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最終話

「というわけで、僕達は魔界に戻ろうと思う」

 あの戦いから十日が過ぎた。

 レリアとリシャ、二人の抱擁という熱い迎えを受けたヴァンたちは、それが行われた居間のテーブルを囲み、それぞれ椅子に座って穏やかな時間を過ごしていた。

「・・・・・・どうしてまた急に?」

 怪訝な表情で聞き返すヴァン。その腕には赤ん坊が抱かれていた。

「急ではありませんよ。もう戦いの傷も癒えましたし、テリオスが居ない今、ヴァンも安全ですから。ねー、スーリ~?」

「だぁ~」

 セレーネが言いながら、ヴァンと同じように腕に抱く赤ちゃんに笑いかける。スーリと呼ばれた赤ちゃんは不機嫌そうにしながらも両手をセレーネの顔に向けて伸ばしていた。

 その後ろではフランが立っていて、自分で抱く赤子を楽しげにあやしている。

 この三人の赤ん坊は、あの時、あの場所で、生まれた。否、生まれ変わったエーピオスとアペレース、ドラステーリオスであり、そして、この三人はアリスでもある。

「帰るっていったって、どうするつもりなの? レスとドラスは」

 ヴァンが抱くエーピオスの頬を横からツンツンと突きながらアリアが尋ねた。そのアリアの向こう側から、リシャがうずうずとした表情でエーピオスを覗いている。

「エピはウラカーンが面倒見るっていってるけど、レスとドラスはセレーネとヘリオスが育てるんでしょ?」

 そう、三人の赤子の内、ウラカーンがエーピオスの面倒を買って出て、ドラステーリオスとアペレースは、それぞれセレーネとヘリオスが育てるということに話がまとまっていたのだ。

 セレーネが頷いて、ヘリオスが答えを口にする。

「あぁ。だから、レスとドラスも魔界につれていくつもりだ。魔界に帰るのは、亡き父上と母上にヴァンの安全を報告する、新しい家族を紹介したいということもある。それに、向こうにそのままの状態で放置している家も見なければいけない」

「ちょ、ちょっと待て。お前ら、魔界は魔獣が多くて危険だって言ってたじゃないか。そこに赤ん坊をつれていくのか?」

 ヘリオスの返答にヴァンが慌てて口を出す。だが、それに対する返事は別のほうから飛んできた。

「それなら問題ない。私も共に行くつもりだからな」

 答えたのは、家の奥に続く廊下に出る扉から、居間に入ってきたラルウァだった。

「師匠? 傷はもういいんですか? ていうか、え? 師匠も魔界に?」

「傷のほうは完治した。心配をかけたな。・・・・・・私も魔界には興味がある。魔族の言うところの地表は、ほとんどの場所に行ってしまったし、何より、エーピオスたちを救うことに関わった以上、二人だけに世話を任せるわけにもいくまい」

