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第二十二話

関所につきマカロニ!

 二人は関所門右下にある扉から中に入る。真っ直ぐの廊下が目に入ってきた。

 入ってすぐ右側に、横に長い机があり、その向こう側に兵士が座っている。

 直線の廊下の奥に扉が見え、その左に同じような横長い机と兵士が座っていた。あの扉の向こうが『リモニウム共和国』だ。

「こんばんは。今日はもう遅いから、通行証は出せないよ」

 兵士が何かを書きながら話しかけてきた。どうやら、扉近くにいる兵士が通行証を発行してるらしい。

「はい、分かっておりますわ。今晩はこちらの宿に泊まらせていただくつもりです」

 ヴァンがまたもや口調を変えて微笑む。

 ここに入る前に、今ここにはあの二人の冒険者がいるだろうから、他人との会話はこれで通す、と言っていた。

 ヴァンの、高く甘えるような声に、兵士が顔を上げた。目を見開いた状態で固まる。

「あの・・・・・・どうかなさいました?」

 首をかしげながら聞くヴァンに、兵士が慌てて答える。

「い、いや! なんでもない! や、宿ならそこのドアだっ」

 声を少し上ずらせながら、廊下の真ん中ほどにある扉を指差す。その顔は少し赤みがかかっていた。不思議そうな顔をしながらも、微笑みを戻し頭を下げる。

「ご親切にありがとうございます。さぁ、お姉さま、参りましょう」

 ヴァンが後ろにいるアリアを見ずに、宿屋の扉を目指す。アリアは冷ややかな目で兵士を少しの間見下ろすと、ふんっと鼻を鳴らしヴァンについていった。兵士はというと、あまりにも対照的な二人にただただ呆然としているだけであった。


 扉を開けると、中から喧騒が飛び出してきた。目の先には受付らしきカウンターが見え、その左右に上へ続く階段がある。受付を間に挟み、右側と左側は広い空間となっており、それぞれテーブルが四つずつあり椅子が並んでいる。食堂もかねているのだろうか、大勢の冒険者や兵士などが騒がしく食事をしている。

 二人が室内に入ってくると、喧騒が少しだけ収まる。皆物珍しげにヴァンたちを見ていた。無理も無い。アリアは黒マントをつけ魔術師風にしているので、まだ冒険者には見えるが、ヴァンのほうは今から舞踏会にでも行くのかという格好をしている。フリルがふんだんに使われている黒い服、レースの縫われたひざ下まであるこれまた黒いドレススカート。極めつけはちょこんと頭にのっている黒を基調にしたレースカチューシャだ。歩くごとに両端につけられたリボンがゆれる。

 ヴァンは室内全ての視線を受けても平然としていた。奇異な目で見られるのは、男のころからそうだったので慣れている。もっとも、その意味が逆転しているのには気づいていないが。

「い、いらっしゃいませ」

 カウンターの前までくると、受付の男が緊張した声で言った。

「二人なのですけれど、空いてますか?」

「は、はい」

「そうですか。それではそこをお借りできますか?」

「はい、ど、銅貨十枚になります」

 アリアがマントの中から貨幣袋を取り出し、銅貨を十枚だした。

「どうも、ちょうどいただきます。ここれが鍵です」

 ヴァンが受付の男から鍵を受け取り、微笑んだ。

「ありがとうございます」

 その時、男とヴァンの手が少し触れる。男は電撃が走ったかのように手を引いた。怪訝な表情を浮かべたヴァンだが、すぐに微笑みを顔に貼り付ける。

 と、後ろから声をかけられた。振り向くと冒険者らしい男が二人立っていた。

「よぉよぉ、嬢ちゃんたち、こんなとこでお泊り会かい? 夜はこわいだろー? おにいさんが一緒にねてやってもいいぜぇ」

「おまえそれ、寝る意味がちげーだろーが」

 下卑た笑いをあげ、近づいてくる。冒険者に女性が少ないというのも理由の一つだが、関所には女性が少ない。居るとすれば料理を作っている中年女性くらいだ。ゆえに、二人のような若く美しい女性は、年端もいかない少女であろうとも狙われる。

