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第二十話

久々?に登場する人がががが。忘れていた方もいらっしゃるのでは!

「『狼殺し』・・・・・・まさか生きてるとは思わなかったぜ」

 剣士の言葉に、アリアがヴァンから視線を外し、前を見据える。

「気安く話しかけないでくれるかしら?」

 苦い顔をする剣士。斧を持った男が、荷車から飛び降り、剣士の隣に立つ。口を開いた。

「まさか、倒したのか、あの魔獣を」

「魔獣? どの魔獣のことをいってるのか分からないけれど。何のことをいってるの?」

 剣士と斧を持った男が武器を下ろすと顔を見合わせた。

「何って・・・・・・『狼殺し』よ、まさかおれたちのことを覚えてないのか?」

 斧を持った男の問いに、アリアが声を荒げる。

「知らないわよ、あんたたちなんか。男のことなんて覚えたく無いわ」

「なら魔獣のことなら覚えてんじゃねーのか? A級魔獣の・・・・・・」

 それにピンときたヴァン。道理で見たことがある顔だとおもった。あのとき、ヴァンと一緒に依頼を受けた剣士と斧男だ。

「A級魔獣? わけわかんないことばっかり言ってるんじゃないわよ!」

「アリア、アリア」

 怒鳴るアリアのマントを、ヴァンがくいくいと引っ張る。そして荷馬車と斧男たちから少し離れたところで、アリアを屈めさせ、耳に自分の顔を近づけた。

「なに?」

「あいつら、俺たちが初めて会ったときに、俺と一緒にいた冒険者たちの内の二人だ」

 アリアがその言葉に目を見開き、流し目で二人を見る。そういえば、あの斧男は一番最後に逃げ出した奴に似てるような・・・・・・。

「・・・・・・ということは、あの二人がヴァンを死んだことにしたってわけね?」

「まぁ、あいつら二人だけってわけじゃないが、共犯ではあるだろうな」

 ヴァンが肯定するとアリアは、そう、と呟き男たちを睨み、ずんずんと男たちへ詰め寄っていく。

「あんたたち、よくもヴァンを死んだことにしてくれたわね」

「ヴァン? 誰だそれは?」

 斧男が眉をひそめ、聞き返す。アリアは、わざと聞き返されたと思った。あのとき、自己紹介などはしてなかったので、男は本当に分からなかったのだが、アリアもそれを知らない。

「とぼけないで。あのとき見捨てていったローブつけた人がいたでしょう!」

 アリアの怒声が飛ぶ。剣士と斧男の表情が固まるが、剣士はすぐ復活してきた。

「死んだことにしたわけじゃねーよ。どうせ殺したんだろ?」

 剣士の言葉に、アリアの体から大量の火の粉が舞い上がる。アリアが何を言おうとしているのか察知したヴァンが慌ててアリアの口を両手でふさぐ。

「殺してないわよ! 現にここにい、むぐぐー!」

 二人の男が不思議そうな顔で見てくる。

「あ、あははー」

 ヴァンが愛想笑いというレアな表情を浮かべながら、ずるずるとまたアリアを引っ張っていく。

「ぷはっ、なんで邪魔するのよ!」

 ヴァンの手から解放されたアリアが叫ぶ。ヴァンがアリアのマントの襟を掴み、ぐいっと自分の顔に引き寄せる。小声で話す。

「お前、俺が男だったことを言おうとしただろう?」

 つられてアリアも小声になった。

「当たり前じゃない。だってあいつら、ヴァンを死んだことにしたのよ? しかも報酬までもらってっ。文句言ってやるわ!」

 本気で怒ってるようだ。自分のために、とおもうと、なんだか気恥ずかしくなるヴァン。気を取り直して、さらに声を小さくした。

「俺が生きてるとばれたら、少しまずい」

「・・・・・・どうして?」

「あの時の真実・・・・・・つまり、虚偽報告を知ってるのは、俺とお前、あとはあの九人の冒険者たちだけだ。お前はあのとき依頼の存在さえ知らなかっただろうから、報告についてもバレることはないと考えたとして・・・・・・」

「ヴァンは私が殺したと思ってる、でしょう?」

「その通りだ。だが、もし、俺が生きてると分かり、あいつらが、俺が虚偽報告という不正をギルドに報告しようとしている、と考えたら?」

 そこでアリアはヴァンが言おうとしてることに気づいたらしく、あっ、と声をあげた。

「そういうことだ。お前を見て逃げ出したのは、まぁおいといて、一応A級魔獣討伐依頼を受けられるくらいの実力をもってるはずだ。それが九人となった場合、なす術がない。いや・・・・・・今の姿じゃ、一人を相手にしてもどうなるか・・・・・・」