 ラルウァは三人の赤子に一通り目を向けた後、淡く微笑んで椅子に座った。同時にレリアが席を立ち、台所へと向かう。

 ヴァンの言う傷というのは、無論、死闘の直後に戦った竜種たちから受けた傷のことだ。


 エーピオスたちを抱いて遺跡から出たヴァンたちが目にしたのは、折り重なるようにして絶命していた五匹の竜種だった。

 一番上に乗っていた竜種の死骸を押しのけて出てきたのがラルウァだったのだが、満身創痍だったヴァンたちは思わず攻撃を仕掛けようとしてしまった。

 その後、ヴァンたちの姿と赤子になったエーピオスたちを一瞥し、ラルウァは一言、

「――――では、帰るとするか」

 とだけ言った。

 弟子であるヴァンですら思わず呆れそうになった。

 あの時は正直余裕がなかったのだと、レリアに傷の手当てをされながら苦笑混じりに話していたのは記憶に新しい。


「そう、ですか。師匠も魔界に・・・・・・」

「あ、そうそう、オレっちもヘリオスたちと魔界に行くからー」

 アリアと逆のほうから伸びてきた手に、腕に抱いたエーピオスを抱き奪われる。リシャが「あ・・・・・・」と小さく声を上げた。

 驚きの表情で声の主を見れば、赤子を抱いてヘラヘラではなくただの微笑を浮かべているウラカーン。

 驚愕に任せたまま声を上げようとするヴァンだが、

「はぁ!? 何をいっとるんじゃおぬしは!!」

 先にフランに怒鳴り声を上げられ、機を逸した。

「何ってー、魔族の子は魔界で育ったほうが良いって、セッちゃんもヘリオスも言ってたじゃんー。フランも頷いてたっしょー?」

「い、いや、確かにそうじゃが・・・・・・じゃが、別に地表でもいいんじゃろう?」

「出来れば魔界の空気、魔界のマナの濃度、魔界の食物で育ったほうがいいですね。それに、成人すれば平気ですが、地表の太陽の光は幼い魔族に有毒ですし・・・・・・」

 すかさず出された『理由』に、フランは言葉を飲み込んでセレーネを軽く睨む。

「ぬ、ぅ、じゃが、それは・・・・・・」

「そんでさーフランー」

「な、なんじゃ?」

「フランもオレっちについてきてくれないかなー?」

「・・・・・・・・・・・・は?」

 いきなりの提案にフランは目を丸くさせ、リシャが少しだけ顔を赤くさせる。

 ラルウァ以外が固まる中、レリアが微笑みながら居間に戻ってきた。

「あらあら、皆の前でプロポーズなんて、大胆ね」

 そのままラルウァの前にお茶を差し出し、その隣に座る。

「まぁ、若いのだからあれくらいが丁度いいだろう」

 言いながら黒髪の美丈夫は湯飲みを口につけた。ずずっと音を鳴らし、「まぁまぁだな」と言って湯飲みをテーブルに戻す。

「ま、ままま、まて、おおおぬし、な、ななにを」

「だからー、エピの母親役をやってくれっていってるんだよー。セッちゃんだけにさせるのも大変っぽいでしょー?」

「・・・・・・母親、役?」

「そう、役ー」

 一連の流れでのフランの顔色がどんな風に変わったのか、エーピオスをあやすだけで全く気づかないウラカーン。

 フランはゆっくりとした動作で腕に抱くアペレースをヘリオスに渡した。そのままさらにゆっくりとリャルトーの弓を手に取り、ゆっくりと魔矢を出現させ、その先をゆっくりとウラカーンの頭に向ける。

「・・・・・・『スコルピ」

「ちょ、ちょっとちょっと! フラン! それはシャレにならないってば!」

 逸早く復活したアリアが慌ててフランを止めた。

「ええい、離せアリア! 射させろい! こやつにも腹が立つが今わしがもっとも腹立つのはわし自身じゃー!!」

 どたばたと暴れるフランとアリアに、ウラカーンはやっと気づいたのか顔を上げて首をかしげる。

「何暴れてるんだよー、エピたちに当たったら大変だぞー」

 ピキッ。と二つの音が響く。もうアリアはフランを止めなかった。

「・・・・・・とりあえず、エピを抱かせて? ウラカーン」

 ゆらりと動くアリアに、ウラカーンが後ずさった。

「あ、あのー? 何を怒ってらっしゃるのかなー? ていうか、フラン? その魔矢は何? 待って待ってエピに当たる! エピに当たるから! あっ、だから渡せっていってるのかー、なるほどー。って、やめてえええ!」

 今にも逃げそうな友人を見て、ヘリオスがため息をついた。

「仕方ない・・・・・・。フラン、母親役うんぬんは置いといて、僕達と一緒に魔界に行かないか?」

「む?」

 意外な人物からの提案だったのか、リャルトーの弓を下ろして怪訝な表情を浮かべた。

「そうですよ。私たちとしても戦える人が・・・・・・いえ、友人が一緒に来てくれるのは嬉しいですし、それに、フランは秘宝に興味があるんですよね? 地表のはほぼ全てテリオスと共に消えてしまいましたが 魔界なら腐るほどありますので、フランにしてみても楽しめる場所だと思いますよ」

