プロローグ
目覚めるとこげ茶の天井が広がっていた。
自分を挟んでいる柔らかい感触で、ベッドに寝ていることが分かる。
視界ははっきりしているが、頭が痛い。体も節々がきしみ、重い。ずっと眠っていたい誘惑を振りほどき、体を起こす。
「あ、起きた?」
不意に凛としていて澄んだ声が響いた。声のするほうを向く。
ベッドの右手で少女が椅子に座っていた。金髪碧眼の美しい少女だ。襟にフリルがついた白い服に、短めの茶色のスカート、真っ黒のマントを羽織っている。
「良かった、ぜんぜん気づかないから、間違えちゃったかと思ったわ」
安堵の表情を浮かべ、意味が分からないことを話す少女。
その少女をぼんやりと見つめ、瞬間、思い出す。
「なっ・・・・・・お前、さっきの!」
そこまで叫び、はっとする。声が、高い。ただ高いだけじゃなく、遠くに響く甘い声。
「ん・・・・・・あれ、声が変だな」
そこで目の前の少女が瑞々しい唇をゆがませているのに気づく。まさにニヤニヤと。
「何がおかし・・・・・・痛っ!」
ベッドから降りようとして頭に鋭い痛みが走り、首が右に引っ張られる。右手で痛む頭をさすると、引っ張る力は失われた。引っ張ってきた方に目を向ける。
光に反射して蒼く輝く糸が、無数にちりばめられていた。それが髪だと気づいたのは、それらの糸が自分の頭から伸びているのが見えたからだ。
「なんだこれ・・・・・・」
つぶやきながら、自分の頭をおさえていた右手で蒼髪を梳く。手触りは滑らかで、指に引っかかることはない。一本一本の感触が分かるかのようだ。梳いていくと自分の頭が、わずかに引っ張られるので、自分の髪で間違いない。どうやら先ほどの痛みは、支えにつかった右手が髪を下敷きにしていたようだ。
「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」
今度のつぶやきは髪を梳いている右手を見て発したものだ。
きめ細かな白い肌に、儚いほど細い。まるで幼子の腕のよう。
慌てて体を見渡す。明らかにサイズの合っていない布の黒服に、服の隙間からみえる小さな膨らみ、細くなった両腕、ダボダボの茶革のズボンで見えないが、両足も細くなっているだろう。時折目の端にうつる蒼い髪。そして極めつけは、心もとない風通しが良くなっている股。一瞬、自分の姿がどうなったのか理解したが、口には出来なかった。いや、心の中で思うことすらはばかれた。だが、目の前の少女がうれしそうな口調で、衝撃の言葉を告げる。
「私、あなたのことを好きになっちゃったわ。だから、女の子にしてみたの」
「な、な、な、なんだとぉー!!」
こうして二人の物語は始ったのである。
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