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第十話

今回はコメディ色が強いです。くすっとでも笑ってくだされば幸いです。

「なぜ俺はここに居るのか・・・・・・」

「そんなリストラされたモンスターのセリフを言ってないで、ほら、これなんてどう?」

 額を押さえるヴァンの体に、アリアがピンク色のドレスを合わせる。

「んー、いまいちね。やっぱりヴァンには黒が合いそうだわ」

 今二人は、大通りにある服屋に居る。店名は『ラブリーフェアリー』。フリルのついた服や、色とりどりのドレスがところ狭しと飾られている、それらはどれも、女物。ある一画には、女性用下着がこれまた、ずらりと並んでいる。

 アリアは一つずつ服を持ってきては、ヴァンの体に重ねていた。ヴァンは思い出す。なぜこうなったかを・・・・・・。



 あれは、まだ二人がギルドの宿泊室で不毛な言い争いをしていたときだった。女性、というか少女特有の高い声がキーキー響く。

 そんな中、ドアをたたく音がし、続いて声が聞こえてくる。

「失礼しますね」

 二人がぴたっと口を閉じると、代わりにドアが開く。入ってきたのは、二番窓口の受付嬢。黒光りする髪を頭の後ろにまとめ、幼さの残る顔をした女性だ。

「一体なにを騒いでいらっしゃるのですか?」

 あきれた顔をした受付嬢。両手を腰に当てて、ため息までついている。

「えっと・・・・・・その・・・・・・」

 アリアがしどろもどろに口を開く。

「まぁ良いです。依頼完了の確認と、正式登録の手続き、終わりましたので。はい、どうぞ。これが報酬です」

 受付嬢がヴァンとアリアに小さな皮袋を手渡し、では、と部屋を出て行く。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 気まずげに顔をあわせ、皮袋を開く。銅貨が二十枚ずつ入っている。

 あの戦闘を考えると、割に合わないが、ギルドはそのことを知らないので、魚を捕まえるだけでこの報酬は、むしろ色がついてると言える。

「あの魚、どうみても食べられないのにね」

「・・・・・・そうだな」

 苦笑する。あの受付嬢のおかげで頭が冷えた。二人は今後を話し合い、アリアが求める秘宝と、ヴァンが元に戻る方法を同時に探す、という結論に至った。

「ヴァンを元に戻す方法は探すっていうより、私が考えないといけないんだけど・・・・・・」

「魔術を完成させるのにも三年かかったんだろう? 秘宝が見つかるまでに見つける自信は?」

 ヴァンの高い声が甘くささやくように言う。アリアも同様に微笑むと凛とした声を発した。

「もちろん、あるに決まってるじゃないの」

「じゃぁ決まりだな。とりあえず、ギルドでは情報は得られん。街に行くぞ」

 ヴァンの言葉を最後に、二人は部屋から出る。鍵をかけるのを忘れずに。

 一階におり、二番の窓口に向かう。

「あら、もうよろしいので?」

 視線を落としていた受付嬢が二人に気づき、顔を上げた。

「えぇ、ありがとう」

「すまんな」

 受付嬢はニッコリ笑いながら、鍵を受け取った。

「いえ、またいつでもいらしてくださいね」

 ヴァンがそれに片手を挙げて応え、アリアは快活な笑みを浮かべる。二人はギルドから出た。

 扉をあけると、依然として日は高く、暑い。

「それで、どうするの?」

 後ろからついてくるアリアの声に、空を見上げ手のひらで日差しを押さえながらヴァンが答える。

「そうだな、まずは情報収集の基本。酒場にでも行ってみるか」

「ふーん、酒場ねぇ。ヴァン、酒場っていうと、やっぱり夜しかあいてないんじゃないの?」

「ん? まぁそういうのが大半だが、明るい時間からやってるところもあるしな。それに、酒場自体には用はない」

 振り返り、アリアを見る。顔を横に向け、どこか遠くを見ていた。そのまま喋る。

「でもやっぱり、夜の酒場のほうがいいわよね。ということは、時間は余ってるわけよね」

「どんな酒場にも目当ての奴はいるだろうから、どこでもいいんだが・・・・・・なにみてるんだ?」

 ヴァンがアリアの視線を目で追う。その先には、店があった。武器屋と魚屋もあったが、今見てるのは、たぶん、高確率で、真ん中にある店だ。看板には小さな文字で『ファッションショップ』、ドでかい文字で『ラブリーフェアリー』。

「ずっとそんなサイズにあってない格好してるわけにはいかないわよね?」

 アリアの言葉に、冷や汗が流れる。

「いや・・・・・・俺にはほら、マントがあるし。それにサイズならそこの普通の服屋でいいとおもうんだ」

「ヴァン、そのマントは私の。それに、男物のお店には置いてないわよ」

「大抵のものはあるとおもうんだが。何がないって?」

「女の子の、し・た・ぎ」

 アリアが澄んだ声に艶を帯びさせ、片目を閉じる。

 ヴァン

  なぐる

  じゅもん

  どうぐ

 →にげる

 ヴァン は にげだした !

