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第十六話

さぁ始まりましたよ、行くでヤンス、ワーッショイ、まともにはじめる気ありますか?

・・・・・・はいっ、では、どうぞ〜!

「ねえちゃあああああん!」

 応接室の扉を壊さんばかりの勢いで開き、転がるように入ってきたのは緑髪をした赤い瞳の小さな男の子。トーニャだ。

「トーニャ!? お話してるときははいっちゃだめっていってるでしょ!」

 飛びついてくる小さな弟を抱きとめながら叱るミリナ。トーニャがミリナを見上げる。

「ひっくっ、ね、ねえちゃん、魔獣に食べられちゃうってほんと・・・・・・?」

 声は上ずり、小さな顔は涙でくしゃくしゃになっている。部屋の前で話を聞いていたようだ。

「それは・・・・・・」

 ミリナが目をそむける。トーニャにはそれが肯定にみえた。ますます瞳から涙が溢れる。助けを求めるように、あたりを見渡す。ヴァンと視線があった。

「めがみさまっ!」

 テーブルの上をドタバタと乗り越え、ヴァンに抱きつく。

「ぐふっ」

 トーニャが幼く軽いといっても、勢いがつけばそれなりに痛い。しかも座っている長椅子にはさまれる形になる。ヴァンは喉から何かが出てくるかと思った。

 トーニャはそんなヴァンに気づかず、フリルのついた黒ドレスにしがみつく。

「女神様! 女神様強いんでしょ! 魔獣を倒してください! ねーちゃんをたすけてください!」

「あぁ。良いぞ」

 あっさりと了承するヴァン。ため息をつくアリアをのぞいた全員が驚きの表情でヴァンを見た。一番に我に返ったのはミリナだ。

「い、いけません! 危険すぎます!」

 自分の命のほうが危ないというのに、ヴァンの身を案じてくれている。ヴァンは苦笑した。

「君は自分の命だけを心配していればいい。そんな話を聞かされて見捨てるほど俺は冷酷じゃない。それに・・・・・・一人じゃないしな。なぁアリア?」

 言いながらアリアに視線を向ける。アリアは呆れたような顔をするが、その口元は微笑んでいた。

「どうせこうなると思ってたわ。えぇ、もちろん手伝うわよ。私との約束を果たす前に死んでもらっては困るもの」

 アリアは思う。本当にお人好しだと。ヴァンと過ごした時間はまだ短いが本当にそう思う。

 自らの人生を狂わせるほどの行いをしたアリアを一瞬で許してくれたし、そのせいで負った傷も絶対にアリアのせいにしない。さらに、自分を死んだことにした冒険者たちに対しても、次の日には気にも留めていない。自らに関心がないのかと疑うほど、他人に優しい。優しすぎるとさえ言える。もっとも、それはあの日あの時、初めて出会った場所で魂を見て分かっていたことではあったが。

 じっと見つめてくるアリアに、ヴァンは微笑んで片手をあげた。

「安心しろ、約束は必ず守る。さっさと終わらせてまた秘宝探しを続けよう」

 そのまま視線をはずしたヴァンに、アリアは呟いた。そっちじゃないんだけどな、と。もちろん、ヴァンには聞こえていない。

「でも・・・・・・だめです。あなた方にもしものことがあったら」

 ミリナが辛そうな顔をする。ヴァンはまた一つ苦笑すると、今度は村長に言う。

「それじゃぁ、村長さん、俺たちを雇ってくれ。こう見えても冒険者でな。ギルドにも登録してある。報酬は・・・・・・そうだな、少しの銅貨と寝る所でいい。どうだ?」

「お願いします」

 即答する村長。

「お父さん!?」

 ミリナが目を見開き頭を下げている父を見る。

「承りました」

 ヴァンは三度目の苦笑をしながら、契約を成立させた。

「ま、まって」

 制止の声を上げるミリナに、アリアが口を開いた。

「私たちはたかが魔獣に遅れをとらないわよ。それともあなた、親と可愛い弟を悲しませるほうがいいの? あのバカ男はどうでもいいけど」

 アリアの言葉に、ミリナは何もいえなくなった。さりげなくクローロを罵ったことには気づいていないようだ。

「女神様・・・・・・ねーちゃんを助けてくれるの?」

 まだ服にしがみついているトーニャがヴァンを見上げてくる。ヴァンは微笑むと、トーニャの頭をなでた。

「あぁ。任せろ。魔獣なんてこの女神様が軽くぶっとばしてやるからな」

 トーニャは泣き顔を一変、明るい表情を浮かべると再度ヴァンに抱きついた。

「ありがとう、女神様!」

 ぐりぐりと胸に頭を擦り付けてくる。その感触にヴァンは少し身じろぎした。

「と、トーニャ、ちょっとくすぐった・・・・・・ひゃっ」

 奇声を上げたヴァンに、ミリナが慌ててトーニャを引っ張った。襟を引っ張られたトーニャは不満そうな顔をしたが、ミリナが怒った顔をするとしぶしぶヴァンから離れ、ミリナのひざの上に座った。ヴァンは少し頬を赤らめさせ、一つ咳をすると、ごまかすように紅茶を飲む。アリアが心底うらやましそうな表情をしていたが、無視することにした。



