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「やぁ、愛しいクロード」
俺がそう言うと、クロードの顔が僅かにひきつる。が、すぐに優等生の笑顔を顔に乗せ、優雅な礼をして見せた。
軽くスカートを持ち上げた事で、認めたくはないが美しい足が見える。優等生らしく制服をきっちりと着ているが、むしろ豊かな胸元が強調され、健全な男子ならば、まずそこに視線が行ってしまう事だろう。
本人はそんなものに無頓着という風を装っているが、これは絶対にわざとだ。クロードは、自分の魅力をよく分かっているのだから。俺は、もっとこう、慎ましやかな女性が好きだから、興味はないが。言っても誰も信じてくれないのが嘆かわしい。
だいたい、クロードは周りが憧れるような優等生では無い。確かに成績優秀で、人付き合いもそつなくこなしてはいるのだが。そういう事では無い。
一歩学園を出れば、俺に尊敬の欠片も無いし、やりたくない事はばっさり切り捨てる。俺が少しでも彼女の気に入らない事をすれば、服に俺の嫌いな蛙を仕込むような女だ。今でもたまに、出会った頃の悪夢を夢に見る。
そんな優等生の皮を被ったクロードに倣ったのか、クロードほど大げさではないものの、周りの令嬢たちも頭を下げ、邪魔をしないようにと思ったのだろう、僅かに後ろに下がる。
それをするなら、さっさとこの場を立ち去れと言いたい。
「私に挨拶も無しに帰る気だったのかい?」
けれどもちろんそんな事は言わず、クロードに目を向けて言った。婚約者しか目に入ってない、と思われる事だろう。俺たちの秘密を守るためにも、仲睦まじい姿を見せる必要がある。甚だ不本意ではあるが。
クロードは、「それは……」と言い淀むようにして目を反らし、俺の背後へ視線を向けた。立ち去った令嬢の影でも追うように。それはまるで、嫉妬して不安そうな姿に見える。あくまでも、そう見えるだけ。
「先ほどの方は、どなたですの?」
実際、彼女から発せられた言葉は、そう捉えられる言葉だ。後ろの令嬢たちも、きっとそう思ったはず。
しかし、再び俺を見た彼女の目は、悪戯っぽく輝いていた。この状況を、大いに楽しんでいる目だ。俺に、言いたくもない言葉を言わせようとしている。
「今度の学園祭の話をね。なんだい、クロード。もしかして焼きもちかい?」
「まさかそんな……。ただ気になっただけですわ」
「素直ではないな。そこも魅力的だが。私が婚約者をないがしろにするはずがないだろう?私が愛するのはクロードだけなのだから」
笑って言った俺の顔は、引きつってはいなかっただろうか。
「ですが、随分仲がよろしいようにお見受けいたしましたわ」
「王太子としては、平等に接する事が必要だろう?」
「私にも、平等に、ですの?」
上目遣いに、クロードは俺を見上げる。やはり、こういう時のクロードは生き生きしている。このままでは、ヒステリックな婚約者もついでに演じそうだ。そうなる前に、退散しなくては。俺の身が持たない。
「それはこれからゆっくり話すとしようか。ここだと好奇の目がたくさんある。おいで、可愛いクロード。一緒に帰ろう」
俺が手を差し出すと、頷いて俺の手に手を重ねる。それから周りの令嬢たちにごきげんようと微笑み、二人揃って背を向けた。
「羨ましい。いつも仲睦まじく」
「理想の二人ですわね」
そんな声を背後に聞きながら、俺たちはその場から歩み去ったのである。