 だが うで を つかまれて しまった !

「さ、いきましょうか」

「待て待て待て! いらない! いらないからー!」

 ヴァンの叫びがむなしく響く。鼻歌を歌いながらアリアは、嫌がるヴァンを引きずっていった。



「ヴァン、何ほうけてるの?」

 アリアの言葉に、はっと我に返る。

「あ、いや・・・・・・世の中の理不尽について考えていた」

「意味がわかんないわよ。まぁいいわ。はい、これ」

 ヴァンの目の前に、黒い服が差し出される。上にはピンクの下着が乗っていた。

「なぁ、ちょっとお前とは男の自尊心ってやつについて、話し合わないといけない気がしてきたんだが」

 後ずさりながらヴァンが拒否の意をあらわす。

「あ、つけ方がわからないのね。来て、教えてあげる」

 アリアは後退するヴァンの腕をまたもやガシっと掴むと、試着室に向かう。

「ちがうちがうちがう! なんでそうなるんだ! そうじゃなくて、俺がそれ着たら変態じゃないか!」

「何言ってるのよ。女の子じゃない」

「今はな! だが、以前とこの先は違うわけで!」

 試着室への距離が縮まっていく。まるで死刑台に向かう気分だ。

「いや、死刑台に向かったことはないぞ!」

「ヴァン、あなた壊れちゃったの? さっきから意味不明なことばかりいって」

「俺としてはお前の行動のほうが理解できん!」

「女の子には、可愛くなる義務があるのよ? 分かったわね? さぁ入りなさい」

 ヴァンの腕がぐいっと引っ張られ、どんと背中を押される。そのままアリアも素早い動作で試着室に入ってきた。

「・・・・・・時折思うんだが、お前、本当は接近戦得意だろう?」

「えぇ、女の子に対しては」

 しれっと言うと、アリアは試着室のカーテンを閉めた。あとは音声のみでお楽しみください。

「ちょ、おいっ、本気でつけさせる気か? 待てやめろ、あっ、服に手をかけるな!」

「往生際が悪いわねぇ。あなたがそのつもりなら、私にだって考えがあるわよ?」

「か、考え? なんだ、諦めるという選択肢なら大賛せ・・・・・・その手はなんだ? 動きがやらしいぞ!?」

「んふふ〜、わかってる、く・せ・にぃ」

「ひっ! ま、まて、おちつけ、そういうのはよくない。よくないとおもうぞ。ここはやっぱりはなしあ、んあ! ちょ、どこさわ、ふゃぁっ、ほんと、にっやめっ、ぅあっ!」

「いやよぉ、ヴァンがおとなしくしてくれるまで、やめてあげない」

「わ、わかっ、着る! 着るから! や、ふぁぁ! 耳! 耳やめい!」

 ドタバタと音を出す試着室から響く甘い声。店内の店員と利用客は頬を紅くして、試着室を見つめていた。その瞳は例外なく豊富な水分を含んでいる。

 ヴァンの声は高く、どこか甘えるような音を出すが、それは媚びた声とは全く違い、同性が聞いても不快感を感じさせない。それどころか、護ってあげたくなるほどである。対して、アリアの声は凛として澄んでいて、頭に透き通るような音を出す。まぁ分かりやすく言えば、アリアが攻めで、ヴァンが受けである。知らない人はその無垢な心をずっと持っていてください。

 ほどなくしてアリアが試着室から出てきた。上機嫌。次いで、ヴァンが肩を落としながら出てくる。

 その姿は、精巧な人形のようであった。黒い長袖の服はフリルをふんだんに使っており、両肩の部分が丸みを帯びていて、袖の先には薄い黒布がヒラヒラと付いている。真っ黒のドレススカートはひざ下まであり、ふわりと盛り上がっていた。頭には黒を基調としたカチューシャをちょこんとのせており、その下に流れる長く蒼い髪が光を反射させている。ドレススカートから伸びる細い足は、全体の黒さと相反して、その透き通る白さを強調させ、小さな足には黒い革靴が履かされている。

「なぁ・・・・・・この服じゃないとダメなのか?」

 ヴァンが白の手袋をつけた手で、スカートをちょいちょいと引っ張る。

「んんんー! すばらしいわ!」

 がばっと抱きつくアリア。

「おい、人の話を聞け」

「この服じゃないとダメかですって? そんなの決まってるじゃない! まさかここまで似合うとは思ってなかったわ。小さい頃もらったお人形さんみたい!」

「・・・・・・」

 自分の頭を頬擦りしているアリアを目だけを動かして見ると、ため息をついた。なすがままになっているが、首を動かして店内を見渡す。すると、店員さんも他に数名居る利用客も、頬に手を添えたり、瞳を潤ませたりして、こちらを見ているのが目に入った。見られてると思うと、アリアに抱かれているのがとてつもなく恥かしくなってくる。