 悔しそうな顔をするヴァンに、アリアが少しの希望を持って言う。

「で、でも、いくらなんでも殺そうとは考えないんじゃない?」

 ヴァンはアリアを一度見上げると、首を横に振った。

「いや、もし不正がばれたら、今後一切冒険者ギルドから依頼を受けることはできないだろう。そうなれば、先立つものがなくなってしまうからな。旅も出来なくなる。・・・・・・冒険者は誰も彼も夢や野望を持ってるんだ・・・・・・その中に、人を殺してでも叶えたいものがない、なんて言いきれないだろう?」

 アリアは目の前がいきなり暗くなったように感じた。ヴァンを女にした影響がこんな危機につながるなんて思いもよらなかった。あのとき、ヴァンが男の姿のままギルドに戻っていれば、状況はもっと違ったはずだ。

「そんな顔をするな。俺があの『ヴァン』だと気づかれなければいいんだ。お前が女にしてくれたおかげで、バレる要素は全く無いといっても良い。男のままだったら、九人の冒険者を一人ずつ殺られる前に殺らないといけなかったからな」

 泣きそうになっていたアリアに気づき、ヴァンが微笑んで頭を撫でた。最後の言葉は、片目を閉じて言う。可愛い企みを告白する女の子にしか見えなかった。

「ヴァン・・・・・・」

 アリアが熱っぽく名前を呼び、両手を下のほうからワキワキと動かしながら、今まさにヴァンを抱きしめようとした瞬間、剣士が声をかけてきた。

「なぁ何をひそひそ話してんだ?」

 ヴァンが首を動かし、アリアから離れる。怪しい両手には気づいていないようだ。ちっ、と舌打ちをし、剣士を睨む。と、次に聞こえてきたのは信じれない言葉だった。


「いえ、なんでもありませんわ、おほほ」

 ものすごい勢いでヴァンを見るアリア。一瞬、本当にヴァンが言ったのか自分の耳を疑った。ヴァンは上品に手を唇に当て微笑んでいる。

「そうかぁ? あっやしいなぁ、『狼殺し』と一緒になって、おれたちが油断したところを突く気だったんじゃねーの?」

「あら、ご冗談を。わたしたちがお強そうなお二人に敵うわけないじゃありませんか」

 ころころと笑うヴァン。長く蒼い髪が震え、黒いドレススカートが微妙に揺れる。

 どうやらアリアの耳は正常だったらしい。本当にヴァンが喋っている。斧男と剣士はヴァンの言葉に気を良くしたのか、肩から力を抜いている。

「あなた方も、関所に向かわれるのですよね? よければわたしたちもご一緒させていただけませんか? 今お姉さまとその相談をしておりましたの」

 ヴァンが微笑みながら、またも衝撃的なことを言う。正常だと安心した耳をまたもや疑う羽目になったアリア。もう驚きで声もでない。だがしかし、お姉さま、の部分だけは脳に刻み付けたという取捨選択は忘れてない。

「ふむ、たしかに、最近の森は物騒と聞くしな。少し待っていろ・・・・・・だが・・・・・・」

 斧男が言い、アリアをちらっと見る。ヴァンはその視線に気づき、微笑みを絶やさず口を開いた。

「お姉さまも良いと言ってくださいましたわ。ただ少し男性の方が苦手ですので、話しかけないなら、と・・・・・・」

 ふっと悲しそうに目を伏せるのを忘れないヴァン。斧男は、ふむ、と何か考えるような仕草をした。

「よし、少し待っていてくれ」

 斧男と剣士が、蚊帳の外であった商人に振り向き、いくらか会話をしている。

 その間、今度はアリアがヴァンの顔に自分の顔を近づけ小声で話す。

「ちょっと! 今の何!? ていうか、なに!? なんなの!? なんであいつらと一緒に行かなきゃいけないわけ!?」

 かなり動揺しているようだ。ヴァンが微笑みを消し、アリアを見た。

「落ち着け。今の話し方については、適当に真似してみただけだ。冒険者は情報に敏感。俺たちが知らないことをあいつらは知ってるかもしれない。間違った情報もあるかもしれないが、選べる素材は蓄えておくべきだ。話は俺がするから、少し我慢してくれ」

 真剣だった表情が、途端に微笑みに変わる。そして小声ではなく、普通の声量で言った。

「お願いしますわ、お姉さま」

 アリアの背中に何ともいえない衝動が走る。そこにまた剣士の声が届いてきた。

「よぉ、うちの依頼主もオーケーだとよ」

 ヴァンが男たちに顔を向け、明るい笑みを浮かべると両手を胸の前で、ぽん、と合わせ、

「まぁ、ありがとうございます。よろしくおねがいしますね」

 よろしくおねがいしますね、の部分で、上半身を少しだけ斜めにした。あまりにも自然で、あまりにも可憐な少女の仕草。このときアリアが心の中で、イイ!! と叫んだのを、ヴァンは知らない。


読んで頂きありがとうございます。

というわけで、今回ヴァン子誕生しました。誤字脱字報告、感想批評、大歓迎でございますわ♪

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