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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
66/75

3-9

天井の高い部屋は明るく、開け放たれた窓から吹き込む風は爽やかだ。まだ小さかった頃は、極稀にここでお父様の膝に座り、色々な話しをした。


天気の話にお菓子の話。読んだ本の話。見つけた珍しい虫の話。などなど。ほとんど私が喋り、お父様はいつものように厳しそうな顔だったけれど。


頭を撫でてくれる手は、いつだって優しかった事を覚えている。


「……失礼いたします、陛下。クローディーヌ、参上いたしました」


それはともかく、うきうきしそうな気持ちを鎮め、国王陛下への最上級の礼を捧げる。娘といえど、これを欠かしてはいけない。微かな記憶では、滅多に会えないお父様に喜び勇んで駆け寄ろうとした私は、いつもお姉様たちに叱られていたものだ。懐かしい。


着席の許可が出たところで、空いていたお母様の隣の椅子に座る。お母様は私を見て少し困ったように笑い、正面のお父様に顔を向けて言った。


「陛下。結婚式の時よりも女性らしくなったでしょう。あのやんちゃな子が、もう遠い昔のようではありませんか?」

「そうだろうか、エレイン。昔と変わらずやんちゃであるゆえに、この結果になったのでは無いか?」

「私もそう思いますよ、母上。どうだろうクロード。何か弁明は?」


和ませようとしたのだろうお母様は、二人に揃って反論されて肩を竦めた。心配そうに私を見たけれど、私を庇う言葉は口にしない。完全に私の味方ではなく、自分でどうにかしなさい、と言われているようでもある。そんな事は百も承知。むしろありがたい。ここで変に味方されるのは望まない。


舞台で例えるとすれば、第一幕で仲の良さを演出し、第二幕は次第に衰えていく輝きを演出した。そしてそれもいよいよ大詰め。後はフィナーレへ向けて、突き進むのみ。


──さあ、私の雄姿をとくとご覧あれ!


そんな思いを抱きながら、私は二人を見据え口を開いた。


「弁明などありません。ご存知の通り、私は罪を犯しました。セドリック殿下という夫がありながら、別の男性を愛するという罪を」

「クローディーヌ。逃げるなどお前らしくもない。結婚式のあの時は仲睦まじかったではないか」

「ですが陛下。私はもう殿下を愛していないと、気がついてしまったのです」

「だからといって、何故セドリック殿下の従者を選んだのか。いずれ、苦しい立場に立たされてしまうのではないか?」

「……シャルルを選んだのは、確かに、偶然でした。あの日彼がいなければ、私は今も殿下の隣で笑っていたでしょう。けれど出会ってしまったのです。すべてを捨てても良いとさえ思える人に」


あの日私が思い立たなければ、シャルルに出会う事はきっとなかった。侯爵家の三男であるシャルルはそのうち家を出て、騎士になるか僧侶になるかを選んだだろうから。だからこそ、私たちは出会うべくして出会ったのだ。


私の言葉にお父様が深いため息を吐いた。呆れたような、疲れたような、そんなため息。


「クロード。自分の立場を弁えなさい。お前は何のために……」

「ですが、愛してしまったのです。もはや後には戻れません。幸い、殿下も癒しを見つけたようですので、私が何をしようと気にしないかと」

「それはお前が、自らの義務を果たさなかったからではないのか? 聞くところによると、あちらの王妃とも折り合いが悪いとか」

「……その件に関して、私に否はあるのでしょうか」

「何だと?」

「私は自分が悪いとは思っていません。私は頑張りました。努力しました。その結果がこれです。これ以上、私がすべき事はありません。それは無駄な努力というものです」

「クローディーヌ。あなた、本気で言っているの? すべて放棄すると言っているようなものよ」


王妃としてのお母様の言葉に、私は首を振る。王妃として最も重要な事は、世継ぎを産む事だと言っても過言では無い。悪く言ってしまうと、子供の産めない王妃に価値は無いということ。だからこそ王妃となるからには、それを一番に考えるべきだ。


にもかかわらず、それを無駄だと諦めて愛人を作った、と見せている私は、もはやアストラの花と称えられた娘とは言えない。まだ王太子妃という立場でこれでは、この先王妃が務まるとは思えない、と誰もが思うはず。愛人を作りさえしなければ、同情されただろうに、と。


「すべてではありません。同盟は維持出来るように努めます。そうしなければ、シャルルと一緒にいられませんものね?」


わざとにっこりと笑って見せると、今度はアーロンお兄様が口を開く。今日は妹に甘い兄の顔ではなく、きちんと王太子の顔をしていた。


「もっと冷静になりなさい。一時の感情に惑わされてはいけないよ」

「アーロンお兄様。私は自分で選んだのです。初めて、自分で、選んだのです。それは罪ですか?」

「罪ではない。けれど、何故よりにもよって、それを選んだ。もっと違うものを選んでいたら……」

「例えば何でしょう。シャルルを諦め、殿下を愛していないのにそのふりをして、耐え忍ぶ事ですか」

「お前の役目は何かを考えてみなさい。いずれは王妃として殿下を支えるべきお前が、うつつを抜かしてどうするんだい?」

「それは、お兄様が現状を知らないから言えるのです。子どもが出来ない事を責められ続ける私の気持ちが、お兄様に分かりますか?」

「だからといって、逃げるべきでは無かった。まだもう少し……」

「私は好きで王妃になるわけではないのに、何故我慢しなければならないのですか?」

「お前は……」

「もうよい、アーロン。何を言っても聞く耳を持たぬ。我が娘は頑固であるからな」


尚も言い募ろうとしたお兄様を、重々しいお父様の声が止める。心なしか苦笑しているようにも見えるけれど。お父様は表情がいつも分かりにくい。


我が娘と言ってくれたことが嬉しく、それと同時にお父様が止めると思わなかったので思わず見つめていると、私を真っ直ぐに見つめながら再び口を開く。


「クローディーヌ。同盟の維持に尽くすという言葉に嘘は無いな?」

「はい。もちろんですわ」

「その言葉を違えるな。私に言えるのはそれだけだ」


お父様はそう告げると席を立ち、そのまま部屋を後にした。慌てて立ち上がってそれを見送り、予想外にあっさりしていたので思わずお兄様とお母様を見る。同じように立ち上がっていた二人も、同じような心境に見えた。


やがてお兄様がため息を吐いて、私に近寄って頭を一度撫でてから、お父様を追うように部屋を出て行き、お母様は私をただ抱き締めてくれたのだった。


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