の血が混ざった『ハーフエルフ』は、精霊の声を聞くことが出来ない。エルフの血が混ざった人間は、魔術を形象(イメージ)出来るほど魔力を操りきれない。どちらにもなれない、半分の者』。

 魔術も使えず、『精霊魔法』も使えず、頼れる力は、魔道具だけ。

 他にも理由はあるのだろう。だが、二人は『秘宝』を求めるフランを、もう『変』だとは想わなかった。



 巨大な魔獣の周辺は、戦場だった。

 魔獣除けで街に近づけないはずの力が弱い小型の魔獣が、巨大魔獣の周辺で群れを成している。見れば、巨大魔獣の前方にある街の外壁、その上にある大型魔獣除けが大破していた。

 冒険者らしき剣士や魔術師、街の守備についていた国軍がそれら小型の魔獣を相手に戦っており、街を危機に晒している巨大な魔獣に手が回っていない。 

 先ほどの小さな爆発は、流れ魔術だったようだ。

「ほぉ、群れをひきつれるとは。本気で人を滅ぼすつもりらしいのぉ」

 背負っている弓を手に取り、構える。矢筒は無く、弓だけの秘宝『リャルトーの弓』。

「大きい魔術で一気に殲滅したいけど・・・・・・他の人たちが邪魔だわ」

 アリアが悔しげに言う。魔術師の本髄は、広範囲による殲滅にある。ゆえにこういった乱戦では、本領発揮ができない。

「はぁっ、はぁっ、アリア、は、ザコに、かまうなっ。はぁっ、でかいやつだけ、狙え」

 ひざに手をつき荒い息を吐きながらヴァンが作戦を出す。

 それをフランが否とした。

「あい待った。あのでかいのはわしがやろう。おぬしらは他の者たちの援護に回るんじゃ」

 この秘宝も、乱戦向きじゃないしのぉ。そういって弓を持ち上げた。ヴァンは、アリアの強さと魔術師としての特性を踏まえた上での提案だったが、フランがやるというのであれば、異を唱えるつもりはない。

