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第二十四話

このお話から『リモニウム共和国』編(?)です。

「うーあー・・・・・・頭がガンガンする・・・・・・」

 朝、目覚めたヴァンがベッドの上で座り、頭を抱え唸っている。完全な二日酔いだ。

「まぁ、あんだけ飲めばね。はい、水」

 アリアが昨夜のように水を手渡す。今回は、片手で勢い良く飲むヴァン。

「ふぅ・・・・・・少し楽になった。・・・・・・ところで、なぜ俺は下着だけなんだ?」

 ヴァンは自分の体を見下ろし、言った。

「なんでって、私が脱がしたからよ」

「・・・・・・何をした?」

 コップでふさがってないほうの片手で自分の肩を抱き、疑念の瞳でアリアを見上げる。

「な、なにもしてないわよ! ていうか、脱がせっていったのヴァンじゃないの!」

 あれだけ我慢したのに疑われては心外だ、内心思いながら反論するアリア。

「俺が!?」

 ヴァンは驚き、信じられないという顔をすると、黙った。

「覚えて、ないの?」

 アリアが聞く。ヴァンは呆然としながら肯いた。

「どこから覚えてないの?」

「どこから・・・・・・酒が目の前に置かれたのは、覚えてる」

「そのときのグラスの数は?」

「・・・・・・六つ、だったか?」

「・・・・・・今度から、お酒は飲まないようにしたほうがいいんじゃない?」

 アリアの言葉に、ヴァンは自分の返答が間違ってることに気づいた。


「二日酔いにはお風呂が一番よ」と落ち込むヴァンにアリアが声をかけ、お風呂場に引っ張っていく。

 酒に弱い――しかも一口飲んだだけで記憶がなくなるほど――という事実に少なからずショックを受け自失していたヴァンはされるがまま風呂場へ連れ込まれた。

 そのあと、風呂場から嫌がる悲鳴と少しのなまめかしい声が響いたのは言うまでも無い。



「はい、確かに。通って良いぞ」

 『リモニウム共和国』側の兵士がヴァンから渡された通行証を見て言った。兵士が手に持っているのは小さな用紙、『ガレーラ王国』側の扉近くに座っている兵士からもらった通行証だ。

 持ち込み禁止の物などを調べられたとき、アリアが体に触られるのは嫌、と言っていたが実際はマントを外し、中につるしていた道具袋を覗かれるだけだった。

「ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」

 疲れきった表情で礼を言う蒼髪の美しい少女に、兵士が口を開く。

「どうしたんだい? 顔色が悪いみたいだけど」

「あ・・・・・・いえ、なんでもありません。平気、です。・・・・・・失礼しますね」

 力なく微笑むヴァンは、足取り重く『リモニウム共和国』へ続く扉に近寄る。その後ろでは、アリアがニコニコと機嫌良く笑っている。その顔は血色が良い。

「あ、あぁ。気をつけな」

 リモニウム側の兵士もガレーラ側の兵士と同じく、対照的な二人を不思議そうな表情で見た。


 扉を開け、外に出る。太陽の光が眩しい。

 外をみたアリアが感嘆の声をあげる。

「へぇ・・・・・・本当に森がないのね」

 言葉通り、視界に広がるのは雄大な草原。見える範囲は全体的に平坦だが、ところどころ緩やかな坂になっているようだ。

 二人は草原を端から端まで見渡す。遠いところは朝靄でかすんでおり、時たま風車と思われる建物が小さくぽつぽつと見えた。

 ヴァンが、森はどこへいったのだろうか、と振り返り関所の右側を見た。森の部分が見える。関所を境に森と草原、きっちり分けられていた。いや、逆だろうか。森と草原の境に、砦を築いたのだろう。

「ねぇ、ヴァン。あれが『地の底へ続く奈落』よね?」

 アリアが北西を指差す。ヴァンが目を向けると、そこには巨大で灰色に染まった山脈が見えた。

 山脈はかなり遠くにあり、中腹部分から上しか見えない。下は完全に霧に包まれている。

「あぁ・・・・・・あの山の向こうには、でかい大穴、が、あるはずだ。噂に、よると、あそこは、魔族たちの、住む魔界への、入り口って話だが・・・・・・まぁ、しょせん噂だ、な」

 ヴァンが弱った声でゆっくり喋る。二日酔いに加え、風呂場でされたアリアからの攻撃(というセクハラ)により、体調は絶不調だ。

 ヴァンの説明を補足すると、山脈は実は山ではなく、大陸中心にある巨大な大空洞の外殻部分だ。

 誰が呼び始めたのか『地の底へ続く奈落』という名がいつの間にかつけられていて、それ以外は一切謎。調べようにも、大空洞外殻には竜などの強大な魔獣が生息しているため、近づくことすらできないのだ。

