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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第二幕
42/75

1-1

「ついに、ここまで来ましたわね」

「ああ。長かったな」


私たちが婚約して、早十二年と少し。私は二十歳、セドリック殿下は十八歳になった。十八歳といえば、ガルムステットでは成人。これで、晴れて殿下も大人の仲間入り。


そして、ガルムステット王国の慣例に従い、明日、殿下が成人の儀を終えた後、私たちの結婚式が執り行われる。


私の言葉に感慨深そうに頷いた殿下は、初めて出会ったあの日のような子供ではない。まだ少しあどけない表情を残しつつも、目元はきりりと涼やかで、口元はいつも笑っているようで、落ち着いた声を発する優し気な青年へと成長した。


といっても、私の好みでは無いけれど。


今現在私たちは、真夜中のひっそりした王宮の一室に二人きり。にもかかわらず、甘い雰囲気などというものがないのはずっと変わらない。おそらくは、お互いに想う相手がいなかったとしても、変わらなかっただろう。


「それにしても、明日のパレードに集まるであろう国民の皆様には、悪い事をしますわね。私たちの茶番につき合わせるなんて」

「そうだな。だが、国の内外に仲の良さを見せておくには、またとない機会だ。それに、夫婦が不仲だという話はどこにでもある話だろう。特に貴族間では。俺の知る限りでも、愛人がいる者は多いぞ」

「そうでしょうね。けれど私たちは王族ですもの。きっとゴシップ誌に色々書かれてしまうのですわ。……楽しみですわね」


ついそう言って笑ってしまうと、殿下は嫌そうな顔をする。


「お前はいいかもしれないが、シャルルの胃に穴が開きそうだ」

「あら。それはいけませんわね。けれどそうなった時は、たっぷり甘やかしてあげますわ」


くすくすと笑っていると、扉がノックされた。咄嗟に口を閉じたけれど、入室を求める声がメリーだったから、すぐにどうぞと口を開く。部屋へ足を踏み入れたメリーの後ろで、シャルルが驚いた顔で立っていた。


その様子が可笑しくて殿下と顔を見合わせると、殿下は悪戯が成功した子供の様な顔をしている。立ち上がってシャルルに近づけば、何故か泣きそうな顔をされてしまった。


殿下よりも身長が伸びたシャルルは、私より頭二つ分くらい高くて見上げないといけない。灰色の髪は年々銀色がかっているように見えてきて、殿下は老けて見えるとか言っていたけれど、私は素敵だと思う。


真っ白な手袋を嵌めた手を伸ばし、シャルルの頬に触れる。すると今度は、熱っぽい瞳を向けられる。それでも何も言わないから、声を出して笑ってしまった。


「どうしたの?声をどこかに落としてしまったの?」

「……いえ。とても綺麗です。それは明日の衣裳ですね」


そう言ったシャルルに頷いて、その場でゆっくりと一周する。私が着ているのは明日の衣裳、つまりはウェディングドレス。繊細なレースの刺繍がたっぷりと施された、真っ白なドレス。僅かに引きずる裾には小さな宝石がちりばめられ、歩く度にキラキラと輝く。


「あなたに近くで見せたくて、特別に着せてもらったのよ。だってこれ、結婚式の時とパレードでしか着ないでしょ。その後はすぐに着替えてしまうもの。明日、あなたは近くにいないって聞いたから」

「一応はシャルルも貴族の子息だからな。王族の結婚式には、王族以外参列できない。だから後日、貴族全員から挨拶を受ける日があるわけだ。あれが一番大変だったと、母上がこぼしていた」

「ええ。その話を聞くだけで疲れそうでした。ですがそれよりも、もうひとつ、する事がありますわ」

「そうだな。シャルル、クロードの横に立て」


シャルルは困惑しながらも、いつものように殿下の命に素直に従う。何が始まるのかと不思議そうに私を見た顔に笑い、シャルルの腕をとった。私たちの様子に頷いた殿下は、真正面に立って口を開く。


「さて。シャルル・グレン・アディンセル。汝は、自らの主を裏切る事になろうとも、この先どんな悪意に晒されようとも、クローディーヌ・エヴァ・アストラを愛し抜く事を誓うか?」


こっそりとシャルルを見上げていると、驚いた顔で殿下から私に視線を移した。私は何も言わずにただ笑って、シャルルの灰色の瞳を見つめる。その瞳を見つめれば、私はいつだって勇気を貰える。シャルルもそうだったら嬉しい。


シャルルは小さく笑って、殿下へ視線を戻した。


「はい、殿下。誓います。私にはもはや、クロードのいない人生など考えられません。この命尽き果てるまで、私はクロードと共にあります」

「よろしい。では、クローディーヌ・エヴァ・アストラ。汝は、自らの夫を裏切る事になろうとも、人々からどんな誹りを受けようとも、シャルル・グレン・アディンセルを愛し抜く事を誓うか?」

「はい、殿下。誓いますわ。私はシャルルを愛していますもの。この先喧嘩をする事もあるでしょうけれど、シャルルと共に生きていきますわ」


シャルルと見つめあって頷きあうと、殿下の満足そうな声が聞こえる。


「よし。ここに誓約を。証人は俺、セドリック・ユリウス・ルーベル。お前たちこそ真の夫婦だ」


その言葉に私は笑って言った。


「では明日は、仮初の夫婦の為の結婚式ですわね」


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