 矢の無い弓の秘宝でどんなことが出来るのかはわからないが、策があるのだろうし、なにより時間が惜しい。

「わかっ、た。・・・・・・はぁ、はぁ。・・・・・・ふぅ、アリア、行こうっ」

 息を整えると、ヴァンはまた走り出す。アリアもそれに続いた。

 アリアはヴァンの側から離れるつもりは無い。どんなことがあっても守ってみせると心で固く誓った。


「我が身に巡る魔の力よ、我が意志を通じ、炎となりて形を創れ。我求むは獄炎の剣!」

 走りながらも呪文を唱える。

「フレア・・・・・・ソード!」

 ヴァンの手から一振りの炎剣が現れた。形を成す炎は弱弱しく、刀身も幾分か短い。

 飛び掛ってくる魔獣を横に避け、炎剣で斬りつける。すぐに次の魔獣がせまってきた。

「フレイムアロー!」

 アリアが尖矢がその魔獣を貫き、燃やす。魔獣の数は多い。

「なんて数だ・・・・・・!」

 胴体だけの魔獣を切り裂く。続けざまにアリアがヴァンの周りへ炎矢を放つ。

「これじゃきりがないわ!」

 アリアがヴァンに駆け寄り、背中合わせになる。その周囲を既に魔獣が囲んでいた。

「ふははははー! どけどけぇい!」

 突如、ごつい笑い声がとどろき、ヴァンたちの周りに居た魔獣たちが叩き潰されていく。

 その声には聞き覚えがあった。

「こ、工房長さん!?」

 エリュトが持っていた大剣を構え、赤いヒゲを触りながらにかっと笑ったのは、あの工房長だ。

「なんだなんだ、嬢ちゃんたちも戦ってくれてたのか? 死なねぇよう気ぃはるんだぞ! にしてもありゃばかでけぇなぁ」

 がははと笑いながら、巨大な魔獣を見上げた。

「あんだけでけぇと、おれの専門外だな。仕方ねぇ。雑魚相手で我慢すっかぁ! がはは! じゃあな、嬢ちゃんたち、死ぬんじゃねぇぞ!」

 笑いをやめず、猪突猛進。行く手に阻む魔獣をついでのように潰して去っていった。

 嵐のように去っていく工房長を、二人はぽかんと見送る。

「・・・・・・行くぞ」

「・・・・・・えぇ」

 顔を見合わせると表情を改め、再度戦場を奔った。


 視界の端に、複数を相手にする剣士が見えた。そこへ方向転換し、疾走する。

「はぁっ!」

 剣士風の冒険者を挟み撃ちにしていた一体を斬り燃やす。胴体だけの魔獣は半分になった。

「フレイムアロー!」

 もう一体には、アリアが炎の尖矢を飛ばす。巨大魔獣の小型版は断末魔と共に燃え上がる。

「す、すまない、助かった」

 剣士風の冒険者が二人、主にヴァンの姿に面食らいながらも礼を言う。

 まだ冒険者になって日が浅そうな男だ。

「魔獣の数が多いときは立ち止まるな! 出方をうかがう前に動け! 人を相手にしてるんじゃないんだぞ!」

 ヴァンが剣士風新人に怒鳴り、次の魔獣へ奔る。

「は、はい!」

 後ろから新人の返事が聞こえてきた。小柄で少女なヴァン相手に、恐縮しきった声だ。

「・・・・・・素直なやつね」

 隣を走るアリアが呆れた顔で言う。

「冒険者には必要なことだ。反発せずに意見を聞けないと、な!」

 もう一匹、魔獣を断つ。アリアも魔術を連続して行使し、次々と魔獣を灰にしていく

 アリアは内心驚いていた。先ほどまで疲れきった様子のヴァンだったのに、今は普段の戦闘と変わらぬ動きを見せている。 

 だが、それは無理をしているのだ、とすぐに分かった。時折、何も無いところでけつまずきそうになったり、炎が剣の形を崩すときもある。

 これ以上戦えば、最悪ヴァンが戦場の真ん中で気絶してしまうかもしれない。それはあまりにも危険だ。

 あの巨大な魔獣さえ倒せれば、この雑魚たちも逃げ出すだろう。

「フラン、まだなのっ?」

 ヴァンにせまる魔獣を尖矢で穿ちながら、アリアは焦燥にかられた。


 戦場から少し離れた場所、それでも巨大魔獣を十分に狙える位置に立ち、フランは秘宝を見る。

「ふむ、あの部屋にあった碑文には、三種類の名があったのぉ」

 弓の中心を右手で持ち、左手もそこに当てた。まるで矢を添えるような仕草だった。

「はて、あれはなんじゃったか・・・・・・おぉ、そうじゃ。たしか『オピス』、『バライナ』、『スコルピオス』じゃったな。どれ、まずは『バライナ』とやらを試してみるかの」

 楽しげに言い、体を半身にし弓を高く持ち上げ、魔力を『秘宝』に注ぐ。

 瞬間、右手に重ねられている左手から光が発せられた。左手を引きながら右手を下ろし、前に突き出す。同時に、声をあげた。

「『バライナ』!」

 右手と左手をつなぐ、赤く輝く光矢が出現した。フランの唇が歪む。

「ほっ、これが魔力の矢か。・・・・・・ん?」

 最初はフランの意志で注ぎ込んでいたが、今は『秘宝』にどんどん魔力が吸い取られている。

「お、おぉ、こいつはとんでもない大喰らいじゃ!」

 赤い光矢が見る見る大きくなっていく。右手と左手の間は普通の細さのままだが、弓の前に出ている部分が大きく太く長くなっていった。

 最終的に、斜め上に弓を向けないと地面を抉ってしまうほど、巨大な光矢が出来る。

「お、おい・・・・・・なんだありゃぁ」

「で、でけぇ・・・・・・」

 あまりのでかさに、戦場で戦っていた冒険者や兵士たち、果ては小型の魔獣までその魔力の巨大さに呆然としてフランのほうを向いている。

「はっはっは! これは愉快じゃ! さすが『秘宝』といったところかのぉ!」

 心底楽しそうにフランが笑い、獰猛な笑みを浮かべたまま、一番大きい魔獣を睨んだ。

「かかっ、さぁ喰らえい。うぬの寝床で共に眠っておった力じゃぞ。味わうがいい!」

 叫び、赤い巨矢を放った。弓を持っていた右手が腕を引き、さらに体をも引っ張り、フランは耐え切れず後方へ吹き飛んだ。

 轟音を草原中に響かせ、突風を撒き散らし、戦場を超え、巨大な魔獣へ一直線に飛ぶ。

 直撃。

 光る巨矢は大きな魔獣よりさらに巨大で、もはや矢として刺さることはなく、文字通り、両断した。

 衰えることの無い驀進力(ばくしんりょく)をもって、『バライナ』は空高く消えていく。

 次に響いた轟音は、巨大魔獣の上半分が地面に激突したことによるものだった。


「・・・・・・あり得ないわ」

 倒れ伏す大型魔獣の下半分を見ながら、アリアが呆然と呟く。

 分かれてしまった上と下の切り口は紫色の液体が勢い良く流れ出ている。細かな描写は省略させていただきたい。

 小型の魔獣たちは、巨矢の轟音と衝撃に驚き、逃げ出していた。

 まわりの冒険者や兵士たちもアリアと同じように呆然としていて、魔獣たちを追撃できない。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 ヴァンが炎剣を消し、大型魔獣の大口をただ見ている。『秘宝』の恐るべき威力にも、アリアの言葉にも、反応する余裕がない。

 いや、もう限界だった。視界が突然暗転し、体が浮いたかとおもうと、次の瞬間、体中に衝撃が走る。

 ヴァンの名前を叫ぶアリアの声が、とても遠くに感じた。 


読んで頂きありがとうございます。

・・・戦場の臨場感って難しい・・・。ていうか、秘宝強いですね!(ぁ

感想批評大歓迎でございま〜す。

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