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第十五話

「はぁぁっ!」

 魔力を込めた右掌底が男の鳩尾に突き刺さる。瞬間、魔力を解放した。男の体が宙に浮き、後ろへ吹き飛ぶ。

 左右から二人の男が手を伸ばし、ヴァンを掴もうと迫る。ヴァンは地面すれすれまでしゃがみ、回転。左足を軸にして、右足を伸ばす。足払い。回転の勢いを殺さず立ち上がり、体のバランスを崩した左右の男に両手の掌底を叩き込む。狙うは同じく鳩尾。魔力解放。

 今度は前方から三人。以前も魔獣が三体同時に来たことがあったが、それに比べれば危機感は全く感じられない。両腕に魔力を込める。一人の男が腕を伸ばす。すばやく男の外側をなぞるように体を回す。少し飛び、首の後ろに肘の一撃。そして次の男の懐に入り込む。片手で片手を押さえ、鳩尾に同じく肘の一撃。さらに回転し、もう一人の男の即頭部めがけて回し蹴りを放つ。鈍い音がした。三人の男は地面に倒れこんだ。

 ヴァンが夕日に輝く蒼髪と、黒のドレススカートをなびかせ、何事も無かったかのように佇む。橙色の光に包まれるその姿は、優雅。

「まだ、やるか?」

 不敵な笑みを浮かべ、怯んでいる残りの男たちを見回す。悔しそうな顔をしながら、じりじりと後ずさっていく。その後ろ、緑髪の男が驚愕に目を見開いていた。すぐ側のトーニャも同じような表情。だが、その顔には涙の跡があった。

 緑髪の男は、ヴァンと視線があわさると、顔が歪む。苦痛を耐えるような、申し訳ないような、様々な感情が混ざった表情だった。何事かつぶやいている。きっとヴァンを睨むと、こちらに走ってきた。

「ちっ」

 ヴァンが舌打ちをし、右腕に魔力をこめ、迎撃の構えをとる。他の男たちはもはや動けない。

「うわあああああ!」

 目前まで迫ってきた緑の色。振り上げられる腕。ヴァンはそれより速く、右拳を突き出す。が、その握り拳が男と激突することは無かった。

「やめてえええええっ!」

 悲鳴が響き、ヴァンが動きを止める。目の前の男も腕を振り上げた状態で固まり、悲鳴の主に視線を動かす。ヴァンも見る。そこには苦しそうに肩で息をし、前かがみになり両手を胸の前であわせている女性がいた。汗をかきながら、悲しそうな表情をヴァンたちに向けている。

「やめて・・・・・・クローロ」

「姉さん・・・・・・」

 クローロと呼ばれた緑髪の男は、ゆっくりと腕を下ろす。女性の視線から逃れるように視線をそむけた。戦意がなくなったのを確認すると、ヴァンも構えを解く。

「え? なにこれ?」

 誰も声を発しない中、少し後ろにいるアリアの間が抜けた言葉だけが聞こえた。


「この度はうちのバカ息子が、とんだ失礼を。申し訳ございません」

 目の前に座る初老の男が深々と頭を下げる。今二人は、村長宅の応接間に通されていた。その隣に先ほどの女性が座っており、同じように頭を下げている。今は居ないが、緑髪の男は村長の息子のようだ。道理で妙に偉そうだったはずだ。

「えぇ、全くね」

 アリアが出された紅茶をすすりながらそっぽを向いて言った。

「アリア」

 ヴァンがアリアを見る。アリアは唇を尖らせながらも、黙った。視線を二人に戻すと口を開く。

「頭をあげてください。それより、息子さん・・・・・・クローロと言いましたか? 俺たちを襲った理由を教えてほしいのですが」

 その言葉に村長と女性はそれぞれ顔を上げる。村長が一呼吸おき、話し始めた。

「話は長くなりますが・・・・・・ついぞ三日前の話になりますが、一体の巨大な魔獣が村を襲ってきました」

「魔獣が・・・・・・」

 呟き、目を鋭くさせるヴァン。大型の魔獣除けがあるにもかかわらず、村に入ってきたということは、強力で凶暴な魔獣だということ。

「その魔獣は、畑や家屋などを荒らすと、我々に要求をしてきたのです」

 ヴァンが怪訝な顔をしてオウム返しに聞く

「要求?」

「なに? 身振り手振りで伝えてきたっていうわけ?」

 鼻で笑うアリア。村長は首を横にふり、俯きながら話を続けた。

「いえ・・・・・・それが、人語で喋ってきまして」

 アリアとヴァンが目を丸くする。

「魔獣が? 冗談でしょう?」

 アリアの言葉に、今度首を横に振ったのは村長の隣に座る女性。

「いえ、私もその場に居合わせていました。あの魔獣は確かに人の言葉で話したのです」

 娘の証言に、ヴァンは唇の前に手を持っていく。何かを考える仕草をすると、村長に先を促した。

「それで、要求というのは?」

 村長が右に座る娘に目を向ける。

「はい・・・・・・魔獣からの要求は、この村で一番美しい娘・・・・・・我が娘ミリナを差し出せというもの。従えば村人の命は助けるが、従わなかった場合、村人を皆殺しにすると」

 ヴァンが隣に座る娘、ミリナを見る。確かに、村一番というだけあって、整った顔をしている。緑色をした髪は肩の上に切り揃えられていて、赤い瞳に健康的な肌。快活な美人といったところか。今思い出せば、トーニャもクローロも、緑髪に赤い瞳だったはず。アリアも同じようにミリナを見る。

「なるほどね、それで愛するお姉さんのかわりに私たちを突き出そうとしたわけか。すばらしい案だこと」

 アリアの言葉に、ミリナが悲しそうに目を伏せる。

「弟のしたことは許せないことです。本当にごめんなさい」

「・・・・・・あなたが謝ることじゃないわよ。男ってバカだしね、もう気にしてないわ」

 アリアは男には厳しいが、女には甘い。

 ヴァンが顔を村長に向ける。

「クローロが、俺たちを襲った理由は分かりましたが、その魔獣について、冒険者ギルドに討伐依頼を出したり、騎士団に助けを求めたりしなかったのですか?」

 当然の疑問だ。要求を飲んでも、魔獣が約束を守る保障などどこにも無い。

「そうしようとは思ったのですが、どこから見ているのか村人が村から出ようとすると、その魔獣が現れて・・・・・・再度同じことをするようなら、約束の日を待たずに村を壊しつくすと」

 ヴァンが村長の言葉にある単語を一つすくい取る。

「約束の日、ですか?」

「はい、魔獣は期限も設けておりまして」

「・・・・・・ちなみに、その日はいつですか?」

 嫌な予感がしながらも、ヴァンは聞く。

「今日でございます」

 さらっと答える村長。

 嫌な予感ほど的中する自分の勘に嫌気がさすヴァンだった。




読んで頂きありがとうございます。というわけで、お約束的な展開になってきました。王道は食べ物です。

誤字脱字、感想批評、超絶歓迎しております。

ガソリンスタンドでエンストしました。恥ずかしかったです。

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