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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
43/75

1-2

その日は、雲ひとつない快晴だった。


宮殿内の礼拝堂には、盛装した王族が顔を揃えている。そこへ、まず最初にガルムステット国王夫妻が足を踏み入れ、その次にアストラ国王夫妻、それから、大司教に先導されながら俺が続く。


ここにいるのはお互いの親族だけ。だからこそ、より一層気を引き締めなければならない。俺は彼らに、どのように見えているだろうか。ミラベルとの結婚式だと思え、とクロードには言われたが、笑えているかは分からない。


祭壇の脇の席に着いても、そわそわと落ち着かない。先ほどの成人の儀では、緊張する事も無かったというのに。おそらく、見られている、という意識が高いからかもしれない。


やがて、クロードの到着を告げる鐘が鳴り、俺も含めて全員が立ち上がった。正面の扉が開かれ、クロードが姿を現す。


長いベールの裾を持つのは、俺の弟と妹。まだ八歳と十歳の幼いその顔はどこか誇らしげで、少し胸は痛むが微笑ましい。


中央の通路をしずしずと進むクロードは、確かに美しいのだろう。ステンドグラスから降り注ぐ光を浴び、まるで輝いているかのように見えた。


途中でアストラ国王が進み出て、クロードの手を取る。実は今日初めてアストラ国王と会ったのだが、金色の髪を後ろに撫でつけ、口髭はたっぷりと生やし、厳つい顔つきをしているから、クロードとは瞳の色以外似ている所はない。


クロードと並んで歩いていても、唇を引き結んでいるが、それとは対照的にクロードは、ベールの下で微笑んでいるのが見えた。


アストラの花と讃えるに相応しい、優雅な微笑みとでも言おうか。ただ、祭壇にたどり着いて、差し出した俺の手を取った時には、いつものように悪戯っぽく笑ったのだが。気がついたのは、きっと俺だけだろう。


「汝は、クローディーヌ・エヴァ・アストラを妻とし、苦楽を共にすることを誓いますか?」


大司教が、宣誓の言葉を述べる。俺はこの時、本当の意味で笑ったと思う。この時を待ち望んでいたのは、本当の事だからだ。


「はい」


なるべく若々しく聞こえるように、はっきりと答える。


「汝は、セドリック・ユリウス・ルーベルを夫とし、真心を尽くすことを誓いますか?」


ちらりと見ると、クロードもまた微笑みを浮かべている。そして涼やかな声で、はい、と答えた。


この瞬間に、俺たちは夫婦となった。たとえこれが偽りだと分かりきっていても、もう誰にも引き裂くことの出来ない誓約。


指輪を交換し、誓いの口づけを交わす。高らかに祝いの鐘が鳴り響き、偽りの夫婦を祝福する。これから始まるのは、仲睦まじい夫婦の生活ではなく、次第に険悪になっていく夫婦の生活である。


俺を見上げて微笑むクロードも、同じ事を考えているはずだ。そんなクロードにつられて笑い、手を取りながら、礼拝堂を後にする。


騎兵隊に守られながら、四頭立ての屋根のない馬車に乗れば、王都をぐるりと一周するパレードの始まりだ。


道沿いには溢れんばかりの人だかりが出来ていて、俺たちに向けて笑顔で手を振ってくれている。誰もが、アストラとガルムステットとの結び付きが強くなったことを、祝福してくれていると良いのだが。


俺たちの個人的な夫婦仲はどうあれ、この同盟は何としてでも守り抜かなければならない。俺は、愚かな王になるつもりはないのだから。


隣を見ると、クロードは相変わらず優雅な微笑みを浮かべながら、沿道の人々に手を振っていた。俺が見ているのに気がつくと僅かに身を寄せて、笑顔が引きつっていますわよ、と囁いた。


やはり、クロードはクロードだ。ついつい、人の多さに圧倒されてしまっていた俺と違い、冷静に猫を被っている。


その後一時間に及ぶパレードを終え、王宮へ戻った俺たちは、衣装替えの為にそれぞれの部屋へと引き上げた。この後は晩餐会が始まる。


今日はまだまだ長い一日が続くと考えると、少しだけ憂鬱だった。


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