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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
37/75

5-1

昨夜降り続いた雨が嘘のように、美しく冴え渡った青空が広がり、私はついに卒業の日を迎えた。


大広間に集まった卒業生は、真っ直ぐ前を見て学園長の話を聞いている。正直言って、長ったらしい。早くも、欠伸を堪えきれなくなりそう。


貴族として、そんな無様な姿を見せられない私たちの、必死の攻防が続く。いっそ目を閉じて、感慨深く聞き入っているふりをしようかしら。


「では、クローディーヌ王女殿下から、一言賜りたく思います」


学園長の言葉を聞き流していた私は、やっとか、と内心でため息を吐く。微笑みを張り付け、壇上に上がる。


他国の王女だからと、卒業生代表挨拶を本当は断りたかったのだけど、卒業生の意見が一致してしまい、結局やるはめに。少し優等生をやり過ぎたかも、と遅すぎる後悔。


「皆さま、ごきげんよう」


上から見下ろすと、みんなの目が私に注がれている。少し見渡せば、殿下とシャルルの姿も見えた。本来、在校生は寮で待機だけれど、二人は私の婚約者とその従者という事で、特別に出席しているのだ。


殿下は腕を組んで目を閉じていて、その後ろでシャルルが私を見つめている。目が合うと少し細められたのは、気のせいじゃないはず。


そう思うと、嘘じゃない微笑が浮かぶ。


「まずは皆様に感謝を。アストラの王女である私を快く迎え入れてくださったこと、そして、不慣れだった私に優しくしてくださったこと」


中には、将来の王太子妃に媚を売ろうと、あからさまな者がいたことも覚えているのだけど。貴族社会では、そうした人物は出世する。


「私はこの学園で多くの事を学びました。恥ずかしながら友人がいなかった私にも、友人と呼べる仲間が出来ました」


もちろんミラベルの事だけれど、自分の事かも、と勘違いしてくれればいい。ただ、数年後には友人なんていなかったと、誰もが口を揃える事になるだろうけれどね。


「ですが、卒業すれば私たちは、それぞれの立場に絡め取られる事になります。私自身、王太子妃として、ここでのように気軽に話すことは出来なくなるでしょう。あなた方に、厳しくする事もあるかもしれません。それでも、ここでの生活を忘れたわけではないはずです。ここで過ごした思い出は、もはや私の一部なのですから。どうか忘れないでください。私の思いはきっと皆様と同じです」


驚いた事に数人の生徒が涙していて、何だか悪い気がしてくる。私の演説は半分が嘘でできているのだから。


「私は将来の王太子妃として、自分に出来る事をやります。愛する殿下と共に、この国の為に。私は殿下を支える、立派な柱となりましょう。ですからどうか皆様も、ご自分の責任を果たされますよう、殿下に代わりまして私からお願い申し上げます」


頭を下げると、何故かしんと鎮まりかえったまま。あら、と顔をあげてみれば、全員が呆けたように私を見ていた。


(おかしいわ。ここは拍手が起こるはずなのだけど。メリーと何度も練習したから、間違いはなかったはずよ)


そう思いながら、もう少し何か言った方がいいのかしら、と思ったところで手を叩く音がする。手を叩いているのは殿下だった。


ろくに聞いていなかったのに、と少し笑うと、同時に拍手が巻き起こった。割れんばかりの拍手にもう一度頭を下げ、壇上から降りる。


その後は粛々と進み、卒業セレモニーの幕は降りた。


セレモニー後は卒業パーティーがある為、寮へと帰る。そこで在校生たちに花束をもらい、挨拶を交わしながら部屋に入ると、すでに殿下とシャルル、そしてミラベルがいた。


「あらみんな、お揃いね」


私がそう言うとすぐにメリーが現れ、私の持っていた花束を受け取って、奥の洗面所へと消える。本当に、もったいないくらい優秀だ。


「卒業おめでとうございます、クロード様!」

「これで第一幕の終了だな」

「学園で会えないなんて寂しいですね」


それぞれの言葉に笑い、ソファに腰を落ち着ける。自然とシャルルが隣に座り、殿下とミラベルも向かいの椅子に座った。


当たり前にしてきた行動に、何だか、急に泣きそうになる。まだ終わりじゃないのに。自分で思っていた以上に、ここでの生活が楽しかったらしい。


「そういえば、先ほどはありがとうございました、殿下」

「あ?……ああ、別に」

「何があったんですか?」

「それがね、ミラベル。私の挨拶が終わったら、何故かしーんとなってしまったの」

「まぁ。それは戸惑いますね」

「でしょ。そうしたら、殿下が最初に拍手をしてくれたのよ。だから余計な事を喋らなくて良かったわ」


にっこり笑って殿下を見ると、目を反らされた。それで、だいたいの事は分かる。けれど今はなにも言わない。


「シャルルもありがとう。ちゃんと聞いてくれていて」


遠回しに殿下は聞いていなかったと匂わせつつ、隣のシャルルに言うと、柔らかな笑みが返ってくる。


「いいえ。素晴らしい挨拶でしたよ。壇上のあなたは輝いていましたから、みんな心を打たれてしまったのでしょうね」

「そう?ありがとう」

「……バカップルめが」


殿下の俗っぽい呟きはあえて無視すれば、殿下はミラベルに優しく宥められていた。


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