 狼の群れに羊が迷い込むようなものだ。もっとも、二人とも羊の皮を被っている狼以上の狼なのだが・・・・・・。

 アリアが近づいてきた男二人を睨み、声を低くさせて言った。

「くさい息を吐き散らさないでちょうだい。それ以上近づいたら焼き殺すわよ」

 アリアの言葉に、男二人の顔から笑いが消えた。短気だな、とヴァンは思った。

「このアマ、下手に出てりゃつけ上がりやがって」

「はぁ。あんたたちみたいなのって、言うことみんな同じなのね。魔獣のほうがもっとボキャブラリーあるわよ」

 波打つ金髪を手で払い、アリアがさらに毒を吐く。二人の男が顔を真っ赤にさせ、腕を振り上げた。ヴァンが両腕に魔力を込め、アリアも体から火の粉を散らした。

 だが、その腕が振り下ろされることは無かった。後ろから何者かに腕を掴まれたからである。

「おいおい、女に手ぇあげるたぁ、どういう了見だ?」

 聞いたことのある軽そうな声。腕を振り上げた男が振り向いた。そこにいたのは先ほどまで一緒だった剣士だ。

「なんだてめぇは!」

 腕を掴まれてないほうの男が、なんだといいつつ剣士に殴りかかろうとする。が、こちらも簡単に腕を掴まれた。掴んだのは、剣士の後ろに居た斧男だ。

「やめておけ。だいたい貴様ら、その女が誰か知ってるのか?」

 軽く腕を掴まれた男は言葉の意味が分からず、声を荒げる。

「あぁ!? しらねーよ! なんだてめーら!」

 剣士が肩をすくめ、掴んでいた腕を離した。そこには手形が赤くついている。

「おまえら、さては新人だな? おれらのことならまだしも、その女を知らねーとは」

 斧男も剣士に倣い、男を解放する。

「貴様らも噂くらいは聞いたことあるだろう? その女は『狼殺し』だぞ」

 『狼殺し』。その言葉に、悪漢二人の顔が青ざめる。ゆっくりとアリアのほうを向くと、火の粉を散らしながら、視線で人が殺せるかというほどの目で睨んできている。

「こ、こいつが、あの『狼殺し』!? 男が肩に触れただけでいきなり燃やしてくるっていうあの!?」

「『長生きするコツ? あの女に近づかないことさ』といわれてるほどの魔女が・・・・・・この女!?」

 聞いていて何だか頭を抱えたくなったヴァン。こいつは今まで本当に何をしてきたんだろうか、と本気で気になった。

「ひ、ひー!」

「おたすけー!」

 情けない言葉と共に、男二人は食堂から逃げだした。アリアが火の粉を消すが、その表情は険しいままだ。剣士と斧男を睨む。

「誰も助けてなんて言ってないんだけど?」

 斧男が苦笑する。

「まぁそう邪険にするな。君は良くても、君の妹に危険が及んだかもしれないだろ?」

 そういって剣士と斧男がヴァンを見る。正直、全く平気だったのだが、一応礼を言う。

「ありがとうございます。助かりましたわ」

「良いってことよ。それより、あんたら、メシまだだろ? 一緒にどうよ?」

 直球で誘ってくる剣士に、ヴァンが困った表情を作る。

「ええっと、嬉しいお誘いなのですけれど、お部屋で食べようかと思っているので。その・・・・・・ここはちょっと怖いですし」

 という心にも無いことを言う。もちろん、怯えるような顔で少し俯くのも忘れない。

「だいじょうぶだって。おれたちが一緒にいればあんなことはもうないからよ」

 それでも食いついてくる剣士。斧男は黙っていたが、その目には少しの期待が見える。そこで、アリアが横から口を出し、意外にも了承した。

「あんたたちの奢りなら食べても良いわよ」

 三人は驚いた顔でアリアをみた。まさか男嫌いの『狼殺し』から許しをもらえるとは思わなかったからだ。だから、ヴァンに言ったというのに。

「あ、あぁ。別にいいぜ」

 剣士が顔を引きつらせている。その隣では斧男がふっと笑っていた。アリアは鼻を鳴らすとそっぽを向いた。


 ヴァンとアリアは部屋右側のテーブルに座っている。剣士と斧男は、宿屋の部屋をとっている最中だ。

「どうしたんだ? 男嫌いは治ったのか?」

 ヴァンの言葉に、アリアが顔をゆがめる。

「冗談言わないで。男と一緒にご飯食べるくらいなら、断食したほうがマシだわ」

 はき捨てるように言うアリア。ヴァンはますます訳が分からない。

「じゃぁなんで奢りなら良いと言ったんだ?」

「だって、あいつら、ヴァンへの報酬も掠め取ったんでしょ?」

 アリアが指す報酬とは、A級魔獣討伐依頼の報酬のことだ。一人頭金貨三枚。ヴァンを死んだことにしたので、ヴァンの分はあのときの九人に分けられているだろう。

「事実も文句も言えないなら、せめてあいつらの財布を軽くしてやるわ!」

 アリアは間違った方向への報復に燃える。

 どの行動も、自分を想ってのことだと思うと、頬が緩むのをおさえられないヴァンであった。



読んで頂きありがとうございます。あれ?実は剣士さんと斧男さんって良い人?

感想批評、大歓迎でございます!

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