表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
16/75

2-10

「あの時のシャルルの顔を、あなたにも見せてあげたかったわ。ぽかん、とした顔をしてね、次の瞬間には真っ赤になったのよ」


そう言いながら、ふふっと思い出して笑ってしまう。


私にとってあの夜は、泣いたり笑ったり、嫉妬もしたり、忙しかったような気がする。


そして一番嬉しかったことが、シャルルの告白だった。セドリック様の策略である、あのドレスのお陰だろうか。


緊張して踊れるわけ無い、と照れて俯いたシャルルの頭を、可愛いなぁ、と思いながら撫でていた事は内緒にしている。可愛いなんて言ったら、きっと拗ねてしまうから。


私の話を、時々相づちを打ちながら楽しそうに聞いていた隣のミラベルは、感心したような声で言う。


「クロード様らしいですね。私ならそんな事、とても出来そうにありません。恥ずかしいじゃないですか」

「だって、シャルルからしてくれそうになかったもの。照れ屋だから」

「その時のクロード様が、私の一個上なだけなんて信じられませんよ」


年齢を誤魔化してませんか、狡いです、なんて唇を尖らせるミラベルに、私は愉快になった。この学園で、私に向かってそんな事をいう人はいなかったから。


私の周りにいる人と言えば、もちろんセドリック様とシャルル以外でだけれど、彼ら彼女らは私を褒める言葉しか口にしない。おべっかを使って、私に取り入ろうとする人ばかり。


軽口だろうと、狡い、なんて言葉は使わない。素敵、さすが、素晴らしい。この三つが一番よく聞く言葉だ。


王宮では常に、誰もが少なからず猫を被っている。それが悪いとは思わない。何せ、私とセドリック様がその筆頭なのだから。


それなのにミラベルは、初めこそ恐縮していたものの、今じゃ素直に思ったままを口にしてくれる。だからこそ、セドリック様も惹かれたのだと思う。


「ミラベルは可愛いわね」


と言いながら、顔にかかる髪を耳にかけてやると、やんわり払いのけられてしまった。


「やめてください、照れちゃいます」

「私相手に照れてどうするのよ。でも、あなたはそのままでいてね。将来は、私が悪役になってあげるから。あなたは、殿下に守られていればいいわ」

「……クロード様は、いいんですか?」

「いいのよ。その方が、あなたを受け入れやすいでしょう?」


笑って首を傾げると、ミラベルは困ったように眉を下げる。優しいミラベルには、心苦しいのかもしれない。


私は、セドリック様の卒業を待って結婚する。けれどもちろん、私たちは夫婦生活を営むつもりは毛頭無い。王太子妃としての義務を果たさなければ、冷遇されるのは必然。将来的に、王妃となるなら尚更。


その義務から逃れるように愛人を作り、王太子を遠ざける妃。そんな中で王太子が、行儀見習いとして上がっている可愛いらしい娘に惹かれたとして、誰が文句を言えるだろうか。


「その頃には、私とあなたが友人だったなんて、誰も覚えていないわ。覚えていたとしても、嘲笑われるだけでしょうね。私が責任を果たさないのが悪いんだ、って。責められて当然という事を、私はこれからするの。私にもシャルルにも、その覚悟はあるわ」

「私はそんな事、本当は嫌です。でも、それがクロード様の望み、なんですよね……」

「ええ、そうよ。私は私の為に生きるの。誰に何と言われてもね。後悔するのが一番嫌だから。アストラの王女としては、失格なのでしょうけれど」

「格好いいです。私が男なら、きっと好きになっちゃいますね」

「あら駄目よ」


くすっと笑うと、どうしてですか、と拗ねたように口にする。本当にミラベルは、なんていい子なのだろう。私とは大違いだ。


「だって、私が男だったらシャルルとはお友達にしかなれないじゃないの。それに、勝ち目の無い殿下が可哀想よ」


ミラベルは虚を突かれた顔をして、くすっと同じように笑った。クスクスと笑い合う私たちは、周りからどう見えただろう。


将来的に、決して相容れない関係になるとは、夢にも思っていないに違いない。


「そろそろ騒がしくなるでしょうから、あなたは行って」


騒がしくなる、とはセドリック様が来るから、という意味だ。そしてなにも、意地悪で言っているわけではない。


学園では、ミラベルとセドリック様に大した接点は無かった、という事にしたいから。この時から二人が仕組んでいた、と思われないように。あくまでも、悪役は私でなければならない。


その点をミラベルは、よく分かってくれている。


「もうそんな時間ですか。お話し出来て楽しかったです、クロード様」

「ごめんなさいね」

「これも試練だと思って頑張ります」


そう言って花開くように笑ったミラベルを、私は本当に綺麗だと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