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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
22/75

3-6

クロードに知られてしまってから数日後、約束通りクロードはミラベルを自室に招き、俺に紹介した。さすがに、俺から声をかけてしまったら、学園中で噂になってしまうだろう。それくらいは俺にも分かる為、遠くから見ているだけだったのだ。


あの時、そんな事を話した俺を、微笑ましそうに見ていたクロードの顔に少し腹が立ったが、連れて来てくれたことに感謝しているのは事実だ。


ミラベルは初め、緊張しているのかどこかよそよそしい感じがしたのだが、本の話題を振るとその瞳を輝かせた。


「まぁ!では殿下もあの本をお読みに?」

「ああ、まぁ。クロードに読まされたのだが、中々面白かった」


ちなみにクロード調べによると、本当に二人の趣味は似ているようで、クロードが読んでいた本は大抵読んでいるらしい。というわけで、今後の参考にと読まされたのも、無駄では無かったようだ。


話しはうろ覚えで、タイトルも覚えていない、とは口が裂けても言えないが。


「そうですよね!最後なんて特に感動しますよね。真の愛に気が付いた王子様が、これまでの非礼を詫びて、公爵令嬢に戻って来て欲しいと懇願する。令嬢の方も涙ながらに頷いて……。あぁ、素敵です」


本の話をするミラベルは、本当に楽しそうな顔をする。思わず微笑みながら見つめていると、慌てた様子ではっとした表情になったかと思うと、申し訳なさそうにしゅんとする。ころころと表情が変わって、何とも愛らしい。


「すみません、私ばかり喋ってしまいました」

「いや。何かに夢中になる事はいい事だと思う。……あんな風にならなければな」


そう言いながら俺は、視線を滑らせた。俺たちの座る場所とは少し離れて、テーブルセットが用意されている。その席に着いているのは、もちろんクロードとシャルルなのだが……。


「シャルル。あなたの好きなクッキーよ。はい、あーん。……どうかしら?」

「……美味しいです」

「本当?じゃあ次はこっちのケーキね。切ってあげるわ。はい、口を開けて。あーん」

「……えっと、クロードみたいに甘いですね」

「まぁ!ふふふ。あぁ、待って。口にクリームが付いているわ。動かないで、取ってあげる」

「あ、すみません」

「いいのよ。……あら、本当に甘いわね」

「じゃ、じゃあ、次は私が」

「食べさせてくれるの?嬉しいわ。大好きよ」

「私も、大好きです、クロード……」

「キスしていい?」

「そ、そそ、それは駄目です!」

「残念だわ」


そこだけ空気すらも甘い。甘すぎる。ミラベルに真実を見せるためとはいえ、少し、やりすぎなのではないか?クロードは楽しそうだが、シャルルはもはや限界なのでは?ちらっと俺を見た目が、助けて、と訴えているのがその証拠だ。


だが俺は、助け舟を出してやらない。これは俺の為であるとともに、クロードの為でもあるのだ。決して、クロードに勝手に喋った事への意趣返しでは無い。


「胸焼けする」


ため息をついて視線を逸らすと、ミラベルもそちらを見ていた。唖然、という表現がぴったりくる顔で。


「……本当に、あのお二人は、その」

「あぁ。将来の妻とその愛人だ」

「何だか、理想が崩れる音が聞こえます」

「そうだろうとも」


ミラベルの答えに笑って頷く。ミラベルも、すっかり自分たちの世界に入っている、というふりをしている二人から視線を外し、俺の目を見て首を傾げた。ミラベルは引っ込み思案なようだが、きちんと目を見て話をする。


「でもどうして私に打ち明けたんですか?」

「クロードは友人に隠し事をしたくないそうだ」

「友人……。本当に、そう思ってくれているんですね」

「そうだな。……俺も、もう少し、その、ミラベルと仲良くなりたいのだが、いいだろうか?ここでしか話は出来ないだろうが、もしよければ」


俺が勇気を持ってそう言うと、ミラベルは少し目を丸くして、にっこりと笑った。クロードの何かを企むような笑顔と違って、春の日だまりのような笑顔だと思う。


その笑顔を俺だけに向けて欲しい。そんな事を思ったのは、初めての事だった。クロードが他の男に笑いかける姿を見て、シャルルが少し不機嫌になる気持ちも今ならわかる。


シャルルはクロードが宥めればすぐに機嫌を持ち直すが、俺はどうだろうか。


「光栄です。私で良ければ、喜んで」


今はまだその答えは分からないが、いつか分かるその日が来る事を、ひたすらに願っている。


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