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第九十九話


久しぶりの更新です、そしてまたもちょっと短めですorz

「・・・・・・正直、僕はショックを受けている」

 黄金と白銀に輝く軽鎧は雨粒を弾き、それを纏って地面から軽く浮遊しているヘリオスが両手に持つ二振りの巨剣の切っ先を下へ向けつつ呟く。

 にらみ合うだけの沈黙を破ったその言葉に人狼は何も返さないが、気にせずに続けた。

「過去に失われた『超鎧魔術』・・・・・・僕と姉さんはその魔術を復活させることに成功したが、これは完全ではないかもしれない。だけど、それでもかなりの努力と時間を有したし、実際何度も失敗を重ねた」

 そこで言葉を切り、右手の巨剣を持ち上げて剣先を人狼に向ける。

「その魔術を、貴様のような奴が使っていることに、ショックを受けている。もちろん、憎きテリオスも同じだ」

「ふん、貴様とは出来が違うのだ。我は主殿から与えられた力を自在に操るだけの能力を・・・・・・」

「勘違いするな」

 ライカニクスの言葉を遮ってヘリオスが突き出した巨剣を振り下ろす。

「僕たちがアリスを護るために身に着けた力を、貴様らのような下衆ゲスに使われているのがショックなんだ」

 直接的な罵詈ばりを受け、人狼の顔に怒りが浮かび上がる。

「貴様・・・・・・我だけではなく主殿まで侮辱するとは・・・・・・! 許さぬ!」

「許さない? それはこちらの台詞だっ!」

 ヘリオスは後方へ魔力を放出し浮遊する体を高速で前身させながら、右の巨剣を振り上げて左の巨剣を胸の前で水平に持ち上げた。

 後ろへ放たれた魔力の衝撃は木々を揺らして砂塵を舞わせる。

 ライカニクスも二本の足で地面を抉りかなりの速度でヘリオスに向かって走りつつ、両腕を左右に広げた。


「ぜぇい!」

 左に持つ巨剣の切っ先を右後ろまで押し出し左へと薙ぎ、同時に振り上げた右の巨剣も振り下ろす。

「ヌゥン!」

 対して人狼は左右に広げた両腕をそれぞれの巨剣に突き出した。

 魔力で固められた二振りの巨剣と超鎧を纏う魔獣の両拳が激突する。その瞬間、衝撃が周囲の地を抉るように広がり小さい木々はそれによってへし折られ、降り落ちる大粒の雨たちを暴れさせた。

 ヘリオスが力比べなどするつもりはないと言わんばかりに、あっさりとライカニクスの拳に押される。それを好機と見たのか人狼が追撃をかけようと跳びかかるが、ヘリオスは宙に浮く体を前に移動させつつ前転。

 いとも簡単にライカニクスの背後を取り、その背に右足の裏を叩き込む。人狼は背にぶつかる外力を受け前へと倒れこむが、地面に両手を突いて横倒しに転がり即座に体勢を整えた。

 そこへヘリオスの巨剣が振り下ろされ、ライカニクスの右の手甲と火花を散らす。

 その巨剣は今度は永く触れ合わせることはせず、すぐに引っ込むと次いでもう一つの巨剣が横薙ぎに人狼へ向かわされた。しかし、それもまたライカニクスの手甲と火花を弾かせるだけに終わる。

