第十三話
タラララッタラー、シリアスはにーがーてー(の○代さん風
シリアスっていうより・・・なんていえばいいんでしょうね
集めた枝の置く場所を指定し、ヴァンは森の中に入った。もちろん、深いところまで行くつもりは無い。
「さて・・・・・・こいつでいいかな」
生い茂る木々の中から少し太い木を選び、顔を上げた。目標は横に伸びる太い枝。足に魔力を集中させる。ぐっとしゃがむと、地面を蹴った。軽々と自分の身長より高く飛ぶ。勢いが衰えないうちに、樹木の幹に足をつけ、さらに蹴る。迫る太枝。腕を伸ばし、枝を掴むと、引っ張る。体が浮く。ふわりとドレススカートが舞い、ヴァンは枝の上に立った。
「魔力を使えば、少しはマシか・・・・・・」
魔力は身体能力をあげることはしない。そういう魔術もあると聞いたことはあるが、ヴァンには使えない。今の軽業はただ魔力を放ち、その推進力で体を押し出したに過ぎない。もっとも、それだけでもかなり高度な技ではあるが。
立っている枝からさらに多方向に伸びる枝を一本折る。指で折れた先をいじり、尖らせる。不恰好ではあるが、殺傷するには十分な槍だ。自らの気配を消し、耳をすませ、目に神経を集め集中する。
風にゆれ、音を奏でる木々たちの歌声以外、何も聞こえなくなった。いや、一つ、無粋な音がする。ヴァンが立つ枝のずっと下。動く影が見える。目を細め、獲物を見つめる。小動物だ。魔獣ではない。大きさは今のヴァンの胴体ほどだろうか。四肢で歩き、地面に鼻先を突っ込んで何かを探している。
「・・・・・・悪いな」
ふっと息を吸い込み、ヴァンが枝から飛び降りた。ドレススカートを足ではさみ、邪魔にならないようにする。長く蒼い髪が逆立った。即席の槍の先端を逆向きにし、両手で握る。ヴァンの殺気に気づいたのか、小動物が首を上げ、ヴァンを見た。それから逃げようとしても、遅い。ヴァンは獲物の首を狙い、両腕を振り下ろした。一瞬で絶命することを祈りながら。
「んー、こんなものかしら?」
アリアが街道のすぐ近くの森を歩き、枯れ枝を拾っている。ここ数日雨が降っていなかったため、どの枝も乾いてよく燃えそうだ。街道に戻り、目印として置いていた自らのマントに向かう。枯れ枝を適当に置くと、その横に腰を下ろす。それからすぐに、ヴァンが森から戻ってきた。長い棒を肩に担いでいる。その棒の先に、獲物が四肢を縛られ、ぶら下がっている。縛ってあるのは蔓のようだ。獲物の首から血が流れていた。
「・・・・・・おかえりなさい、すごいわね、それ」
「ただいま。あぁ、運が良かった」
ヴァンが肩に担いだ棒をおろし、しゃがむと獲物を縛っている蔓の縄を外していく。
「どうやって・・・・・・た、食べるの?」
アリアが獲物を見ている。その手は震えていた。無理も無い。店に並んでいる肉とは違う。今まさに、食べるためにすべきこと、という現実が目の前に転がっているのだ。魔獣を殺すのとは訳が違う。
「まず皮を剥ぐ。そのあと中身を取り出して血抜き。そして焼いて食う」
ヴァンはアリアの震えに気づかない振りをし、淡々と話した。今アリアは現実を見据える努力をしているのだ。無理をするな、などと言えない。それは優しさではなく、甘いだけだ。
「そうなの・・・・・・でも、ナイフがないわよ?」
アリアの言葉に、ヴァンは呪文を短く唱えるだけで答えた。ヴァンの右手から小さな炎が燃え上がり、短剣の形を成していく。
「これでやる。魔力をおさえてるから、ただの熱いナイフだ」
ヴァンがアリアに顔を向け片目を閉じる。右手で短剣をくるくると回していた。獲物に視線をもどすと、ヴァンは手際よく炎の短剣を突き刺していった。アリアはヴァンの隣に邪魔にならないよう座る。生物が肉になる過程を、静かに眺めていた。
「・・・・・・ごちそうさま」
アリアが最後の一切れを食べ終え、両手を合わせて目をつぶった。まるで祈るようだ。
「うまかったか?」
ヴァンが自分の分を口に入れながら聞く。アリアは、こくり、とうなずいた。残ったら燻製にして持ち運ぶと言ったのだが、アリアは首を横に振り、結局全部食べた。
「ん、ごちそうさま。さて、行くか」
口に含んだ焼肉を飲み下し、ヴァンが立ち上がる。アリアが目を丸くした。
「え? もう?」
ヴァンは口を開きながら、離れたところに置いてあった、剥いだ皮や取り出した五臓六腑を焚き火に入れて焼き捨てる。
「あぁ。街道の近くだから無いとはおもうが、匂いにつられた魔獣が来るかもしれないし、なにより、日が暮れる前に近くの村に着かないといけないしな」
いくら魔獣除けがある街道といっても、やはり夜は危険だ。足を進められるのは明るいうちだけ。
「確かにそうね・・・・・・」
アリアが立ち上がる。ヴァンは炎の短剣を再び出し、地面を掘る。やわらかくなった土を焚き火にかぶせ、火を消した。・・・・・・炎の短剣にしてみれば、不本意な使われ方かもしれない。
「これでよしっと」
炎の短剣をけし、両手をパンパンとたたき合わせる。
「行くか」
二人は街道を歩き出す。あとに残ったのは、土に埋もれながらも少しの煙をあげる枯れ木の燃えカスだけだった。
国と国、町と町、村と村をつなぐ街道で迷うことはまず無い。人の住むところだけでつながってるからだ。つまり、街道を歩き続ければ、いずれ村か町に必ず出会える。もちろん、街道は二つに分かれたりすることもあるが、関所の方角へ行けば関所へ、王都を目指せば王都に、最終的にはたどり着く。関所を目指すヴァンたちにとって、どの街道を行っても問題はないのである。街道をはずれ、森に入った場合、当方は責任を一切負いません。ご了承ください。
「と、いうわけで・・・・・・さっそく二つに分かれてるわね。ヴァン、どっちがいいの?」
二人の目の前には、二つに分かれた街道。真ん中に看板が突き刺さっている。
「んー・・・・・・北が『レーラの村』で、南は『ガレー町』か」
「なにその安直な名前」
どちらも『ガレーラ王国』からとっているようだ。
「どっちでも最後には関所につくからな。どちらでもいいといえばいいんだが・・・・・・」
二つのうち一つを選べとなると、どうでもよくても悩むのが人の性。
「この大陸って丸いし、北にいったほうが距離は短いんじゃない?」
アリアの言うとおり、今二人が立っている大地は、とてつもなく大きな円形の大陸だ。
東西南北に国があり、中心は巨大な空洞となっている。南にある国が『ガレーラ王国』で、目指しているのが東の『リモニウム共和国』だ。それぞれ、巨大な空洞を中心に、北東、東南、南西、西北が国境となっている。他の二つの国については、またいつか。閑話休題。
「そうだな、それじゃぁ『レーラの村』にするか」
そういって二人は左の街道を歩いた。そして、後々この選択を後悔するのであった。
読んで頂きありがとうございます。さてさて、ヴァンたちに降りかかるのはどんなお約束なのか?
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