第十八話
ちょっとしたイヤン(?)なシーンがあるやも!
※この作品は全年齢対象であり、健全なエロスを目指しているわけではないです。
「往生際が悪い」
前方から迫る大量の蔓をヴァンがなぎ払う。しおしおに枯れた蔓は炎剣が触れた瞬間に灰となっていく。
「あんた、結構楽しかったけど、さよならね」
ヴァンが蔓を切ってくれているので、その後ろにいるアリアには触手が伸びてこない。すっと右手を前に出す。炎の塊が激しく燃えた。瞬間。
「甘いデース!」
魔獣が叫ぶ。
「あっ!?」
その声は誰があげたものか。アリアが炎を放つより先に、二人が立つ地面から、数本の蔓が飛び出してきた。あっという間に二人の両足、腰、腕に巻きつく。
「しつこいぞ!」
ヴァンが炎剣で戒めを斬ろうと、剣を持った腕を振り上げる。魔獣はかなり弱っているらしく、拘束力はほとんどない。なぜ気づかなかったのか。その答えをヴァンは知っている。簡単だ。地面からの攻撃には殺気が全く感じられなかったからだ。少しでも殺す気があれば、すぐに気づいたはずだ。
「きゃぁ!」
すぐ後ろから聞こえてくる悲鳴に、ヴァンは炎剣を振り下ろすことができず、慌てて振り返る。
「アリア!?」
見ると、地面から伸びる触手がアリアのスカートを持ち上げようとしていた。それを必死で押さえる金髪の乙女。
「やっ、ちょっと! なにすんのよ!」
顔は羞恥の赤に染まり、いきなりのスカートめくりに驚き過ぎて、炎塊は消してしまったらしい。完全な戦闘放棄状態になっている。ヴァンはその光景を呆然とみていた。
少し後ろで、クローロがトーニャの目を両手で隠し、ミリナが村長とクローロの目を笑顔で押さえているのが見える。
「あはーはー、女性にやってはいけないことと教えられマーシタが、やってはいけないこと、ツマーリ、すばらしい攻撃だったというわけデースね、さすがミー! テンサイ!」
その言葉に、我に返ったヴァンは、アリアから視線をはずし魔獣を睨む。
「教えられただと? 誰からだ? そいつから人の言葉も教わったのか?」
両足に絡みつく蔓が、徐々に上へ上がってきているがヴァンは全く気にしていない。魔獣の二つの赤い点が、細められた気がした。
「そんなことを教えるわけありまセーン。ほーら、はやくその嫌な火を消して服を押さえなサーイ」
ヴァンのドレススカートが一本の蔓にゆっくり持ち上げられる。だがヴァンはそれを気にも留めない。後ろからは、やめなさい! ちょ、まっ、とか聞こえてくる。
「その話を詳しく聞かせたら、問答無用で燃やし尽くすのは勘弁してやろう」
ドレススカートを押さえるどころか、炎剣さえ消さない上、さらに剣を少しずつ上に持ち上げていく。そんなヴァンに、魔獣が冷や汗をかく・・・・・・かいたように見えた。
「い、いいのデースか? はやく押さえないと、全部見えてしまいマースヨ? ほらほら、上着もやっちゃいマースヨーォ?」
ヴァンの腕に巻きついていた蔓を二本、フリルが沢山ついている上着の中に入り込ませてきた。ずりずりとドレスをあげていく。後ろから、ぶぱっ、と何かが噴き出す音が聞こえた。
「さっさと話せ」
腕を振り下ろす。魔獣の頭に炎剣がさくっとめり込んだ。
「オーマイガァァァァッ!」
魔獣が燃え上がった頭を両手でバンバンたたきながら、地面でのた打ち回る。と、二人の体に巻きついていた蔓が地面へ戻っていく。ヴァンがアリアに振り返った。
「平気か? アリア」
アリアが今度は両手を、スカートではなく鼻に当てている。地面には血痕。ヴァンが目を見張ってアリアに近づいた。
「ど、どうした。どこか怪我をしたのか?」
アリアはぶんぶんと顔を横に振り、鼻づまりの声を出す。
「ううん、なんでぼない。どこぼ怪我じでないわ」
それならいいが・・・・・・とヴァンは改めて魔獣に向き直る。魔獣が頭の火を消したあとヴァンに叫ぶ。
「ワァイ!? なぜ!? どうしてガールはそこのキンパツガールのように恥かしがらないのデースか!? ニンゲンのガールたちは、ああいうことをされるととても傷つくと聞きマーシタのに!」
ヴァンが剣の切っ先を座り込んでいる魔獣に向ける。
「普通はそうかもしれんが、あいにく俺は最初っから女だったわけじゃないからな。気にならん」
その言葉に、魔獣が愕然とする。
「そ、そんな・・・・・・それほど美しくて可憐で、美の女神が嫉妬しそうナーノニ・・・・・・」
後ろで、うんうん、と言うアリアの感慨深い声が聞こえる。ヴァンが顔をしかめた。
「なのに・・・・・・ガールはオカ、ヘブァァ!!」
言い終わる前にヴァンの右回し蹴りが魔獣の顔を襲った。そのまま、横倒れになる魔獣の頭を踏みつける。
「そうじゃない。今度それを言ったら、ひねり潰す」
魔獣が首を少し動かし、ヴァンを見上げた。
「オ、オーケー。ガールが本当にガールなのは、分かりマーシた。なぜなら下着しか見えまセーンが、オスの持つアレが見えナ、ドルブッファァ!」
今度はヴァンは何もしていない。今の悲鳴が上がったのは、ヴァンの背後から残像を残すほどの速さで走ってきたアリアが、魔術師らしからぬ蹴りを転がる魔獣に叩き込んだからだ。
