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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
46/75

1-5

その後真夜中まで続いた晩餐会は、国王陛下たる父上が立ち上がったところで、終わりを告げた。アストラ国王と楽しそうに酒を飲んでいたから心配していたが、今日最後の役目は忘れていなかったらしい。


丁度、クロードを褒める言葉も底をつき始めていた頃だ。これ幸いと、俺も陛下に促されるまでも無く立ち上がった。クロードに手を差し出せば、小さく笑って手を取り立ち上がる。そして、見送るように立ち上がった他の面々に頭を下げ、部屋を出る父上の後に続いた。


先導する侍女長の蝋燭の明かりを頼りに、暗い廊下を進む。誰も何も喋らず、これが新婚初夜だと分かっていなければ、誰かの死の報せを聞き、そこへ向かっているかのようだと思った。


「これから先も、仲睦まじくあることを願う」


やがて、最初で最後の儀式を行う寝室の前まで来ると、厳かに父上がそう告げる。俺も神妙な顔を作って頷いたが、心の内では父上に謝っていた。


俺たちは、二人ともそのつもりはありませんが、同盟の維持には全力を尽くしますので、どうかお許しください、と。


父上は頷いて俺たちを寝室へ入れ、自らは再び駒鳥の間の方へと戻っていく。これから寝ずに、もしくは仮眠を取りつつ、朝まで待つのだろう。俺たちの初夜が恙なく執り行われたと、報告を受けるために。アストラ側も、それを聞いてから国に帰る筈だ。


初夜でしか使う事のない、ぼんやりとしたランプが灯ったこの寝室は、天井が高く、深い海のような壁に金の装飾が施されている。部屋の中央に天蓋付きのベッドがあり、すっかり俺たちを出迎える用意が整っていた。


俺たちが寝台に上がった事を見届けた侍女長が恭しく下がると、新婚夫婦二人だけが残される。


これから俺たちがする事と言えば、一つしか無い。


「さて、偽装しなくてはな」


そそくさと寝台から出て告げると、クロードも頷いて寝台を下りた。それから俺たちが入って来たのとは別の扉へ向かい、軽くノックをすると、その扉からメリーとシャルルが姿を現す。


この扉は普段は鍵がかけられていて、部屋によっては絵画の裏にもある、使用人たちが使う為の通路である。通称、鼠の巣穴。緊急時には脱出用通路にもなるが、普段は使用人たちが立ち働いている姿を見せないようにする、ただの通り道に過ぎない。


俺が使う事にならないことを願いたいが、あらゆる部屋に通じているため、ここから俺の私室やクロードの私室に行く事も可能だ。だからこそ、こうやってこっそり手引きをする事が出来るのだが。この通路を使う必要のない侍女であるメリーが、どうやって鍵を手に入れたかは聞かない方がいいのだろう。


君子危うきに近寄らず、だ。


「メリー。後はお願いできるかしら」

「はい。お任せください」


メリーは頷くと、早速寝台の方へ向かう。俺とクロード、そしてシャルルは隅に置かれた椅子に座り、朝まで待つことにした。


シャルルは、明日の朝俺たちを起こしに来る役目を担っている。本来ならそれまで俺の部屋で待機なのだが、何も無いと分かっていてもそわそわしてしまうに違いないと思い、ここに呼んだのだった。


「これを乗り切れば、後はどうやって仲違いをしていくか、だな」


神聖なる新婚初夜に、こんな事を話していると知れば、父上や母上は卒倒するに違いない。だがもはや誰にも、止める事は出来ないのだ。


「わくわくしますわね」

「あまり、はしゃぎ過ぎてしまわないでくださいね、クロード」


楽しそうなクロードに、シャルルが苦笑を向ける。俺もそれには同意見だ。あまり大げさにし過ぎてもよくない。


「安心してシャルル。少なくとも、二年はおとなしく、健気な妻になってみせるわ。ミラベルを殿下が見初める、その日まで。ですから殿下も、最初はきちんと私の部屋に通って下さいませ」

「分かっているさ」


説得力を出すためまずは、クロードの部屋に足しげく通い、仲の良さを知らしめておくことが重要である。


それから次第に足が遠のき、俺たちはぎくしゃくしていく。俺は行儀見習いの令嬢に安らぎを求め、クロードは寂しさからシャルルと関係を持つ、という筋書きだ。


実際は、本当に別居するまで手は出さない、とシャルルは誓っているから、ただの振りにしか過ぎないが。ミラベルも同じ事を言っていたから、本当の意味で俺とクロードがそれぞれの相手と結ばれるのは、まだまだ先になりそうなのが辛い所だ。


「俺としては、ミラベルが責められないようにする為にも、クロードに悪役になってもらうことを期待している」

「そんな事を言えるなんて、成長しましたわね」

「お前にそう言われると、そこはかとなく馬鹿にされている気がする」

「馬鹿にするなんて。頼りにしていますわ、殿下」


そう言ってクロードは笑ったが、やっぱり素直に喜ぶ事は出来なかった。


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