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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
36/75

4-10

アストラ王の末っ子、僕らのクローディーヌは、それはそれは可愛らしい子供だった。生まれたばかりの時なんてぷくぷくしていて、柔らかくて。初めて抱かせてもらった時は、壊してしまいそうで怖かったのを今でも覚えている。


僕にとって初めての妹で、仲良くしてくださいね、と母上や王妃様に言われるまでもなく、それは当たり前の事だった。


王妃様に似て、少し勝ち気な大きな瞳。艶やかな飴色の髪をした愛らしい妹。笑うと無条件で抱き締めたくなる。あんな天使のような子を、愛さずにいられようか?


すくすくと育ったクロードは、五歳頃ですでにおねだりを覚え、兄上たちを、もちろん僕を含め、メロメロにしていた。


お願い、とクロードに潤んだ瞳で見つめられては、鉄壁の守りも陥落するというもの。ただ、厳つい顔立ちの兄上たちがデレデレしてるのは、少し怖かった。


それはさておき、クロードがわがままな子にならなかったのは、きちんと叱る姉上たちがいたからだろう。泣きながら謝るクロードを甘やかせば、僕にもとばっちりが来たけれど。


クロードは一度言われた事は守る。姉上たちはそれが嬉しいようで、よく自慢していた。クロードも、姉上たちに褒められるのが一番嬉しい、とよく言っては僕ら男兄弟をしょんぼりさせてくれた。


可憐でよく笑い、人見知りをせず、いつしか貴族たちの間ではアストラの花と呼ばれるようになった。侍女や使用人にも優しいクロードの周りは、いつでも笑顔に溢れていた。


やんちゃで困ったところもあるけれど、最高に愛しい僕らの妹。だから本当は、クロードを他国に嫁がせたくはない。それでもあの日、楽しそうなクロードを見て、この二人なら大丈夫かな、とも思った。


同盟の為の犠牲になったと考えずにすむから。


クロードはこれを逆手にとり、すでに愛人を作っているようだけど。普通の結婚なら、女が愛人を作った瞬間に離縁だ。だから僕の恋の相手に、既婚者はいない。


けれど、王族にそれはなかった。別居しても結婚している事に変わりはないし、お互い同意の上なのだから同盟は続くだろう。


クロードが先に愛人を作った以上、アストラは大きく出れない。すべては、次期国王セドリック殿の選択次第。


とはいえ、セドリック殿とクロードは仲がいいようにある。水面下では、きっと協力するのだろう。クロードは嫌いな相手にはとことん冷たいが、信頼に足ると判断すれば問題はない。


ふと視線を動かすと、クロードがミラベル嬢に何か耳打ちをして、クスクスと二人で笑い合っているのが見えた。


セドリック殿が閉会のスピーチをしているというのに、楽しそうな事だ。


思えばクロードには、友人と呼べる者はいなかった。同じ年頃の子が遊び相手として呼ばれてはいたが、遊ぶといってもお茶会か、庭を散歩するくらい。


王女でありながら庭を駆け回り、虫や蛇を捕まえているようにはとても見えなかっただろう。端から見れば、大人しい王女そのもの。


だから、セドリック殿を追いかけ回していたのを見たときは驚いた。初対面で、あれほど打ち解けているのか、と。僕らの基準はクロードだから、セドリック殿がどんな顔をしていたかは名誉のために伏せるけれども。


僕は、クロードが幸せならそれでいい。アストラの王子として、それを言ってはいけないことは分かっていても。


僕ら王族は、自国の利益を最優先にしなければならない。クロードはその為に結婚する。愛があってもなくても、それは変わらない。


こんな事を口にすれば、遊び呆けているお前が何を言っている、と兄上たちに怒られそうだ。


それでも。


願わくは、彼らの選択が、笑顔に溢れたものでありますように。


殿下への拍手で湧く中、切に願った。


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