ヴァンの足が踏みつけるものをなくし、とん、と地面につく。アリアがボロ雑巾の如く倒れる魔獣を指差し、怒声を上げる。
「女の子の・・・・・・しかもヴァンのスカートの中を覗くなんて、万死に値するわ!! 自らの体が燃える様を見せながら殺すわよ!」
魔獣はピクピクと体を形作っている蔓を痙攣させている。
「それと、ヴァン!」
アリアの剣幕にたじろいでいたヴァンは、突然名前を叫ばれて、びくっと体を浮かせる。
「いい? 女の子はそう簡単に色々なところを見せちゃいけないの! それなのに、あんな触手的な感じでドレスをめくられちゃって・・・・・・ごちそうさまでした!」
「・・・・・・何を言ってるんだ?」
叱られているのか何なのか分からないヴァンは、思わず首をかしげた。
「ていうか、お前、鼻血出てるぞ」
「はっ! いけない思い出し鼻血がっ」
慌てて鼻に右手をもっていくアリア。ヴァンは何を思い出したのか追求するのはやめておいた。かなりの確率でろくな事じゃないはずだ。ヴァンにとって。
「うっ・・・・・・うっ・・・・・・」
すすり泣く声がする。ヴァンとアリアが転がる魔獣を見た。
「・・・・・・泣いてる?」
「みたいなだ。魔獣も泣くのか」
欠片も心配していない声で二人が言った。魔獣ががばっと起き上がる。その赤い二つの点からはなけなしの水分が流れていた。
「ガールたちはなぜミーを邪魔しマースか? ミーはただこの村のミリナちゃんとお付き合いしたかっただけナーノに!」
わっと泣き崩れる魔獣。きょとんとした二人は目を見合わせ、魔獣に視線を落とした。アリアが口を開く。
「ちょっと、お付き合いしたいだけって・・・・・・あんた、ミリナさんを差し出せっていったんでしょ?」
嗚咽を漏らしながら魔獣が座りなおし、二人を見上げる。
「イエース、言いマーシた。ニンゲンの女性は、ぐいぐい引っ張るぐらいのワーイルドな男が好きと聞きマーシたから」
「・・・・・・差し出さなかったら村人を皆殺しにするっていうのは?」
続けてヴァンが聞く。
「オーウ、ホントに殺すつもり全くありまセーン。これも聞いたことなのデースが、強い男に惹かレールと。だから、ミーがどれくらい強いか分かってもらうターメ、言いマーシた。ミーは植物デース、生物を殺しても食べることはできまセーン。殺したくもありまセーン」
二人はまたお互いの顔を見合うと、ため息をついた。もしこの魔獣の言ってることが本当なら、とんだ勘違いだ。少なくとも、言葉の意味を全てマイナスに捉えている。
「なぁ、お前、たぶん・・・・・・というか、絶対間違えてる」
え、と固まる魔獣。
「そうね・・・・・・あんたがそんなこと言ったもんだから、ミリナさんたちはあんたがミリナさんを食べるために差し出せと脅迫しているって思ってるわ」
「ワ、ワッツ!? ミーはミリナさんを食べたりしまセーン!」
「ふむ・・・・・・そういえば、お前、ずっと村の入り口にいたな」
「ギクッ」
「村人が村から出ようとすると脅してたって言うけど、何がしたかったの?」
「それは〜・・・・・・ソノ〜」
しどろもどろになる魔獣。怪しい。もしや今までの話は全て嘘なのでは? とヴァンが炎剣を構えなおす。
「ま、まってくだサーイ! 違うんデース! 最近の森は物騒ですカーラ、村人が出ないようにしたほうがいいト、言われたからデース!」
ヴァンが剣を下ろす。
「・・・・・・誰から教えてもらったんだ?」
聞くが、魔獣は首を横に振る。
「それだけは教えられまセーン。あの人との約束デース。人の言葉と、女性を落とすホウホーウを教えるカワーリに、あの人のことを誰にも言わナーイことート、村人を森にださナーイようにすること。その二つを約束しマーシた」
ヴァンが何かを考えるように左手をあごに添える。
「とりあえず、ミリナさんたちに話したほうがいいかもね。この魔獣のこと」
「あ、あぁ。そう・・・・・・だな」
オー、リーちゃんと呼んでくだサーイ、という魔獣の言葉を無視し、ヴァンは頷いた。アリアが村長たちのところへ走る。それを見送り、ヴァンは魔獣を見た。
「・・・・・・お前を殺そうとした俺たちを、お前は殺そうと思わなかったな? なぜだ?」
それは戦ってるときも、蔓を体に巻きつけたときも、ずっと持っていた違和感。この魔獣からは全く殺気を感じなかった。そう、一瞬も、だ。
魔獣はヴァンの言葉に、肩の部分をすくめた。
「おかしなことを聞きマースね。殺されそうになったら、必ず相手を殺す気にならないといけないのデースか? ガールたちはニンゲンデース。魔獣じゃありまセーン」
言外の意味を理解したヴァンは、ふっと微笑み炎剣を消すと、空を見上げた。月が綺麗だ。
「そうだな・・・・・・。リーちゃん、お前、かなりニンゲンくさいぞ」
そういってヴァンは、愛ではないが少しの信用を込めて、リーちゃんに言う。
どんな顔をしているのか分からなかったが、アハーハー、と笑うリーちゃんの声が聞こえた。
読んで頂きありがとうございます。
見た目はかっこ悪いかもしれないリーちゃんですが、作者は結構気に入ってます。喋り方考えるの大変でした。反省。後悔はお腹の中。
誤字脱字、感想批評、大歓迎であります。え?普通?ネタ、なくなりましたもの。