2-6
セドリック様と私のダンスが終わるのを合図に、他の生徒たちも踊り始める。最初は婚約者かパートナーと。そのまま私とセドリック様も、続けて踊る。その後は、誰と踊ろうと自由だ。
私はシャルルの姿を捜しつつ、ダンスを申し込まれたら喜んで、と受ける。学園の行事とはいえ、アストラの王女としての礼節は弁えなければ。アストラを侮られては困るし、ガルムステットの貴族を侮っていると思われてもいけない。
何度も踊っているとさすがに疲れて、それを理由に断りもするけれど、シャルルと踊るまではそれも耐えよう、と私は思っていた。断った後にシャルルと踊ったら、きっとシャルルが反感を買う。
そういうわけで、早くシャルルと踊りたいのに、中々捕まらなかった。というより、避けられている?そう思い始めたのは、何曲目だっただろうか。
確実にそうと分かったのは、シャルルと目が合った時だ。シャルルは私と目が合って、少し驚いた顔をして、別の令嬢をダンスに誘った。私の、目の前で。
私は、黙って二人が踊る姿を見ていた。楽しそうとは言えなかったけれど、それでも、それを見ていると胸が痛んだ。
(踊ってくれるって、約束したのに……)
そんな子供じみた事を思ったら、涙が出てきそうで口を手で覆った。それでも抑えきれず、私はとうとう大広間を抜け出して、もう帰ろうと寮へ足を向ける。
大広間からだと少し遠いけれど、歩けない距離もあるわけではない。ただ、歩いているうちにだんだん足取りが重くなり、涙もぽろぽろと零れてきて、何度も拭った。
それでも、涙は止まってくれない。
視界が歪んだせいでついに立ち止まって、何度も何度も拭う。きっと顔はぐしゃぐしゃ。こんなに泣いたのは、小さい頃、お兄様たちに悪戯の仕返しをされて以来かもしれない。
でもその時は、滅多に泣かない私が大泣きしたものだから、逆にお兄様たちが驚いてしまい、たくさんご機嫌を取ってくれた。僕たちがやりすぎたよ、と言いながら。
「もう、やだわ……」
そう呟いた時、遠くから名前を呼ばれた。
「クローディーヌ様!!」
いくら遠くても、その声を私は聞き間違えない自信がある。だから急いでまた足を進めた。後ろから呼び止める声がしても、聞こえないふりをして。
「ま、待ってください、クローディーヌ様……!」
追いかけて来て欲しいとはちらっと思ったけれど、今は駄目。こんな顔、見せられたものじゃない。
カツカツと歩くと、足が痛む。そういえば、今日は高いヒールの靴を履いていた。さっと靴を脱いで、さらにまた歩く。こんなに必死になって逃げているなんて、可笑しな話だけれど。
「……クロード!」
びくっと、意に反して足が止まる。足音が近づいてきて、すぐ後ろに荒い息づかいが聞こえた。
私はまた涙を拭って、少しだけ微笑む。
「狡いわ。そんなに必死な声で呼ばれたら、立ち止まるしかないじゃない」
「少し、話しをしませんか。ここじゃあれなので、噴水広場にでも行きましょう。あそこなら、逆方向なので誰も来ませんし」
遠慮がちな、窺うような声。私が何も言わないでいると、前方に回り込んできた。ゆっくり顔を上げ、シャルルの灰色の瞳と目を合わせる。
泣いてる私に少し目を見開いて、シャルルは私の涙を拭ってくれた。どこかぎこちないけれど、優しい手だ。
それからシャルルは視線をさ迷わせ、私が手に持っている靴に目を止めた。そっと私の手から靴を取り、しゃがんで履かせてくれる。
立ち上がると私の手を取り、優しく手を引いて歩き出した。