「いい加減離れろ」

 ぐいっとアリアを押し返す。顔を赤くしているのがばれないように、うつむきながら。

「・・・・・・」

 珍しく何も言ってこない。不思議に思ったヴァンが、アリアを見上げる。その表情はにやけていた。

「あ、やっぱり顔赤い。なによ、照れてるの?」

「・・・・・・っ!」

 ヴァンは思いっきり顔を背けた。

「うふふ〜、かわいいわ〜」

 後ろからアリアが抱き付いてくる。その行動にさらに顔を真っ赤にしたヴァンが叫んだ。

「脱ぐ! もう脱ぐ! ええい抱きつくな!」

「ちょ、ちょっと、暴れないで。分かった、謝るわ、謝るから!」

 ヴァンの動きがぴたっと止まる。首だけを動かし、アリアを下からジロリと睨む。その頬は未だ赤い。口を開くと拗ねた声。

「・・・・・・別の服がいい」

 アリアの鼻に熱いものが流れそうになった。なんという威力の上目遣いなのだろう、とアリアは自らの(ほんのう)を抑えるため、理性をフル動員させる。ここで欲望のまま動いては、またヴァンが怒る。怒った顔も良いのだけれど、今はこの服を普段着に設定させなければ!

「だ、だめよ。その服が一番強いんだから」

「・・・・・・強い?」

 アリアに向き合い、上目遣いから見上げる形をとり、首をかしげる。(ほんのう)が理性を蹴散らしていく。

「え、えぇ。魔力が一番込められているから。丈夫だし。それに、温度調節もしてくれるのよ。暑くないでしょ?」

「言われてみれば・・・・・・涼しい」

 視線を服に落とすヴァン。理性が少しだけ(ほんのう)にダメージを与えた。

「ほら、今のヴァンは、まず防御から固めたほうがいいとおもうの。怪我してほしくないし、ね?」

 アリアの話には、嘘が一つだけある。服に魔力が込められているのは本当。高価な服全般に言えることだが、服を作る際に繊維の一本一本に魔力をこめる。それにより、非常に破れにくい上、暑ければ涼しく、寒ければ暖かく、温度調節もしてくれる何とも便利な服が出来上がるのだ。さらに汚れもつきにくい。繊維から抜けていく魔力は、着けている者の魔力を微量に吸い取り、勝手に補ってくれるという至れり尽せり加減である。しかもしかも、もし破れたとしても、服自体にかけられている形状維持の魔術で、時間はかかるが元に戻ってくれるというご都合主義! すばらしい! ほしい! ちなみにヴァンが男のときにつけていたのは安い普通の革服。

 消去法で、攻撃を防いでくれるというのは嘘だ。破れても元に戻るという意味ではかなり丈夫だといえる、が、剣で斬られればあっさり体を差し出すし、槍で突かれれば着ている者と共にご臨終だ。

 だが、すっかり騙されたヴァンは、アリアの言葉を鵜呑みにする。

「そうだったのか・・・・・・本当に俺の心配をしてくれてたんだな。てっきり、アリアが楽しみたいだけだと。・・・・・・すまない、ありがとう」

 疑いの欠片もない声で、申し訳なさそうに微笑み言った。そして理性(しょうがい)は蹴散らされた。

「(もう我慢できないっ!)」

 いざ行かん目くるめく官能の世界へ! とアリアが飛びつこうとしたその時、ヴァンが破顔し、言葉を続けた。

「よしっ、今度は俺がアリアの服を選ぶぞ!」

「え?」

 気合を入れたヴァンに、気の抜けた声を上げるアリア。

「俺の服を選んでくれたんだ。まぁ見た目はおいておくとしてもな・・・・・・。今度は俺の番だ。アリアに似合うのを見つけてやる」

 そう言い、並んでる服を真剣に眺め、アリアの今着ている服と見比べる。

 その様子を見ていると、しおしおと(ほんのう)が小さくなっていく。こういうのを毒気が抜かれたというのだろうか。くすっと笑うとアリアが口を開く。

「私、上は白で下は黒がいいわ。マントにあうやつ、選んでね」

 ヴァンは顔を向け、アリアが持っているマントとアリアの顔を交互に見ると苦笑し、頑張る、とだけ。どんな服を選んでくれるのか、期待に胸を膨らませるアリアだった。



読んで頂きありがとうございます。誤字脱字報告、感想批評、大歓迎です。ゴスロリって可愛いと思いませんか?私は思います。

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