 フランはセレーネの言葉に「ふむ」とだけ返し、一房にした三つ編みを手で持って振り回す。

 しばらく考え、口を開いた。

「そうじゃなぁ。わしは元々秘宝を巡る旅をしておったしのぅ。まぁそれだけでなく、ラルウァの言う通り、おぬしらだけに世話を任せるわけにはいかんのぅ。よし、わしも共に行くぞい」

 そう答え、魔族の二人と笑みを交わす。

 自分たちの時と同じように、軽く決めるフランに苦笑しながらヴァンが口を開いた。

「フランも行くのか。じゃあ俺も」

「駄目に決まってるじゃない」

「駄目だな」

「駄目ですよね」

「駄目だねー」

「駄目じゃのぅ」

「・・・・・・ふむ、駄目だな」

 皆が行くなら共に行きたい。そう口にする前に仲間から即却下されてしまった。

「そうね。やっぱり駄目なのではないかしら?」

「レ、レリアさんまで」

 思い切り肩を落とすヴァン。リシャがオロオロと全員に視線を泳がせている。

「まだ魔界にはヴァンを狙っている魔族が居ない、とも限らないし」

「それに・・・・・・」

 ため息をつきながらヘリオスが言い、続いたセレーネが言葉を切った。

「おぬしはどうやら、魔族ではなくなったらしいしのぅ」

 フランの言葉に皆の視線が、ヴァンの蒼く輝く髪と空のような青さを持った瞳に向けられる。

 戦いから戻り、じっくり眠った次の日。ヴァンはこの姿になっていた。

 魔族として、超鎧魔術や能力を酷使してしまったせいで、まだ体に残っていた『封印』と『魔族の力』が混ざり合って打ち消しあい、『人間』になってしまったのだろう。というのが、ヘリオスとセレーネの談だ。