「はぁぁぁっ!」

 だが、ヘリオスは宙に浮かびながら何度も巨剣を振り下ろしては引き、薙いでは引き、突いては引くを繰り返す。

「ヌゥゥゥ!!」

 相対する敵よりも大きな両刃の剣の乱撃に、ライカニクスは後ずさりつつ手甲を、拳を、脛当てをぶつけて防ぐ。

 大剣と鎧が激突するごとに魔力と力の衝撃は周囲を迸り、地を砕き樹木をへし折っていった。 

「でぇい!」

「フヌゥ!」

 一際大きな力が豪雨と大気を揺らす。

 その力を発した両者は、力の原因である大きな一撃をぶつけ合わせたあと、距離をとった。

「ふん、その程度か、小僧」

 横に広がる突き出した口から言葉を落とし、人狼が嗤う。

 向かい合う浮遊の双の大剣使いは瞳に鋭さを持ったまま、同じく挑発的な笑みを浮かべて返した。

「準備運動に決まっているだろ。・・・・・・というか、小僧、な。一つ聞くが、貴様はどれだけの年月としつきを重ねているんだ?」

 死闘の最中の問いとは思えない問いに、人狼が表情を消す。ヘリオスももちろん答えるとは思っておらず、自らの予想を口にした。

「そうだな・・・・・・五百年くらいか? まさか二百年足らずということはないだろう? 獣の王を名乗っているのだから」

 嗤いながら少々馬鹿にするような含みで言うヘリオスに、獣の王は憮然とした口調で返した。

「・・・・・・八百と少しだ」

 意外にもすぐに返ってきた答えにヘリオスは面食らう。この手のプライドが高い者には挑発的な物言いが効果的ではあるが、なるほど、思っていた以上にこの人狼はプライドの塊のようだ。

 しかし、八百と少しか。

「貴様、何を笑っている」

 まるで物を知らない子供に浮かべるような笑みを取るヘリオスに、ライカニクスが怒気をはらんだ声で問う。

「いや・・・・・・そうか。八百と少しか。はは、複雑だな」

「なんだと?」

 言いながら右の巨剣を肩で支えて、左の巨剣は再度水平に胸の前へ持ち上げた。人狼も腰を落とし肘を曲げ、軽く開いた両手を胸の前に突き出す。

「貴様が生まれたのは、僕が三百を超えた時くらいのようだからな・・・・・・自分は年齢だけ見ればかなりの老人なのだと気づかされたよ。今、な」

 そういえば姉さんは魔界に居たときから年齢に関してかなり気にしていたなぁ。

 宙に浮く体を放出した魔力で飛ばし、人狼に向かって突き進む中、ヘリオスはそんなことをぼんやりと思い出していた。




「おっちゃん、無理すんなよー?」

「・・・・・・おっちゃん・・・・・・?」

 四肢の魔獣二体に両者一撃を与えて距離をとった後、背中合わせの状態でラルウァに言葉を投げるウラカーン。

 一応心配の声ではあったのだが、ラルウァにとってはおっちゃん呼ばわりのほうが重要らしい。

「ウラカーン、私はまだ若いぞ」

 セレーネのようなことを言いながら、跳びかかってきた魔獣の顎に左の拳を叩き込み体ごと浮かせ、さらに右の拳を真っ直ぐ魔獣の腹に突き込んで再度吹き飛ばす。

「またまたーヴァンちゃんを拾ったのが十数年前なんでしょー? それだったらかなり歳いってるんじゃないのー?」

 背中を合わせるウラカーンがもう一体の魔獣に奔り、迎え撃つ爪を自らの鉤爪で弾くと回転、突き出された顎へ右後ろ回し蹴りを直撃させた。

「しかしだな・・・・・・・・・・・・四十半ばはおじさんか?」

 反論しようとしたラルウァは、途中で自信無さ気な声になり尋ねる。その間もまた跳びかかってきた魔獣に拳と蹴りを叩き込み、吹き飛ばしていた。

「そうだねー、世間一般ではおじさんだねー。・・・・・・でもまさか四十も過ぎてたとは思わなかったなー。見た目だけなら二十の途中に見えるのにねー」

 顎を蹴り上げたウラカーンが跳ね、天を仰ぐ魔獣の頭を掴むと左の膝蹴りを再度顎に直撃させる。

 と、戦いながらも会話をする二人に緊張感は感じられないが、これは二体の四肢の魔獣を舐めているわけではなく、ラルウァに蓄積されたダメージを少しでも回復させようとこうして時間を稼いでいるのだ。

