表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
53/75

2-6

『クロードの美貌に惹かれないのは、殿下くらいのものだと思います』


いつか、大真面目にそう言った僕を、殿下は大笑いしたものだ。


それは確か、クロードが卒業して間もなくの頃だっただろうか。卒業してからも、いや、むしろ卒業してからの方が、クロードの人気は高かった。


街でも売られている絵姿を、お守りのように持ち歩くのが女生徒の間で流行っていたし、ある男子生徒が、実はクロードに淡い想いを抱いていた、と漏らすのを聞いた。


その度に殿下は楽しげに笑い、僕は何度も胸を痛めたのだけれど。ありえない、と思っていても、ついつい想像してしまうのだ。もしも、クロードの隣にいるのが僕で無かったら、と。


殿下と並んで笑っている時でさえ、胸は苦しくなる。昔よりましにはなったものの、今でも少しだけ。


先日、久しぶりに家に帰ったら、妃殿下に懸想しているのではないでしょうね、と母に聞かれて冷や汗をかいた。


悟られてしまうほど、顔に出しているつもりは無かったのに。さすがは生みの親、というべきか。それとも、僕が分かりやすいのか。


それをふと思い出して、殿下の昼食後に聞いてみたら、一言。


「まぁいいんじゃないか?」


と、カップを手に取りながら、軽くそう言われた。僕が思わず拍子抜けしたのも、無理は無いと思う。


「……いいのですか?」

「ああ。母上からもそういうお達しが出た。そろそろシャルルに出番を与えるとさ」

「つまり……?」

「傷ついた姫を慰める騎士の如く、クロードを陥落させろ、ということだ。母上としては、大げさなくらいに甘い言葉でクロードを誘惑して欲しいそうだ。ま、陥落も何も、すでに落ちているがな」


殿下は楽しそうに口角を釣り上げたけれど、僕としてはため息を吐きたい。


「王妃様がお味方してくれるのは良いのですが、その、楽しんでいるのは気のせいでしょうか?」

「母上も色々と鬱憤が溜まっているのだろう。好きにさせた方が身のためだ。それにな、よく考えてもみろ。クロードだぞ。アストラの花と称賛される娘だ。性格はあれだが、見目麗しいのは残念ながら否定できない。弱ったクロードは格好の餌だ。分かるか?」

「……ええ、はい」


想像したくもないが、取り入ろうとする者たちが大勢出てくる。それを避ける為に、殿下とクロードはあらゆる可能性を考えて来たのだ。


例えクロードの意志が固くても、本人の望まない形に転がる事も考えられる。


「俺たちの望みは円満に別居する事だ。余計な面倒が増える前に、クロードに愛人が出来たと言われなければ困る。つまり、頑張れ」


真面目な顔で言われても。そもそも、円満な別居とは。当事者でなければ、このまま眠って夢だという事にしてしまうかもしれない。


「……まぁ、クロードと一緒に暮らせるようになるためにも頑張りますけど」

「まぁそう苦い顔をするな。物語の登場人物になったと思って、精一杯やって来いよ。後でどんな言葉を吐いたか教えてくれ」

「他人事だと思ってますね。殿下は浮気をされる当事者ですよ」

「うむ。だからこそなるべく印象に残るようにな。その方が面白い」

「本当に、あなたとクロードは似ていますね」

「だからこそ気に入らんのかもしれないな。だから俺が求めたのは、ミラベルのような心優しく思いやりに溢れる娘なのだ」

「クロードも優しいですよ」

「お前にだけな。ほら、早く行ってこい」


しっしっ、と追い払われて殿下の部屋を後にする。しかし足は重い。クロードに会えると思えば嬉しいのだけれど。


部屋にいるのがクロードだけなら、これほど何度もため息を吐いたりしない。今日は確実に第三者がいる。そして、クロードをその気にさせる言葉を言わなければならない。それが憂鬱なのだ。


何度もため息を吐きながら廊下を歩く僕の姿は、後々、妃殿下への想いに思い悩んでいたのだろう、と噂されるようになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