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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
18/75

3-2

「じゃあ、シャルルは何も知らないのね?」


クロードからそう問いかけられて、僕は神妙に見えるように頷く。いつも通りにクロードの部屋で過ごしていたら、最近殿下の様子がおかしいのだけど、という話になったのだ。


僕の斜め前の椅子に座ったクロードは、残念だわ、と目を伏せて長い足を優雅に組む。チラリと見える太腿が美しい……。


と思ってしまい、そっと視線を反らした。


今日のクロードは、明らかに誘っている。いつもより短めのスカートと、三つほど開けたブラウスのボタンがそれを物語っていた。


十五歳になり成人に近づいたとはいえ、まだまだ僕には刺激が強い。目のやり場に困ってしまう。


分かっている。これは彼女の策略だと。確実に、僕が理由を知っていると確信しているのだ。これは僕を嵌めようとしているのだ。


ちらっと視線を戻すと、クロードは身を屈めて、僕の視線を捉えてにっこりと笑った。組んだ足に頬杖を付き、楽しそうに僕を眺める。いつまでこれに耐えられるかしら、と言われているような気がした。


正直、耐えられそうにない。殿下に、クロードには話さないと約束したのに。


「シャルル。顔が赤いわよ?」

「っ、何でもありません」

「そう?私でいけない妄想をしているのかと思ってしまったわ」

「……まさか、そんな」


返答に間が空いた事には、あえて何も言うまい。クロードは、上目遣いで首を傾げる。


「魅力が足りない?」

「もう十分です」

「それなら良かった。……メリー」


ふわりと笑ったクロードは、空になった紅茶のカップを手に取ると、少し下がって控えていたメリーを呼ぶ。


そういえば、メリーは金色の髪をいつも三つ編みにしているけれど、時々クロードがしているというのは本当だろうか。と、そんなどうでもいい事を考えながら、近付いてくるメリーを見た。


メリーは僕らのやり取りを、いつも静かに見守っている。あまり表情が変わる事は無いけれど、主人の意思を大切にしているメリーは、どんな時でもクロードの味方である。


もちろん、今も。


「申し訳ありません、姫様。私としたことが、お湯が足りなくなってしまいました」

「あら。では貰ってきてちょうだい。ついでに、茶葉を変えてくれる?確か、お母様に貰ったものがどこかにあるはずよ」

「かしこまりました。ただ、少し時間がかかるかと。別の場所に保管してありますから」

「私はどれくらい待っても平気よ。ゆっくり、探してらっしゃい」

「では、しばしお待ちを」


頭を下げて、メリーは部屋を出た。もちろんこれも、クロードの策略なのだろう。


「今日は暑いわねぇ」


二人きりになった部屋で、クロードは襟元を寛げ、パタパタと顔を扇ぐ。涼しい顔は、まったく暑そうには見えないにもかかわらず。


その姿に、思わず生唾を飲み込んでしまった僕は、これ以上は無理だ、と悟る。変な事を口走ってしまう前に、敗けを認める事にした。


「……殿下は、とある伯爵令嬢に、興味があるみたいです」

「まぁ!素敵ね!どこの誰?」

「ミラベル・ブランシュ嬢です。僕らの一つ下なので、クロードの三つ下ですね。本が好きらしく、図書館によくいるので、殿下も毎日のようにそちらへ行っています。クロードにからかわれるから絶対に言うな、と言われました。隠し事をしてすみません」

「教えてくれてありがとう、シャルル。お礼に何かしてあげるわよ」

「……では、一つ」

「なぁに?」

「触っていいですか?」


クロードは僕の言葉にパチパチと瞬きをして、次いでゆったりと笑った。


「どこを?胸かしら」

「今のは違います!間違えました!」

「じゃあ触りたくないのね?」

「そんな事は無い、事も無いですが。抱きしめていいですか、と言うつもりで、その……、僕は何を言って……」

「いいわ。おいで?」


立ち上がったクロードは、僅かに首を傾げるようにして両腕を広げる。僕も同じく立ち上がり、誘われるようにしてそっと抱きしめると、花のような香りが鼻腔を擽った。


僕は、甘い香りにつられた蝶か蜜蜂なのかもしれない。はぁ、と思わずこぼしたため息を、クスクスと笑われる。一体、誰のせいだと思っているのだろう。


「意地悪してごめんね」

「他所ではしないでください」

「もちろん。私を自由にしていいのはあなただけよ」

「あまり可愛い事を言わないでください。クロードより年下ですけど、男なんですからね」

「ふふ。知ってるわ。早く、もっと大人の男になってね。楽しみにしているから」


楽しそうに笑うクロードに、僕はやっぱり勝てない。殿下には後で精一杯の謝罪をするとして、今はクロードをぎゅっと抱き締めた。


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