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王子と王女の別居計画  作者: リラ
第一幕
1/75

プロローグ

二人の出会いは、十年前。


アストラ王国第三王女、クローディーヌ・エヴァ・アストラは、当時八歳。お転婆で元気一杯の少女。


ガルムステット王国第一王子、セドリック・ユリウス・ルーベルは、当時六歳。物静かでおとなしい少年。


友好の証として、そしてお互いの顔見せとして、セドリックがアストラ王国を訪ねた時の事である。


アストラ王国は長年、侵略者に悩まされていた。ガルムステット王国としても、アストラが奪われると物流が途絶える可能性があった。


そこで両国は同盟を結び、関係を強固にする事を決定する。その証が二人の婚約である。


しかし、二人の出会いは、最悪だった。



少なくとも、セドリックにとっては──。



「やめろ!こっちに来るな!」


セドリックは甲高い叫び声をあげて、近づいて来ようとする相手を睨み付ける。


ふわふわの茶色の髪をして、同じく茶色の瞳に涙を浮かべながら睨んだところで、見た目が可愛らしいせいで、迫力は皆無だが。


「あらぁ?怖がりなのねぇ?」


睨み付けられた方のクローディーヌは、クスクスと楽しそうに笑って言う。


艶やかに煌めく飴色の髪、美しく澄んだ瞳。アストラの花と讃えられるだけあって、幼いながらに美しい。誰もが彼女を称賛することだろう。



その手に、蛇を掴んでいなければ。



「や、やめろ、やめてくれ!それを持って近寄るな!あっちへ行け!」

「まぁ失礼ね!そんなに怖がっていたら、立派な王様になれなくてよ!」


可愛らしい声でそう言いながら、クローディーヌは女神のような美しい笑みを浮かべたまま、じわじわと近づいていく。反対に、セドリックは強ばった顔でじわじわと後退していく。


「私が克服させてあげるわ。さぁ、セドリック様?」

「嫌だ!」


そうして、二人の鬼ごっこが始まった。


蛇を持ったまま追いかけるクローディーヌ。逃げ惑うセドリック。クローディーヌは新しいおもちゃを見つけたかのように、生き生きとしていた。


それを見ていた大人たちは、一様に微笑ましげだった。いずれは、仲睦まじい夫婦になるだろう。……たぶん。と。



セドリックがアストラに滞在した一週間、クローディーヌはいつもセドリックと一緒にいた。庭を一緒に歩いて、王宮内を案内して。


それだけを聞けば、仲がいいと思われがちで、実際その報告を聞いた国王二人は満足したものだが、告げられなかった真実があった。


クローディーヌは庭を歩けば虫を捕まえて、セドリックを追いかけ回し、王宮を案内しては、使われていない部屋に閉じ込める。


大人たちが見て見ぬふりをするのをいいことに、それはそれは楽しそうだった。滞在最終日は、しばらく会えない事をクローディーヌは残念に思った。


せっかく新しい遊び相手(おもちゃ)だったのに!


対するセドリックは、やっと解放される、と安堵したものだ。しかし、さすが幼くとも第一王子。どれだけ嫌でも、結婚する事が決定していることは漠然と理解していた。


だからもう会いたくない、などとそんな事は一切口にせず、──というよりクローディーヌの仕返しが怖くて出来なかった──これからもよろしく、と告げて帰っていったのだ。



国同士の婚約は、自らの意思で破棄など出来ない。


後にこの時を振り返ってセドリックは、悪夢のようだった、と遠い目をするのだった。


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