 そのせいで真っ白だった髪と真っ赤な瞳は、アリアに女にされた時と同じものになってしまっている。

 つまり、魔族の証がなくなっているのだ。

「今重要なのは、ヴァンが本当の意味で『見た目どおりの力』しかないことだねー」

「そうだな。地表に居る他の冒険者や魔獣相手なら、今でも引けをとるはずはないが・・・・・・話で聞く限り、魔界の魔獣どもと戦うことは出来ないだろう」

 エーピオスに高い高いをしながら言うウラカーンに、お茶をすすっているラルウァが同意する。

 さらにがっくりと肩を落とすヴァン。そこに控え気味に声がかけられた。

「あ、あの・・・・・・その、私は、はじめてみる、けど、綺麗だと・・・・・・お、おもう、よ?」

 遠慮がちに言われた、リシャからの慰めの言葉。少し驚いたようにヴァンはリシャを見て、そして小さく微笑んだ。

「ありがとう、リシャ」

 間にいるアリアがむっと眉をひそめ、口を挟む。

「私だって、今のヴァンも良いっておもってるわ」

「はいはい、ありがとな」

「・・・・・・ちょっと、なんで私だけ流すのよ」

 苦笑しつつも軽く返すヴァンを、アリアは不機嫌な顔で睨んだ。

「ふむ・・・・・・」

 そんな二人を見て、ラルウァは何か考えるようにうなる。

「どうしたんですか、師匠?」

「・・・・・・時にヴァン、お前はこれからどうするつもりだ?」

「え?」

 正直、ヘリオスが魔界に帰ると言った時は、ついて行く気満々だったのだが、それは仲間たち全員にあっさり却下されてしまった。

 特に考えてなかったヴァンは首を僅かに傾ける。

 予想通りだといわんばかりに、ラルウァは鷹揚に頷いた。

「なら、魔術学校に通うのはどうだ?」




 ――――というような会話と話し合いがあったのが、昨日。

 町の北門でヘリオスたちを見送った後、ヴァンは南門の前で空を見上げていた。雲一つない。

「・・・・・・魔術学校、か」

 師匠に聞かれた時は、つい「それも良いですね」なんて言ってしまったが、今更な感がしないでもない。

 何故なら自分は魔術学校中退で、しかも放出系の魔術が使えなかったのだから。

 しかし、とも思う。

 中退をしたのは放出系が使えなかったので居る意味がないと考えたからで、正真正銘『人間』になった今なら、恐らく放出系魔術が使えるだろう。

 風に流れる蒼い髪が視界に入った。

 それに、と思う。

 魔族としての力が無くなったのは明らかだ。非力になった自分を支えてくれた魔力放出も使えなくなっているし、魔装も『サラマンダーイグニッション』だけになっている。

 ならば、今以上の力をつけるために、魔術学校で一から放出系を学ぶのもあり、か?


「ヴァンー!」

 呼ばれ、思考を中断して振り返る。そこには、走るごとに腰につけた小さな袋を揺らす、マントをつけたアリアの姿が見えた。マント姿を見るのがものすごく久しぶりな気がする。

「アリア、もういいのか?」

 自分のところまでたどり着いたアリアに尋ねた。波打つ金髪を手の甲で払い、新緑の瞳を真っ直ぐぶつけてくる。

「えぇ、この袋、ほんとに便利ね。全部入っちゃったわよ」

 言いながら腰につけた袋をつまむ。これは、これから自分たちが何をするか、それを話したときにフランから譲り受けたものだ。

 傍目には小さく歪で奇妙な袋だが、その実これはれっきとした秘宝だというのだから驚きだ。実際、この袋は自らの何倍もある物を苦もなく体内に収め、しかもどれほど入れても平気なのだ。セレーネたちがこの袋を『テッタラ袋』という名前だと教えてくれたのは随分前に思える。

