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私たちの接点は、セドリック様が最適な形で用意してくれた。セドリック様の従者となったシャルルは、私がお願いすると勉強にも付き合ってくれたし、王宮の散策にも一緒に行ってくれた。
ほとんどセドリック様も一緒だったのは残念だったけれど、私はシャルルと色んな話しをした。特にシャルルは、アストラでの話しを気に入ってくれたようで、優しく笑って、楽しそうに聞いていたものだ。
無事に婚約者お披露目のお茶会も終わり、学園に入学する頃には、すっかり打ち解けていたと思う。たぶん。シャルルは元から人懐っこいから。それにこの時はまだ、私を主の婚約者として見ていたという事は確実。
学園に入学して一年が経過しても、一定の距離が保たれたまま。それをどう意識させようか、と考えていたところ、セドリック様がこんな事を言った。
「誘惑するのを止めたらどうだ?」
ちょうどお昼休みで、誰も来ない裏庭で昼食を取っていた時だ。メリーはいるが、シャルルは他の学友と食事を取っているらしい。従者とはいえ、学園での人間関係は重要だ。
は?と返した私に、セドリック様は慌てて無意味に手を動かす。怒らせた、と思ったのだろう。セドリック様は分かりやすい。
シャルルも、もっと分かりやすかったらいいのに。常日頃は感情を抑えているのか、嘘っぽい笑顔を浮かべていることが多いから。私と話している時はそうでもないけれど、そういう訓練でもしているのだろうか。
──それとも、知られたくない事でもあるのかしら?
「それはシャルルを諦めろと言う事ですか?……っ!まさか……!」
私はそう言いながら少し身を引き、胸元に手を置く。
「今頃になって私の魅力にお気づきに?あぁ、駄目ですわ。私は今さら殿下を男性として愛する事なんて……。いいえ、まさかシャルルを?」
「断じて違う!それに俺だってお前は嫌だ!今更お前をどうこうしようなどとは」
「まぁ、どうこうなんていかがわしい!」
「いいから静かに話を聞け。そしてその泣きそうな演技を止めろ」
あら残念。楽しかったのに。一瞬でげっそりとした殿下に笑って、私は話しを戻すように促した。すると、おほん、と咳払いをして、セドリック様は話し始める。
そういえば、セドリック様もシャルルも声変わりが始まったようで、身長ももうすぐ抜かれてしまいそうだ。
「クロードは、自分の容姿に自信を持っているだろう」
「ええ、もちろんですわ。だからシャルルにわざとくっついたりしていますもの。もちろん、誰も見ていないところで」
「それがいけないのではないか?いくら以前から知っているとはいえ、シャルルにとってクロードは主の婚約者だ」
「ですがシャルルは、私と殿下の関係は冷めている事を知っていますわ」
「それでもだ。だいたい、クロードは何も知らないふりをしてそういう事をするから、シャルルの方も勘違いしては駄目だ、くらい思っているだろう」
「逆効果だったわけですわね?」
「あとは、十三歳には刺激が強すぎるか」
「……殿下も同じ年でしょうに」
「俺はほら、王太子として多くの女性と接するわけだし、いちいち気にしていたら務まらないからな」
「そうですわね。分かりましたわ。誘惑するのは止めて……、寂しいですけれど。とりあえず、殿下に接するようにすればよろしいかしら?」
「俺に対するよりは少し優しくしてやれよ」
もう一度頷いて、私はその場を後にした。
その後から私は学園内でシャルルを見つけても、いつものように偶然を装って声をかける事無く微笑んですれ違い、セドリック様と一緒にいる時もボディタッチ無しでおしゃべりをする。
それもそれで楽しかったけれど、やっぱり物足りなかった。時々、寂しそうな顔をするシャルルの頭を撫でると、恥ずかしそうに笑う。その度に抱きしめたくなって、何度も我慢した。
私はいつまで、シャルルを誘惑しないでいられるかしら?