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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
32/75

4-6

「今日は賑やかねぇ」


感心したようなクロード様のその声に、私は思わずくすりと笑みを溢す。クロード様の言う賑やかさは、ガヤガヤとした賑やかさではなく、単にいつもより人が多い、ということだと思う。


正門から玄関ホールへ続く通りには模擬店が立ち並び、制服姿の私たちに混ざって、生徒の親族である紳士淑女がゆったりと足を進めている。


並ぶのは食べ物から雑貨まで様々。社会勉強の一環として、という、何代か前の学園長の提案から始まったそうだ。


貴族だろうと王族だろうと、庶民の暮らしを知ることは重要。『国民あってこその王国』を掲げる、我が国らしい催し物だといえる。


今日はこの他に生徒による演劇の上演と、詩の暗唱、ピアノ演奏が行われる予定で、クロード様が演劇の主役を演じるのだ。


「本当に。いつもと違う雰囲気で、ワクワクします。クロード様は演劇をするんでしたよね?」

「ええ。断れなくて」


と、困ったように笑うクロード様だけど、一生懸命練習していた事は殿下から聞いている。


「楽しみにしてますね」

「ありがとう。頑張るわ」


そんな会話をして、クロード様は準備の為に大広間へ向かった。私はしばらく一人で散策しつつ、演劇までの時間を潰す。


この学園祭では、一人一人何かしらの役目がある。私は模擬店の売り子担当だけれど、三日間の当番制で、私は三日目の担当なので、今日と明日は自由だった。


もしも今日が当番だったら、クロード様の演劇が見られなくて、がっかりしていたことだろう。


時間が近づき大広間へ向かえば、すでにほぼ観客席は埋まっていた。適当な席に座って開幕を待っている間、ちらほらとクロード様の名前が聞こえる。


その声には、アストラの王女であり、じきに王太子妃になられるクロード様への期待とともに、粗を探そうという意地の悪い感情も混ざっているようだった。


それに内心で憤りながら、大丈夫かしら、と心配になってくる。クロード様本人こそ、そんな事は百も承知だろうに。


やがて始まった演劇は、結果的にいえば、そんな心配は杞憂だったようで、とても素晴らしい物だった。


クロード様演じるとある国の王子が──この時点で誰もが驚いた──魔王に拐われたお姫様を助けにいくというお話。


今日のクロード様は、昨日の簡単な男装ではなく、ゆったりとした衣装なのか、遠目から見ていた私には、本物の王子様のように見えた。


……いや、あの場所にいたのは確かに、勇猛果敢で優しい王子様だったわ。


拍手喝采で終わった演劇の後、私はクロード様の元へ向かった。そこには殿下とクロード様、そしてシャルル様がいたのだけど。


私はその姿を見て、伯爵令嬢らしからぬ事に、あんぐりと口を開けてしまった。そして。


「あのお姫様役ってシャルル様だったんですか!?」


そう、大きな声を出してしまったのだ。


クロード様は男装のままで、殿下との間に挟まれたシャルル様も、ヒラヒラとした可愛らしいドレス姿のまま。鬘を外していなければ、どこからどう見ても、麗しの貴公子に挟まれたお姫様である。


確かに、背の高いお姫様だな、とは思ったけれど。クロード様も底の高い靴を履いてたのか、それほど不自然ではなかったし、劇に集中していたら気にならなくなった。


驚く私に、クロード様と殿下がクスクスと笑い、シャルル様はがっくりと肩を落として、手に持っていた鬘を放り投げた。


シャルル様がそんな風にするなんて、珍しい。


「あれ、でも声は女性でしたよね?」

「あれは裏で当てているのよ」

「気がつきませんでした」

「ほら見ろ。中々似合っていたと言っただろう?」


シャルル様の肩を叩きながら殿下が言うと、シャルル様は大きなため息を吐いた。


「まったく嬉しくありません。昨日も嫌だったのに……。だいたい、どうして私が?記憶が正しければ、殿下が引き受けたのでは無かったですか?」

「俺が引き受け、従者に託した」

「……クロードに似てきましたね」

「馬鹿を言うな。どこが」

「そうよ、シャルル。私は自分が引き受けた事は、最後まで責任を持つわ。どこかの王子と違ってね」

「俺が公衆の面前で女装して演劇をするなど、王太子としての沽券に関わる」

「でもお姫様役って伏せられて……、あ、何でもありません」


余計な事を言うな、とばかりに途中で殿下にきっと睨まれ、私の言葉は終わる。それから殿下は、シャルル様に向かって口を開く。


「とにかく、いい演技だったのは確かだ。お前にそんな才能があって良かった」

「他に才能が無いと言いたいのですか?」

「そう拗ねるな。そんな事は言っていないぞ。明日は男らしい姿を見せてくれ」

「そうね。期待しているわ」

「私も応援しています」


口々に励まされたシャルル様だったけれど、その口からはまた、ため息が零れ落ちたのである。


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