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宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
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真実への一振り

 空は晴れていた。


 一族の村は、山間にあり、谷には川がある。

 隠れているが、場所が分かれば外からでも来られそうだ。


 だが、ライガたちが入ってきた鉄の扉が一番アクセスしやすい。


 村には、やはり外に出ている者は農作業などをして居る者が以外いなかった。


 それが幸運だが、少し寂しい気もした。

 ただ、ミラとこっそり外に出るには構わない。


 ライガはミラとジンと、人気のない村でも中でも更に人気のない川辺に来た。


 開けた場所で、水が流れる音が響いている。

 木々に囲まれているからきっと村まではあまり音が届かない。

 ジンのそんな配慮だろう。


 ミラは木の根元に座り、ライガとジンの様子を見ている。


「…晴れだな…」

 ジンは空を見上げて言った。見えているかは分からないが、きっと包帯を巻いていても分かるほど日の光が眩しいのだろう。


「そうですね。」

 ライガは剣を構えた。


 ジンも剣を構えた。


「団長は何で俺と戦うことを決めたんですか?」

 ライガは剣を構えながら訊いた。


「俺に勝ったら教えてやる。」

 ジンは顔に巻いた包帯を指した。


「団長は…何を話したいんですか?」


「俺に勝ったら教えてやる。」

 ジンは剣を横に向けた。


 途端に空気が変わった。

 マルコムとの戦いも緊張したが、それとは違った緊張だ。


 勝てるのか?