 何故譲り受けたかというと、それはヴァンたちのこれからの行動によるものだ。

 ヴァンは「魔術学校に入ってみる」と答えはしたが、ラルウァからそれに必要な資金をもらうのも、レリアがあの家に住めというのも、全て断った。

 見た目はこんななりだが、自分は二十二歳なのだというと、二人は残念そうに諦めた。

 つまり、ヴァンは魔術学校に入学するための金や道具は全て自分で買わねばならない。しかし、そんな金はない。

 ならばと、それが溜まるまで冒険者を続けることにしたのだ。

「それじゃ、まずはどこから行くの?」

 楽しげに笑うアリアを見上げる。彼女がヴァンに同行するのは、彼女立っての願いでもあった。もちろん、ヴァン自身もそれは嬉しい。しかし。

「なぁ、本当についてくるのか? 俺は自分が魔術学校に入るために旅するんだぞ?」

「今更何言ってるのよ。気にしないで、だって、私もそのためにヴァンについていくんだもの」

 軽く返された答えにヴァンは目を丸くさせる。それを見てアリアは悪戯が成功した時のような笑顔を見せた。

「私だって、魔術学校中退なのよ? 良い機会だから、卒業までもう一度通ってみようかなと思って」

「中退? それだけ魔術が使えるのにか?」

「中退した後、お母さんから教えてもらったの。あとは独学ね」

 そこまで聞いて、ヴァンは不思議そうに首をかしげる。

「じゃあもう学校に通う意味ないだろ?」

「何言ってるのよ、ヴァンと一緒の学校生活! 素晴らしい響きじゃないの!」

 ぐっと拳を握って真剣な顔をするアリアに、ヴァンは「・・・・・・そうか」と呆れの顔を送ってあげた。

「それで、まずはどこいくの? お金ためるにしても、旅なんだから色々なとこいくんでしょ?」

「ん? あぁ、そのほうが何かとためになるし、楽しいからな」

 そこで言葉を切り、考える。そういえば。思い出した。

「なら――――」


「ヴァンー! アリアー! 待ってっ!」

 ヴァンの口から出た声は、聞き覚えのある大声によってかき消される。二人は驚きの表情で振り返った。

 呼ばれたことに驚いたわけではない。その聞き覚えのある声の持ち主が、ここまで大きな声を出したのに驚いたのだ。

「リシャ!?」

 見覚えのある少女がこちらに向かって走ってくる。肩で切り揃えた黄の髪に、緑の瞳。両腕で大事そうに分厚い本を抱いていた。

 少女はヴァンたちの前まで来ると、苦しげに呼吸を繰り返す。

「ど、どうしたんだ?」

 問われ、リシャは息を整えて頭を上げた。

「わ、わたし、も、一緒に、行きたい」

 そして、再度ヴァンとアリアは驚かされる。

「ちょ、ちょっと待て。俺たちの旅は」

「知ってる・・・・・・冒険者として旅をする、んだよ、ね?」

 その言葉が意味するのは、つまり、命の危険があるということだ。

「分かってるなら・・・・・・」

「私、もう悲しみが生まれるのは嫌なの。もう守られるだけは嫌なの」

 ヴァンの言葉を遮って、答える。

「でも、今のあなたは弱いわ。自分の身も守れないでしょ? 力をつけたいなら、私のお母さんから学ぶか、魔術学校に入りなさい」

 突き放すようにアリアが言う。ヴァンは内心でアリアに謝った。強くいえない自分に代わって、こうして言ってくれるのは有難かった。

 それでもリシャは首を縦に振らない。それどころか、さらに意思を強くした瞳で見据えてくる。

「ヴァンたちが帰ってきて、十日間。私も遊んでいたわけじゃない、よ。レリアさんからこの本をもらって、ずっと魔術の勉強をしていた」

「それだけで魔術が使えるほど、簡単なものじゃ・・・・・・」

 アリアが言い終わる前に、リシャは魔術書をパラパラと開き、左手で持って右手を振り上げて門の外目掛けて振り下ろす。

「アース・グレイブ!!」

 唱え終わった瞬間、門の外側の大地が小さく隆起し、槍の形をした鋭利な土の塊が六本飛び出した。

 それを唖然とした顔で見つめるヴァンとアリア。

「今はまだ二人より全然弱い。二人より何も知らない。だから、一緒に行きたいの」

 パタン。本を閉じて、両手で抱える。

「だから、お願いします。一緒に行かせて、ください」

 大きく頭を下げた。


 やがて、呆れたような、諦めたような、優しいため息がヴァンから漏れた。

「仕方ないな・・・・・・」

「そうね、ここまで見せられちゃね・・・・・・それにお母さんが私たちを追うことを黙認してるし」

 リシャが顔を上げる。嬉しそうな笑顔に二人は苦笑した。

「それじゃ、三人で旅して、三人でお金ためて――――三人で学校入るか」

 言いながらヴァンが一歩を踏み出し、アリアとリシャも頷いてそれに続く。

 と。

「あ、レリアさん、なら、ヘリオスさん、たちと、いっしょ、に、いったよ?」

 言い忘れていたとばかりにリシャが告げる。もう口調は普段のたどたどしいものになっていた。

「な、なんで!?」

 一番に声を上げたのはアリア。

「え、なんで、って・・・・・・ラルウァさん、のこと、が、好き、だから、じゃないのかな?」

 さらに衝撃的なことを告げるリシャ。

「だか、ら、私は、私がしたいことを伝えて、レリアさん、も、したいことを、してほしい、って言ったの」

 さらにさらに告げるリシャ。

 二人は二人で頭の中が混乱していた。

 レリアがラルウァのことが好き? だから魔界の仲間たちについていった? その前にリシャはそれを見破ったのか? 全然気づかなかった。ていうか、それだと、もし自分たちにきっぱり断られてたらどうするつもりだったんだ? 

「・・・・・・あんた、思ったより強かなのね」

「え? なに、が?」

 アリアの言いたいことが本当に分からないのか、リシャは首をかしげる。

 ヴァンはまた苦笑のため息が漏れるのを自覚しつつ、空を見上げた。


 この旅の、最初の目的地は、そうだな。あそこがいい。アリアとの約束もあるし、うん。


「良い天気だな」

「そうね」

「う、ん」

 もう独り言のつもりじゃない。答えてくれる人たちが傍に居る。



 一緒に空を見上げてくれる。




 ~Fin~

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