「魔族、ねぇ。本当にそんなのいるのかしら?」

 アリアが山脈の山頂部分を見上げながら言った。

「さぁ、な。魔族・・・・・・自体、おとぎ話に、しか、出てこない、しな」

 ぽつぽつと言った後、ヴァンは溜息をつき関所から伸びる街道を歩く。アリアはじっと山脈を見つめる。

「・・・・・・気持ち悪い山ね」

 ひとつ呟き、ヴァンの後を追った。



「はぁー、気持ち良い風だ」

 ヴァンが目を細め、両手を広げながら歩く。長く蒼い髪と黒いドレススカートが、風と踊る。

「本当。ガレーラとは全然違うわね」

 アリアも波打つ金髪を押さえながら同意した。マントが揺れている。

 そよぐ風は草原を走り、草花たちと合唱している。

「リモニウムには初めて来たが、風が俺好みだ」

 そういって笑うヴァン。どうやら風に当たっていることで体調もいくらか回復したようだ。声に張りがある。

「ヴァンは他の国に行った事あるのよね?」

「あぁ。西の『ネモフィラ国』に護衛依頼で一度な」

 ヴァンの口からでた名前に、アリアが目を輝かせる。

「えっ、『ネモフィラ国』行った事あるのっ?」

 思わぬ食いつきにヴァンが不思議そうな顔をしながら答えた。

「あぁ。だがあの時は、ある植物の採取だけだったから、どこにも寄ってないがな。関所近くですぐ見つかったし」

「そうなの・・・・・・残念だわ、色々聞こうと思ったのに」

 がっくりと肩を落とすアリアに、ヴァンが尋ねる。

「『ネモフィラ国』に何かあるのか?」

「知らないの? 『ネモフィラ国』はあの有名な『エルフの服』の産地なのよ!」

 興奮して言うアリア。

「いや、それは知ってるが・・・・・・それがどうかしたのか?」

「どうかした!? どうかしたですって! 多種族とほとんど交流をしないエルフがごく稀に売りに出すっていう幻の服の産地なのよ!? ともすれば、『ネモフィラ国』には普通に売られてるかもしれないじゃないの! 『エルフの服』は魔力を込めたわけでもないのに丈夫で肌触りは最高、しかもすっごく可愛いんだから! 欲しいじゃない、欲しいでしょ、欲しいっていいなさいよ!」

 一気にまくし立てヴァンに詰め寄ってきた。

「わ、わかったわかった。お前が『エルフの服』をすごく欲しがってるというのは、もう十分に」

 両手を前に出し、アリアの体をおさえる仕草をする。

「私だけじゃないわ。世界中の女の子が欲しいって思ってるわよ。それぐらい有名なんだから」

「そ、そうか」

 興奮冷めやらぬアリアの様子に、ヴァンが苦笑する。

「目的果たしたら、行ってみるか?」

「え?」

「だから、『ネモフィラ国』。お前の秘宝探しと俺を元に戻すこと、両方を終えたら行くか?」

 ヴァンは軽く話す。

「い、いいの? 本当に?」

 驚きながらも聞き返すアリア。

「? あぁ。やることを終えたら、だけどな」

 ヴァンは深く考えずに言っているだろう。だが、アリアにとってそれは重大なことだ。なぜなら、ヴァンの提案は、旅を終えた後も一緒に居てくれるという約束に他ならないからだ。

 アリアの胸が高鳴った。

「う、うん! 行く! 絶対よっ?」

 慌てながら声を大きくして言い、首をカクカクと縦に振るアリア。その端整な顔立ちは紅く染まっている。

 何をそんなに焦っているのかと思いながらも、ヴァンは頷いた。


 アリアは、関所にいたときより、さらに上機嫌な顔で足取り軽く緩やかな上り坂を歩く。

 急にヴァンが足を止めた。

「? どうしたの?」

 アリアが聞くが、ヴァンは、しっと唇に人差し指を立てる。

「・・・・・・何か聞こえる」

 その言葉に、アリアも耳をそばだてた。たしかに、何か声のような音がする。

「これって・・・・・・誰かが戦ってる!?」

 アリアが叫ぶ。二人は弾かれたように上り坂を駆け上った。あっという間に坂の頂上へつく。

「あっ、ヴァン! あれ!」

 アリアの指差す先、見下ろせる下り坂の向こうに二人の人影と、それを取り囲む数体の魔獣が視界に入った。

「アリア!」

「分かってるわ!」

 すべき事はただ一つ。

 二人は一気に下り坂を奔り、戦いの場へと向かった。



読んで頂きありがとうございます。背景の描写というのは中々難しいです・・・・・・いえ、描写は全部難しいんですけどね?

では、また次話にて!

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