 ラルウァは最低限の力で魔獣を吹き飛ばすだけで、ウラカーンはそのラルウァに魔獣が行かないよう、顎を集中的に攻撃し脳震盪を狙っている。

 本当なら脳震盪など狙わず素早く倒してラルウァの援護に回ったほうがいいのだが、この二体の魔獣、ライカニクスに特別と自慢され、ヘリオスにタフだと言わさせただけあって、かなりの防御力と体力を持っており、生半可な攻撃ではとどめをさせそうに無い。


 ウラカーンが鉤爪を魔獣の体にめり込ませ、気合の怒声を上げて投げ飛ばす。魔獣は大樹にぶつかり地にずり落ちるが、すぐに立ち上がるとうなり声を漏らす。

 するべきことがまだ沢山残っているというのに、相手をする魔獣はまだまだ元気一杯のようだ。

 視線を動かし、ヘリオスのほうを見る。

 大量の雨が壁のようになっていてよく見えないが光り輝く鎧を身に着けたヘリオスが、同じく淀んだ光を発する人狼と激闘を繰り広げているのが分かった。

 するべきことの一つを確認した後、こちらを威嚇してくる魔獣に目を戻して呆れの溜息をつく。

「さっさと倒れてくんないかなー・・・・・・」

 その呟きが聞こえたのか、少し離れて背中合わせになっているラルウァが声をかけた。

「ふむ・・・・・・ウラカーン、もう良いぞ。カタをつけるとしよう」

 ウラカーンは首だけ動かしてラルウァの姿を視界に入れる。

 目に入ってきたのは、両手首をぷらぷらと体操のように動かして首の骨を鳴らしているラルウァ。

 言葉通り、ダメージの大半は抜けたようだ。

「りょーかいー」

 ヘラヘラとした口調だが、ウラカーンの表情は獰猛な笑み。ラルウァもそれが分かっているかのように、楽しげな笑いを起こした。

「なるほど、フランの言うとおり、お前は戦闘狂のようだな」

「心外だなー。おっちゃんだってるの楽しんでるくせにー。そのへん、オレっちたち全員似てると思うんだけどー」

 言いながらも思い出すのは面々の戦い。後ろのラルウァとヴァンは言わずもがな、ヘリオスとセレーネも戦いは日常の一部だろうし、アリアも魔術を使うのを楽しんでいるだろう。

 そして、一番自分と近いのは同じ半分ずつの血を持つフラン。

 こう考えると、自分たち一行は傍から見ていろんな意味でアブナイ連中に思えてくる。本当に色んな意味で。

 特に一番危ないのはヴァンだ。見ていて危なっかしいし、何より自身がどれほど高レベルの容姿をしているのか分かっていないところがまた危ない。

 自分を助けるときも大怪我するのが分かっていたのに躊躇無く飛び込んできた。

 無茶ばかりする女の子だ。それでいて庇護欲を沸き立たせるのがこれまた性質が悪い。

 こうなってはもう突き進むところまで突き進まねばならないだろう。

「おっちゃん、いえ、おとうさん」

「・・・・・・なんだ?」

「娘さんをぼくにください」

「・・・・・・・・・・・・それは、ヴァンとフランを除いた私たち全員を相手にするという意味だな?」

「ず、ずっちぃ・・・・・・」

「当然の流れだ。あとおとうさんと呼ぶな」

 確かに。

 内心、失敗か、と思いながらこんな馬鹿会話でも律儀に待ってくれている魔獣を見据える。

 仕方ない。隣に居てヴァンを護る役目はアリアあたりに譲るとしよう。うん、それがいい。

 思考は相変わらずその方向に向きっぱなしだったが、さすがにもう魔獣は待ってくれず跳びかかってきた。

 同じく、ラルウァとウラカーンも地を蹴って奔り、それを迎え撃つ。


 するべきことをするために、まずはこいつらから片付けないとな!


 雨はいつの間にか晴れていた。


読んで頂きありがとうございます。

とうとうやってしまいました。ずっとシリアスのターンに耐え切れませんでした。

それにしても男性陣の戦闘長いですね。次は女性陣にスポットをあててみます。

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