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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
44/75

1-3

その日のお昼過ぎ。私は初めて、生涯お仕えする事になる方とお会いしました。


私の名前はアンジェリカ。今年で十五歳になる、子爵の娘です。貴族とはいえ、端くれのような家柄の私は、学院に通うことも出来ず、大した趣味もありません。


くせっ毛の茶髪に茶色の瞳。平凡な容姿であり、舞踏会も苦手なおかげで、婚約者もなかなか決まりませんでした。


そんな時です。お父様に、時期王太子妃様が侍女を探しているそうだ、とお聞きしたのは。私はちょうど、王宮に上がって働くことも考えていた頃だったので、行ってみようと思ったのです。


もちろん、あまり期待はしていませんでした。王太子妃様の侍女ともなれば、綺麗で賢い方が選ばれると思っていましたから。


それでも行こうと思ったのは、選ばれなかったとしても、他の仕事を紹介してもらえるかもしれない、と思ったからです。


だからこそ、面談をした侍女長から、あなたには妃殿下のお世話をしてもらいます、と連絡が来た時は驚いて倒れてしまったくらい。


もう一人、一緒に選ばれたのは同い年のクレアという、金髪碧眼のお人形のように可愛い子。伯爵家の次女で、無理矢理結婚させられそうになったから、という理由で王宮へ上がったそうです。確かに同じ年には見えないくらい大人っぽくもあるので、納得してしまいました。


そんな私たちの初仕事は、晩餐会へ向けてのお召し替えになります。ドキドキしながら侍女長に連れられ、妃殿下の部屋に足を踏み入れました。


「待っていたわ。その子達ね?」


その声は軽やかで、透き通っているようでした。


「はい。これから妃殿下付きとなります、アンジェリカとクレアでございます。この二人が主に妃殿下の身の回りのお世話をいたしますので、ご用の際は何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとう、侍女長」

「いえ……。あの、妃殿下。差し出がましいようですが、本当に、二人だけでよろしかったのでしょうか?」

「ええ。アストラではこのマリアンヌだけだったもの。二人増えれば十分助かるわ。よろしくね、アンジェリカ、クレア」

「はい、妃殿下」


クレアが頭を下げる横で、私は妃殿下をぼーっと見つめてしまいました。こんなに美しい人を、今まで間近で見たことなんて無かったんですから。


純白のドレス姿の妃殿下は若々しく、肌には張りがあって健康的。飴色の髪は磨きあげられた琥珀のようで、淡いブルーの瞳は清らかな泉のようです。


横のクレアに突つかれなかったら、いつまでも見つめてしまっていたことでしょう。


「よ、よろしくお願いします、妃殿下」


慌ててそう挨拶をすると、妃殿下は鈴を転がすような声で笑いました。この表現は、妃殿下の為にあるようだと、本気で思いました。


それから、私とクレアと、アストラから連れてきたという、マリアンヌさんと一緒に、妃殿下の身支度を開始したのでした。


晩餐会でもまた、妃殿下は白のドレスを着用します。ウェディングドレスよりも首元は開いていますが露出は控えめ、そこに殿下が用意したという、ムーンストーンのネックレスを。


肩から腕までは繊細なレースの刺繍が施されていて、スカート部分はふんわりと揺れています。髪は編んで結い上げ、同じくムーンストーンの髪飾りを着ければ完成です。


シンプルな装いですが、だからこそ妃殿下の、幸せに満ちた笑顔が映えるように見えるのでしょう。


「姫様。王太子殿下がお見えでございます」


完成して少しすると、殿下が迎えにやって来ました。妃殿下は嬉しそうに微笑み、殿下を出迎えます。


殿下は、金の房飾りのついた、深い青の正装姿でいらっしゃいます。柔らかそうな茶色の髪と、優しい茶色の瞳を持ち、私と同じ色合いだというのに、殿下には気品があります。さすがは王太子殿下、といったところでしょうか。


背は高く、すらりとしていて、妃殿下とお似合いで眩しいほどです。殿下は妃殿下の姿をしげしげと眺め、満足そうに頷きました。


「クロード。よく似合ってるぞ。その姿を、今日見られない者にも自慢したいくらいだ」

「ありがとうございます。セドリック様もお似合いでしてよ。見られない方が可哀想ですわ」

「クロード以外に見せられなくともいいさ。そろそろ行こうか。退屈だろうがな」

「まぁ、そんな。セドリック様の隣にいれば、退屈なんてしませんわ」


妃殿下はそう言って殿下の腕を取り、殿下は笑って妃殿下をエスコートしていきます。私たちは頭を下げ、幸せそうな二人を見送ったのでした。


「ねぇ、アンジェリカ。素敵よね。あのお二人はお互いに想いあっていて」

「そうね。あんな方のお世話出来るなんて幸せだわ」


クレアと笑い合い、そんな事を言っていた私はまだ知りませんでした。


「あの二人には悪いことをするわね」


と、妃殿下が呟いたことを。


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