 もう日は完全に沈み、明るいときは鳥たちの合唱が聞こえてきた森も、今は獣の遠吠えしか響かない。空を見上げると、大きな月が見え、沢山の星々が瞬いていた。

 ヴァンとアリアは大井戸の前に立っていた。夜風は少し強く、ヴァンのフリルがふんだんに使われた黒いドレスと、月光をうけてきらめきをもつ長く蒼い髪が暴れる。

 少し離れたところで、村長家族が二人を見守っている。その中にクローロは未だ居ない。

「それにしても、可愛い弟、か。男は嫌いなんじゃなかったのか?」

 ヴァンが隣を見る。アリアが夜風にあおられる波打つ金髪をおさえていた。

「別に男だったら無条件に嫌いってわけじゃないわよ。子供は好きよ。純粋だから。たまに何を考えてるかわからないけどね」

「そうだな、ときたま突拍子もないことを言うときがあるな」

「女神様とかね」

 くすりと笑うアリアにヴァンが顔をしかめる。とりあえず言葉を無視し、聞きたいことを口にした。

「魂の色とかいうやつをみても分からないのか?」

「あのね、常に魂の色を見てるわけないじゃないから。いつもは見えないようにしてるわよ。私だって考えてることを知られるの、嫌だもの」

 妙なところで律儀だ。だが、ヴァンはアリアのそういうところを好ましく思う。

「ん? じゃぁなぜ俺の魂は見たんだ?」

 疑問を投げかけられ、アリアが頬を少し紅潮させ、うつむく。

「・・・・・・だって、顔こわかったんだもの」

 恥かしがるように言うアリアは、まさに花も恥らう乙女と言えたが、ヴァンは結構真剣にショックを受けており、それどころじゃなかった。

 と、ヴァンが気配を感じ取る。アリアも気づいたようだ。表情はすでに臨戦態勢。

「来たな。夕方村のすぐ近くにいたやつと同じ気配だ」

「そうなの? 全然気づかなかったわ」

「嘘をつけ」

 正面の村の入り口から、奇妙な叫び声が轟き、地響きが続く。暗い闇の中から、何かがこちらにかなりの速度で向かってくる。近づいてくるにつれ月明かりにさらされた姿がはっきり見えてくる。大量の蔓だ。冗談抜きで蔓で出来ていた。何本もの巨大な蔓を一つの束にし、人形をとっている。両足の部分は人のように歩いているわけではなく、無数の蔓をウネウネと動かして水平移動していた

「・・・・・・なんだあれは」

「さぁ・・・・・・はじめてみる魔獣だわ」

 恐れを全く含まないどころか、やる気すら感じられない声で話す二人。魔獣が二人の前で止まる。間近で見る魔獣は思いのほか大きく、村の家屋より高い。小柄なヴァン三人分ほど。人の形をとっている大量の蔓は、両腕を広げウニョウニョと動かしており、体中からも蔓がはみ出ている。頭と思われる部分には、赤い点が二つ。目だと思われる。魔獣はヴァンたちを見ると、声を発した。

「ヘイヘイヘーイ! なんだいガールたちは! ミーはミリナちゃんを差し出せといったハーズ!」

 二人は顔を引きつらせた。本当に人語を喋ったことに対して驚く場面だが、素直に驚けないというか、ありがたみがないというか。もう何というか何というかである。

「おんやぁ? でもガールたちもすっごくかーわいーネイ! よし、ミーのアイジンにしてあげYOU!」

「キショイ」

 ウネウネと体を動かす魔獣に、アリアがとうとう言ってしまった。固まる空気。そこにヴァンのフォローが入る。

「おい、アリア。いくら魔獣とはいえ、言葉は選んでやれ。気持ち悪いくらいにしておけ」

 訂正。トドメだった。プルプルと蔓を震わす魔獣が、怒った。それは怒る。人間でも怒る。魔獣は両手を突き出して、蔓を伸ばした。

「ミーをバカにしたナ!? ユルサナーイ! 覚悟しなサーイ!」

 もうほとんどやる気は失せてしまったが、それで迫りくる大量の蔓が消えることはない。

 二人は仕方なく戦闘体勢に入る。そして思う。あれ、今回ってシリアスじゃなかったんだ、と。




読んで頂きありがとうございます。誤字脱字、感想批評、めがっさ歓迎にございます。にょろん。

お約束的な展開です。せめて敵は変なのにしようとした結果、結局お約束的な感じになってしまいました。気に入ってるのでいいですけれどねっ

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