表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
7/75

2-1

灰色の髪をした少年が、茶色の髪をした少年と、剣術の稽古をしている。私はそれを、食い入るように見つめていた。


金属の触れ合う音があたりに響く。アストラにいた頃、お兄様たちが稽古をしている様子を、よく眺めていたものだ。危ないからあっちへ行っておいで、部屋で刺繍でもしていなさい、と言われても。


ここ、ガルムステットに来て一か月。私は退屈していた。


学園への手続きはもう全て終わってしまったし、王宮でする事と言えば勉強や刺繍、読書、セドリック様との細やかなお茶会、王妃様の話し相手。まだお披露目のお茶会は開かれていないから、同じ年頃の子たちに会う事も出来ない。


外に出られるとしてもせいぜい庭園で、もう何度も散策して回った。さすがに十四歳になっても、泥だらけになって遊びまわれるほど子供じゃない。毎日同じことの繰り返しで、たまには何か変わった事を、と思いたってここに来たというわけだ。


姫様が来る場所ではありません、と訓練を見ている騎士に言われたけれど、ダメ?と可愛らしくお願いしたら、少しだけですよ、と渋々受け入れてくれた。


隣にいるメリーが何か言いたげな顔をしたのには、笑って誤魔化しておいた。メリーは口煩く私の行動を嗜めたりすることはないものの、怒ったら怖い。


剣で打ち合う二人は、真剣な表情をしていた。汗だくになりながらも一生懸命なその姿は、素直にかっこいいと思う。


ただし、私が見ていたのはセドリック様ではなく、灰色の髪の少年の方だった。彼は少し小柄なものの、自分より少し背の高いセドリック様に、果敢に立ち向かっていく。


時に地面に転がってもすぐに立ち上がり、セドリック様を追い詰めたりもする。私は、その少年から目が離せなかった。


(名前は何て言うのかしら。同じ年くらいかしら。ここにいるという事は貴族よね。婚約者はいるのかしら)


ぼんやりそんな事を考えていると、やがて稽古は終了した。彼はセドリック様に頭を下げ、私にもペコリと頭を下げて帰っていく。


私がその後ろ姿を見送っていると、後ろから声をかけられた。


「……クロード?」


不安そうなその声が、私を現実へ引き戻す。顔を向けると、セドリック様が私の様子を伺っていた。


十二歳になって、立太子も決まり、王子としての風格のようなものが出てきたようだが、私への怖れが少しあるらしい。そして身長も、私の方が高い。


だけど今はそれをからかうよりも、もっと重要なことがある。


「セドリック様。さっきの彼はどなた?」

「え?」


急に聞かれたせいか、セドリック様はきょとんとしてしまった。もうじれったいわね!


「だからさっきの!一緒に稽古をしていたでしょう?」

「ああ、シャルルだ。アディンセル侯爵の三男で……」

「シャルルって言うの?年は?」

「俺、いや私と同じだ」

「そうなのね!」


たぶん私は、とてもはしゃいでいたに違いない。そのせいか、セドリック様にしては珍しく、気の利いた事を口にした。


「従者を選ぶ事になっているのだが、よかったらシャルルを」

「本当ですか?」

「あ、ああ。気に入ったのか?」


あえて気に入ったといったのは、後ろに騎士たちがいるからだろう。もしくはただの偶然か。鈍感なのか。


私はこの気持ちが何なのか、知っている。セドリック様がそれに気がついたかは分からないけれど。


「初めてあなたに感謝しますわ」

「クロードはいつも一言余計だな」


セドリック様が私に言い返せるようになったのは、ちょっとした進歩かもしれない。だけど私がにっこりと笑うと、着替えてくる、と逃げていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