表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
21/75

3-5

「では殿下。詳しく、お聞かせ願えます?」


メリーに紅茶を入れてもらい、一息ついた所で、クロードがそう問いかける。殿下は半ば投げやりにブランシュ嬢とのいきさつを語り、次いで、向かい合って椅子に座る二人の間に立つ僕に、恨みがましそうなじっとりとした視線を向けて来た。


「……シャルル。あれほど喋るなと」

「申し訳ありません。私には修行が足りませんでした」

「誘惑に負けたのか。そうなんだな?」


確信を持った殿下の言葉に、僕は苦笑を返すしかない。


「……はい。面目ありません。ですが言い訳をさせてもらえるなら」

「何だ」

「そもそも殿下がクロードに隠すからです。隠し通せるはずがないでしょうに」

「シャルル。お前は俺の味方をするべきだろう。俺の従者なのだから」

「ですが、私はクロードに隠し事なんてしないと誓いましたので。それにゆくゆく、殿下を裏切るという役どころなわけですし……」

「そんなの表向きじゃないか」

「そうですけど」

「殿下。自分が隠し事が下手だからといって、私のシャルルをいじめないでくださいませ。困っているでしょう。ねぇ?」


尚も言い募ろうとする殿下を、クロードが口を挟んで止める。けれど、この状況を大いに楽しんでいるのは間違いない。殿下もそれが分かっているのか、盛大なため息をついて口を開く。


「だいたい、クロードは何なんだ。俺をからかいたいだけなのか。俺の恋を応援したいのか。どっちなんだ」

「両方ですわ。ところで殿下、今、恋だと認めましたわね」

「……悪いか」


ぶっきらぼうに答えた殿下に、クロードは微笑みながら首を振った。


「いいえ。こう見えて嬉しいんですのよ。あの小さかった殿下が、ついに、異性を好きになるなんて。私、涙が出そうで……、いえ、本当に涙が……」


そう言いながら顔を背け、どこからか取り出した扇で殿下からの視界を遮る。よよよ、と泣き崩れそうに見えるが、そんな事はありえない。僕には、扇の陰で舌を出すクロードが見えるのだから。


しかしながら、意外と素直なのが殿下だ。


「クロード、そんなに喜んでくれるのか……!」


感動している殿下に、この人大丈夫かな、と少しだけ心配になる。将来国王となるというのに、この素直さ。


クロードはというと、そんな殿下に笑いを堪えるように肩を震わせ、顔を上げた時には晴れやかな笑みを浮かべていた。


「もちろんですわ。男が好きなのでは疑惑が晴れましたもの」

「……お前に聞いた俺が馬鹿だった」


がっくりと肩を落としていった殿下に、クロードがくすくすと笑う。


「あら失礼ですわ。ねぇ、シャルル。あなただって安心したでしょう?ちゃんと女性に興味があったんだなって」

「いえ、そんなことはありません」

「正直に言っていいのよ?だっておかしいわ。私に興味を示さないのにねぇ。私、少し落ち込んだ事もあるのよ。そんなに女らしくないのかしらって」

「クロードは誰よりも可愛いですよ」


困ったような、悲しそうな顔をクロードがするものだから、つい咄嗟にそう言ってしまった。僕はそんなクロードの顔に弱いのだ。こればっかりはもう仕方がないので、殿下にも諦めていただきたい。


「あらそう?ありがとう」

「騙されるなシャルル。そいつは可愛くなんてない。初対面で蛇を持って追いかけてくるような女だぞ!」

「あーら、あれは殿下が悪いのですわ。追いかけて欲しそうな顔をしていましたもの」

「そんな顔はしていない!」

「そうでしたかしら?目に涙をためて誘っていたのは勘違いでしたのね」

「誘ってない!お前はいつもいつも……!俺に対する尊敬が足りない!そうは思わないかシャルル!」

「まさかそんな。別居を言い渡してくれるのは殿下ですもの。それまでは尊敬していますわ。ねぇシャルル?」

「それまでとは何だ!」

「あら。つい本音が」

「大体お前は王女らしくないぞ!」

「今の言葉はいけませんわ。カチンと来ました。殿下がそのつもりなら、受けて立ちましょう!」


わーわーと言い争いを始めてしまった二人に、僕はこっそりため息を吐いた。僕はどちらの味方をするべきなのだろうか。


殿下の味方をすれば、クロードが文句を言うだろうし、クロードの味方をすれば、殿下から文句を言われる。中立を貫こうにもそれはそれで、どっちの味方なんだ論争が繰り広げられる事が目に見えていた。


……ただ、どちらにしても、今、僕が言いたいのはこれだけだ。


「……草原に行きたい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