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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
56/75

2-9

そうして私たちは、ついにその日を迎える。殿下と私の結婚四年目を祝う式典まで、残り三ヶ月を切った、夕暮れ時の事だった。


その日は久しぶりに殿下が私の部屋を訪れるという設定上、私は準備に余念がない。髪を綺麗に梳って結い上げ、化粧を施し、殿下の好きな明るめの色合いのドレスを着た。


こうして着飾ればあら不思議。夫の為にお洒落して出迎える妻の完成である。クレアとアンジェリカが私を励ますように、とてもお綺麗です、と褒めそやす。


私は笑みが浮かぶのを押さえられなかった。褒められた事にではなく、殿下が久しぶりに訪れるからでもなく。理由は一つ。


──これで私もやっと、シャルルと頻繁に会えるようになるのだわ!


ただし、夜を共にするのはまだ先なのが残念。でも、シャルルの決意を無下にしてはいけない。誘惑に耐えているシャルルも、それはそれで可愛いものね。


うふふ、と笑ってくるりと回る私をメリーが呆れたように見つめようと、気にしてはいけない。気にしたら負け。


本当は、こんな演技をするつもりなんてなくて、ただ噂を流して、シャルルを連れ込むのを見せるだけだったのだけれど。


急にそれだと侍女が戸惑うし、信憑性に欠ける、とは王妃様の言。騙すのならまずは侍女から。その後、ぼろを出したように、使用人たちに証拠となる手紙でも見つけさせた方がいい、とのこと。


この計画に関して、王妃様が一番乗り気なのだった。


やがて殿下がやって来る。殿下は私の気合いの入れように、若干引いたようなのが面白い。シャルルと目が合って密かに笑い合う。


「どうしたクロード。今日は何と言うか、華やかではないか」

「もちろんですわ! せっかく殿下がいらっしゃるのですから!」


弾んだ声を心がけて言うと、殿下は頬を引きつらせた。これくらいやらなくては。その反応を演技では出せなかっただろう。


「そ、そうか。だがすまない。急な仕事が入ってな。すぐに戻らねばならん。お前はここ最近元気がないようだから、心苦しいのだが」

「……いえ!お忙しいのは仕方がないですもの。どうぞお気になさらず」


聞き分けの良い妻を演じる私の肩を、殿下が叩く。


「すまないな。ああ、そうだ。シャルル。悪いがクロードの話しでも聞いてやってくれ。クロードも、学生に戻った気分で、シャルルに何でも相談するといい」

「お気遣い、ありがとうございます」

「そろそろ行かないと。ではな」


そう言って殿下はそそくさと逃げ──否、申し訳無さそうな顔をして出て行き、後には私とシャルルが残された。私はうっかり抱きつきたくならないように、その場にしゃがむことにする。


もちろん、演技をするのも忘れない。むしろこの方がやり易いかもしれない。


「……殿下はもう、私に関心が無いのね。あの令嬢の元に行くんだわ。ひと月前だったかしら。部屋に連れ込んだそうじゃない。そうなのでしょ?」

「私の口からは何とも……」

「ねぇシャルル。私、分からないわ。何が悪かったというの? 私は精一杯やって来たのよ。なのにたった四年でこんな……。あんまりだわ!」


手で顔を覆えば、後ろに控えるアンジェリカとクレアには、泣いているように見えるだろう。そんな私の前に片膝をつき、そっとハンカチを差し出すのはシャルルだ。


ゆっくり顔を上げると、シャルルが小さく笑う。いつかの夜を思い出させる、私の大好きな微笑み。


「クロード様。私はいつでも、あなたが頑張っていたことを知っています。殿下や貴族たちの前では、そのような悲しい顔も見せず。そんな健気なあなたの姿が、私は好きですよ」

「あぁ、シャルル……。そんな事を言ってくれるのは、もうあなただけになってしまったわ」

「クロード様。もしもお許しいただけるのならば、私をお側に」

「……そうね。あなたの言葉なら信じられそうよ。お願い、私を慰めて」


私が差し出した手を、シャルルの大きな手が包み込む。そのままシャルルを見つめていると、背後でメリーが二人を促して退出する声が聞こえた。


扉が閉まる音を聞き、しばらくそのままでいた私たちは、同時に笑い声をあげる。


「あぁ、楽しかった! 素敵だったわシャルル」

「恐れ入ります。少し緊張しました」

「そう? 自然だったわ。何ならこのまま脱がしてくれてもいいのよ?」

「クロード」


低い声で窘められてしまった。からかい甲斐が無くなって少し寂しい。学院時代なら、顔を真っ赤にしてあたふたしたでしょうに。


「そんなしょんぼりしても駄目です」

「もう、可愛くないわね。誰に似たのかしら」

「可愛くなくて結構です」


プイッと顔を反らすのが可愛いと思ったけれど、心の奥にしまっておくことにしよう。結局のところ私にとっては、どんなシャルルも好きな事に変わりは無いのである。


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