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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
40/75

5-4

「付き合ってられるか」


そう言って殿下は立ち上がると、書斎の方へ姿を消した。僕との言い合いを先に打ち切るのは、最近では殿下の方で、密かに嬉しく思っていたりする。そんな時には僕にも、クロードの気持ちが分かる気がした。


こんな様子を父上や兄上たちに見られでもしたら、叱られるどころではないだろうけれど。幸いな事に、ここに彼らはいない。


ミラベル嬢が殿下を追おうかどうしようか迷っていると、行ってあげて、とクロードが口にする。慰めるのはあなたの役目よ、と。


嬉しそうに頷いて立ち上がったミラベル嬢を見送ると、クロードが僕の肩にもたれ掛かる。今日もクロードは甘い香りがした。


これは危ない、と咄嗟に立ち上がってしまうと、そのままぽてん、とソファに倒れる。


「まぁ!酷い!」


なんて言っている目は笑っているので、おそらくさっきのはわざとだったのかもしれない。本当に、クロードは危ない。いろんな意味で。


「今の内に渡しておかないと、殿下にからかわれそうなので」


と言いつつ、クロードに小包を差し出す。クロードは笑いながら身を起こすと、僕から受け取った小包の封を丁寧にほどいていく。


そわそわと意味もなく辺りを見渡すと、たった今までいたはずのメリーがいなくなっていた。きっと気を利かせてくれたのだろう。


ただ、正直に言うと、出来ればいてほしかった。


「まぁ……。とっても素敵よ」


そうこうしているうちに、クロードは包みをほどき終わったらしい。感激したその様子に、良かったと胸を撫で下ろす。


僕からの贈り物は、クロードの手のひらに収まるほどの、五角形をした宝石箱だ。蓋の部分に、宝石細工の花が彩られている。


正直、従者としての給金よりも高くついてしまったけれど。クロードの笑顔を前にすれば、そんなものはどうでもよく思えてくるのだ。


「ブーゲンビリアね。情熱の花」

「私の想いのすべてです」


僕がそう言うと、クロードはありがとう、と笑う。その笑みが魅力的過ぎて目を反らせば、ふふっと笑われた。


笑わないでください、と言おうとすると、ふわりと華やかな香りがする。気がつけば、少し背伸びをしたクロードが、僕を抱き締めていた。


一気に顔に熱が上がったのが自分でもわかる。まだまだ慣れない自分が、少しだけ情けない。


「ありがとう、シャルル。大好きよ。だけどちょっと心配なのよね。あなた、日に日に格好よくなっていくんですもの。昔の可愛い灰色の猫がいなくなってしまうみたいで、少し寂しいわ」

「……私としては、格好いいと言われる方が嬉しいですけど」


誘惑に耐えつつなんとかそう言うと、クロードは抱擁から僕を解放して言った。


「だから心配なの。知っているかしら?あなたの人気が高くなっているのよ」

「そうなんですか?」

「今までは殿下の陰に隠れていたけれどね。体も鍛えてるし。三男っていうところがちょっと、なんて失礼な事も言われてるけど。優秀なのにね」


と、クロードはちょっと怒ったようにソファに座り直す。自分以外の事でも怒れるのが、クロードらしいところだ。


「大丈夫ですよ。私にはあなたしか見えないのですから」

「知ってるわ。でもそれであなたが傷ついてしまわないかしら」

「どうして私が?どちらかといえば、お相手の方でしょう。私に恋をするような令嬢がいれば、の話ですけど」

「あなたに振られた腹いせに、ごろつきでも雇って、あなたに酷い事をするかもしれないわ」


およそあり得ない事を口にするクロードに、思わず僕は苦笑してしまう。愛読書に影響され過ぎ、もしくはただ言いたいだけなのだろうけれど。


真面目な顔で言うものだから、たまに冗談かどうか分からなくなる時があって困る。


「物理的にでしたか……」

「あぁ!あなたの綺麗な顔に傷がついたらどうしましょう!」

「クロードは、私の顔に傷があったら嫌いになりますか?」


芝居がかった様子で嘆くクロードに、なんとなくそう聞いてみると、クロードはにっこり笑って首を振る。


「いいえ。その傷痕にもキスをしてあげる。だけどね、恨みを買うような事をしては駄目よ。女の子は怖いのだから。優しく断るのよ?」

「その話はもういいですよ。私は生涯殿下にお仕えし、結婚もしないと誓っています。父も母も、私には無関心ですから」

「世間的にも私の愛人となるまで、もう少し待っていてね」

「はい。ここまで来れば、もういつまででも待てますよ」


笑って言った僕にクロードは笑い、おもむろに立ち上がった。ついつい身構えてしまった僕に対し、クロードは両腕を広げて首を傾げる。鷹揚に笑っているけれど、悪戯っぽく輝く瞳を隠せていない。


その瞳を見つめて、僕は苦笑した。


(あぁ。僕はやっぱり、クロードには勝てないようだ)


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