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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
25/75

3-9

「大丈夫か、ミラベル」


床に横たわったミラベルを、ゆっくりと抱き起こす。どこか呆然としているミラベルは、何度も瞬きをした。


「……セドリック様?」


まるで、現実かどうか確かめるように名前を呼ばれて、少しくすぐったい。その顔に涙の跡があるのに気がつき、申し訳なく思う。


「ああ、すまない、ミラベル。怖い思いをさせたな」

「どうしてここが?」

「それは……。色々聞いて回ってだな。それより、ここを出よう。王宮の方が近いからそっちに。明日も休日だからちょうどいい」

「い、いえ私は……」


手を引いて立たせようとすると、ミラベルは首を振る。これは、予想していなかった反応だ。


「ミラベル?」

「……私の事なんて気にしないでください。家に帰してくだされば、それで」

「それは出来ない。きちんと怪我などを確認しないと、心配だ」

「心配なんてしないでください。優しくしないでください」

「ど、どうした?何故そんな事を言う?迷惑だったか?」


突然そんな事を言われ、俺はおろおろとしてしまう。


クロード相手には、強気に出られるようになったとは思うのだが、ミラベル相手にそんな事は出来ず、情けない姿になってしまった。


「だって私なんかクロード様の足下にも及ばないじゃないですか。期待させるような事を言わないでください!」


ミラベルはそう言って、両手で顔を覆う。


その言葉の意味を認識した俺は、顔に笑みが浮かぶのを止められなかった。だってこれは、期待していいということだろう?


「……期待、してくれてるのか?」

「え……?」


ゆっくり顔を上げたミラベルは、涙に濡れた瞳で俺を見つめる。その涙を拭うと、びっくりされてしまったが。


「良かった。そう思ってくれてるのなら」

「それって……」

「詳しくは後にしよう。外で馬車が待ってる」


今度こそ手を引くと、ミラベルはおとなしくついて来てくれた。外に用意した馬車に乗り込むと、俺はまずは頭を下げることにする。


何故なら、すべて狂言だったからだ。


「まぁ、ひとまず。すまなかった」

「頭を上げてください!そんな、セドリック様は悪くないですよ。私が悪いんです」

「いや、実はこれは、俺とクロードが仕組んだ事だ」

「……っ、やっぱり、私なんて」


俺の言葉に落ち込むミラベルに、慌てて首を振る。ここで勘違いされると困るのだ。何をしてるんですか、とクロードに馬鹿にされる。


「違う違う。はぐれて、監禁され、俺が助ける。そうすれば、意識してくれるはずだ、と。強引な手を使って、申し訳なく思っている」

「じゃあ、もしかして、あの男の人も……?」

「メリーだ」

「……え?それって、クロード様の」


これは思った通りの反応で、苦笑する。俺もクロードが言った時には、耳を疑ったものだ。だが、実際に見て納得した。


「侍女のメリーだ。アストラでは、よく男装をしてクロードの護衛をしていたらしい。兄君たちが男の護衛を嫌がったからだとか。一通りの武器は扱えるらしいし、体術が一番だと言っていたがな」

「……では、全部嘘だったと?」


ポツリ、とミラベルが呟く。


「すまなかった」


誠意が伝わるように謝罪したが、みるみるとミラベルの瞳に涙が溢れる。


そして、俺は今ごろ気がついた。これはまずい、と。もしかしてこれは、拗れる可能性もあるのでは?クロードに言われるがまま、こんな狂言を演じてしまったが……。


いや、クロードのせいにするのはよそう。俺も乗ったのは事実だ。


「何ですかそれは!本当に怖かったんですよ!?」

「うむ。すまない。反省している」

「誰も来なかったらどうしようって!このままなのかなって!」

「ああ、悪かった。もう二度としない」

「本当に、本当に……!」

「泣かないでくれ。どうしたらいいか分からなくなる。特に、好きな相手には」


俺の告白に、ミラベルが泣きながら固まる。わずかに口を開けたままなのが可笑しい。笑って涙を拭ってやると、ミラベルはようやく口を開いた。


「……今何て」

「ミラベルが好きだ。少しずつでいいから、俺の事を考えて欲しい」

「……っ、そんな事言われたら、もっと泣いてしまいます……」

「泣くなと言っただろう。しょうがない奴だなぁ」


ミラベルはその後、王宮に帰りつくまで泣き続けていた。ミラベルには悪いが、泣いている顔も可愛い。


そう思ってしまった俺は、怒ってるクロードも可愛い、などと言っていたシャルルの事をもう笑えないな、と思った。


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