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第二十五話

戦闘があっさり風味、ショボーン

「まだなのかい!?」

 赤い髪の女性が叫び、地面を這いせまってくる魔獣目掛けて手に握った大剣を振り下ろす。重厚な刃は魔獣を叩き潰し、紫の液体があたりに飛び散った。

「ま、まってまって、もう少しでおわ、ああ! 間違えた!」

 女性に怒鳴られたのは、薄い青色をした髪を持つ青年。女性の後ろで、街道に設置された魔獣除けの前でしゃがみ、何かをしている。青年が触っている魔獣除けは、他のと違い、光を失っていた。

「さっさとしなよ! いつまでも保つわけじゃないよ!」

 言いながら、飛び掛ってきた魔獣を横に両断した。未だ数は多い。

「えーとえーと、この部品はー、あ、あったあった」

「人の話きいてるのかい!? 急ぎなってば!」

 今の状況において呑気すぎる青年の声に女性が怒声を上げる。

 青年の周囲を確認すべく女性が振り向き、目の前の危機に息を呑んだ。

「っ! オイエス! 危ない!」

 青年、オイエスが女性の言葉に顔を上げる。目に入ってきたのは、大きな筒。内側全てに鋭く小さな牙が並んでいる。それが魔獣の口だと気づくのは一瞬だった。

 オイエスを食い殺そうと、少し後ろに仰け反る。一気に飲み込むつもりのようだ。手も足も無い胴体だけの魔獣は、青年くらいならあっさり入れそうなほど太い。

 青髪の青年は呆然とするしかできなかった。後ろから女性の怒声が聞こえる。逃げろ、と言っているようだが、体が動かない。

 死を覚悟したオイエスは目を固く瞑ろうとして、出来なかった。

「はああああああっ!」

 気合と共に、煌く蒼い風が漆黒のドレスと共に魔獣とオイエスの間を奔る。両手に握られているのは、燃え上がる炎の(つるぎ)

 オイエスの視界が一瞬、蒼と黒だけになった。それが通り過ぎたあとに見えたのは、燃え上がり地に倒れ伏す魔獣の姿だ。

 オイエスは蒼と黒の正体を確かめるべく、視線を向ける。目に入ったのは一人の少女。

 蒼く長い髪を振り乱し、黒いフリルドレスをなびかせ、炎の剣を両手で握り、そこにいた。

 地面を足で削り、自分の体を急停止させている。舞い上がった草花が少女のまわりで踊った。

「バーニングカラム!!」

 次に聞こえてきたのは凛として澄んだ声。オイエスは反射的に声のしたほうへ振り返る。

 またしても少女だった。波打つ金髪に深い碧の目。細くとも豊満な肉体からあふれ出るのは火の粉。

 金髪の少女が右腕を高く上げた。瞬間、自分の後方で炎の細い柱が何本も天へ昇るのを視界の端で捉える。目を移すと、すでに炎は消え、黒コゲになった何かがいくつも転がっているだけだった。

 それらの前で呆然としているのは、赤髪の女剣士。そして、呆然としているのはオイエスも同じだ。

「大丈夫か?」

 蒼髪の少女が炎剣を消しながらこちらに歩いてくる。話す声は、高く甘えるような声だが、その口調は、可愛らしい外見には全然似合わないものであった。



「いやー、助かったよ。こいつはどうにも仕事が遅くてねぇ」

 赤髪の女剣士が、魔獣除けの前にしゃがんでいる青い髪の青年を軽く蹴飛ばす。

「いたっ、痛いじゃないか。やめてくれよ、手元が狂う」

 蹴られたところをさすりながら女剣士を見上げる青年。不満そうな顔をするが、すぐに魔獣除けに視線を落とし、作業を再開する。

「その魔獣除け、光ってないようだが・・・・・・何をしてるんだ?」

 ヴァンが気になり、青年に聞いた。アリアも気になってるようで青年を見る。

「これね、壊れてるんだ。だから僕が直してるってわけ」

 手を休めずに言う青年に、ヴァンが感嘆の声を上げる。

「へぇ、君は魔具師なのか」

 魔具師とは、魔道具を作成、開発、修繕を行う職人を指す。

「ま、こいつは今日初めて仕事につく見習いだけどねぇ」

 女剣士が笑った。アリアが興味深そうに青年と魔獣除けを覗いている。

「魔道具ってどうやって直すの?」

 男嫌いのアリアが珍しく自分から普通に話しかけた。青年が女のような顔つきをしていて、人が良さそうな人相をしてるからというのも理由にあがるだろうが、それ以上に魔道具に関して関心があるようだ。

 青年は側においてある袋から何かの部品を取り出しながら聞き返す。

「その前に、魔道具とはどういうものか、分かる?」

「そんなの簡単よ。部品の一つ一つに呪文を刻み込んで、組み立てることによって一つの魔術を完成させ、魔力を注ぎ込むだけで使えるようにした道具のことでしょ? 言うなれば、無詠唱魔術よね」

「大正解。部品一つずつに刻み込んでるもんだから、どれか一つでも壊れたら使い物にならなくなる、デリケートな代物。それが魔道具さ」

 ヴァンが横から口を出す。

「じゃぁその魔獣除けはどこか部品が壊れていて、それを新しいのに取り替えれば、本来の効果を発揮できるようになるというわけか?」

「ご明察。ところで、その話し方は自分作り?」

「・・・・・・・・・・・・いや、趣味だ」

 この姿になって口調のことを初めて突っ込まれた。とりあえず適当なことを言っておく。

「よし、できた」

 青年の言葉を合図に、魔獣除けが光りだす。臭いは人間には分からないが、正常に動いているなら出ているはずだ。

 青年が立ち上がり、改めてヴァンとアリアを見た。

「自己紹介がまだだったね、僕はオイエス。魔具師だよ。さっきは危ないところをありがとう」

「アタシはエリュト。見ての通り護衛剣士さ」

 名前を明かしてくれる二人に、ヴァンとアリアもそれぞれ自己紹介をした。

 その後、エリュトが礼をしたいと言い、それにオイエスが続き、断る理由もないヴァンとアリアは、この先のオイエスたちが住んでいる場所でもある『リモの街』を案内してもらうことになった。


 道すがらヴァンは、今の目的の人物である『フランガスタス』について尋ねた。

「秘宝を探してるエルフ? その人ならこの前会ったことあるかも」

 いきなり有力情報だ。ヴァンとアリアは驚きながらもオイエスに先を促す。

「名前は聞いてないんだけど、一週間くらい前だったかな、僕が入ってる魔具工房に来たよ。工房長と話してた」

「それで、会話の内容は?」

 アリアが聞く。

「うーん・・・・・・あの時はエルフの人が工房にくるなんて珍しいなぁとしか思わなくて、内容までは聞いてない。悪いね」

 ヴァンは考える。魔道具を作っている工房に来るということは、件のエルフで間違いないはずだ。となると、工房長との会話が気になる。『フランガスタス』の目的地などが分かれば、これ以上の情報は無い。

「その工房長から話を聞きたいな・・・・・・」

 ヴァンが呟くと、それを聞いていたエリュトがあっさりと答えた。

「じゃぁ話したらいいさ。工房長はアタシの親父なんだ」

「ホント!? ぜひお願いしたいわ!」

 男と話すということにも関わらずアリアが嬉しそうに言う。ヴァンも表情を明るくさせている。

 人探しというのは霧の中手探りで前に進むのと同じことだが、幸先が良い。霧が一気に晴れた気がした二人だった。



読んで頂きありがとうございます。人が増えると微妙にまとめきれません。もっと精進します!

感想批評、だいかんげいです〜

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