 自分に問いかけた。


 いや、勝てないと困る。

 ライガは直感でそう思った。

 負けると考えてはいけない。


「勝たないといけない…んですよね。」

 ライガは剣を構えた。


「そうだ。」

 ジンはライガに笑いかけた。


 その笑みがなんだかとても懐かしいものに感じた。


 すごく、ライガは剣を振りやすい感覚に陥った。


 ザリ


 一歩踏み出し、ジンに斬りかかった。


 ジンは軽く弾いた。

 やはり音が大きい。


 ライガは大げさな着地音を立てて体勢を立て直した。


 ヒロキの剣を、マルコムと戦った時のように、ジンの剣を横から撫でるように斬りこんだ。


 ジンはわかっていたことのようにライガの剣撃をいなした。その時に少し口元を歪めた。

 ライガはジンと距離を取りながら体勢を立て直した。


「…マルコムの言った通りだな…」

 ジンは嬉しそうに呟いた。


「…団長?」

 ライガはジンが何故嬉しそうなのかわからなかった。


 ジンは剣を横に構えた。


 ライガも同じように構えた。

 ジンとライガは構えも少し似ている。


 ジンはライガに斬りこみに行った。

 彼の方から攻撃するのは珍しい。


 ライガは剣撃を弾くように防いだ。


 ガキン


 手に鋭い振動が走る。

 マルコムの時とは違ったものだ。


 一撃一撃が重いマルコムだが、ジンは一撃一撃が鋭い。


 足を組みなおし、ジンはライガにまた剣を向ける。

 剣ならジンだが、やはり体術的な動きはマルコムの方が速い。


 だが、それ以上にジンは剣が強い。


 ガキン


 またライガは受け止めるのが精一杯だった。

 反撃ができない。


「防ぐだけだと俺には勝てない。」

 ジンはライガに笑いかけた。


 彼の笑みを見て、ライガは悔しく思った。


 騎士団の精鋭たちは、根本的に負けず嫌いだ。

 でないとここまで強くなれない。


 ライガは力づくでジンの剣を弾いた。


 それでもジンは体勢を崩すことは無かった。

 素早くライガへの反撃に剣を向けた。


 ガキン


 ライガはまた受け止めたが、ヒロキのやったように刃を傾け流し受け流した。


 ギイイン


 嫌な金属音が響いた。


 ジンは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 彼の表情に気を取られている場合ではない。

 ライガは素早くジンに斬りかかった。

 だが、そこまで甘くない。

 ジンは素早くライガの攻撃を受け止めた。


 ただ、初めてジンが完全に反撃の体勢を想定しない状況での防御に回った。


「…今のは…危なかった。」

 ジンはやはり嬉しそうだ。


「…俺を舐めないでください…」

 ライガはジンを睨んだ。


 ガキン

 ジンはライガと同じように、力づくで剣を弾いた。


 ライガは体勢を崩しそうになりながらも反撃の体勢を作った。


 ジンの動きに目をやりながら体勢を整える。


 足が動くか、腕が動くか…もしくは、自分が動くか


 ライガはジンの腕を見た。


 少し剣を立てようとしていた。

 ライガは静かに剣を横に構えた。


 ジンの表情が変わった。


「…?」

 どうやらライガの動きが読み取れないようだ。


 マルコムとの最後の一撃を思い出した。


 とことん剣筋を鋭くした。


 あの時の風切り音は、静かだった。


 ライガはジンにどこまでも鋭く斬りかかった。


 ガキン


 だが、マルコムの時とは違い、ライガ以上に鋭い剣筋で弾かれた。


 手がびりびりする。

 少し作戦的に動いたが、ジンには察知された。


 本当に見えていないのか分からないが、今のは騒がしかったようだ。


「今のも…危なかった。」

 ジンは冷や汗をかいていた。


 やはりヒロキの言った通り、静かな剣撃がジンに一番効くようだ。

 ただ、それは包帯を巻いているからだ。


 包帯を取ったら敵わないのはわかる。


 ライガはこれからどんな攻撃をしようか考えた。


 だが、そんな思案の時間も与えないほどジンは素早くライガに斬りかかった。


 ギイイン


 ジンの剣に上から押される形で受け止めてしまった。

 この体勢はライガの方が不利だ。

 足払いをしようにも、足に意識を持っていくとおそらく素早く斬られる。

 ジンの動きを見て、ライガはどうしのぐか考えた。


 ジンはまた、口元に笑みを浮かべた。


「…強くなったな…」

 彼は、嬉しそうに言った。



 ライガは何か、懐かしいものがよぎった。

 何だが分からないが、いろんなものが込みあがってきた。


「…え?」


 




 ミラは心臓に悪いと思いながらも、ライガとジンの戦いを見ていた。


 素人目だが、正直ライガが勝てるとは思えなかった。


 ただ、それはジンが包帯を巻いていなければというものだ。

 彼には決定的なハンデがある。


 それを考慮するとジンに勝てるかもしれないのだ。


 お互いが攻撃を仕掛ける状況になり、ライガが流して反撃に出てから変わった。

 少しだけ、ジンに余裕がなくなった。


 ライガが攻撃的になった。

 やはり、彼と精鋭たち、騎士団が共通する力への誇りは、ミラが嫉妬するほどライガにとっては大切だ。

 彼はミラの方を選ぶかもしれないが、捨てきれない。

 自分と逃げる限りライガは力を完全に捨てることはしない。


 だから捨てられないものだから嫉妬してしまう。


 ヒロキもミヤビもマルコムもジンも

 ライガと同じように力への誇りとそれを高める何かがあった。


 何よりも、ジンは他と違う。


 強いというのはよくわかる。

 ただ、何かライガと共通していそうなのだ。


 構えが似ている。

 ライガは父から剣を習っていた。

 ジンも騎士団長から手ほどきを受けていてもおかしくないが、彼の何かはもっと違う。


 ライガと接する時も、彼の出自がライガに優しい理由かと思ったが、それでもないかもしれない。


 ジンは、ライガに何を話したいのだろう?


 ミラは剣をぶつけあう二人を見てひたすら考えていた。


 




 ジンはライガを剣で押してから体勢を変えた。

 どうやら反動をつけて距離を取るようだ。


 ライガはあたまの中で何かが繋がった気がした。


 戦略的に下がるジンだが、彼が距離を置くのが急に嫌になった。


 真実が遠ざかる。



『お宝様をお守りするのだぞ。』

『我々騎士は、王家をお守りするのだ。』

 父が言っていた言葉が蘇った。


 毎日言っていた。


 お宝様、王族を守れと


 だが、最後の時、父が言ったのは


『いいか、お宝様を守るのだぞ。』


 何で変わったのか…

 王族のことは言わなかった。


 特に気にしなかったのに、今は気になった。



 団長に負けた父、一緒に皇国に行った父。


 一族のために一緒に動いていた。


 父は、母と会う前にお宝様と愛し合っていた。



 キョウがライガを見て言った言葉。


 ライガはジンの剣を狙うのを止めた。


 内心で躱してくださいと願い、ジンの頭を狙った。


 この人と話さないといけない。


 あの時、マルコムの槍を斬った時と同じく…


 ジンの顔に巻いた包帯と自分の剣を結んだ。



 ザン


 急な剣撃の変化にジンは防御が遅れた。


 ポタポタ

 と血が垂れた。


 ジンは剣を構えるのを止めていた。



 はらり

 と包帯が落ちた。


 初めて見る彼の顔。


 ライガの後ろで二人の戦いを見ているミラが息を呑んでいた。

 ライガは、思ったよりも驚かなかった。


 彼の顔…


「…お前の、勝ちだな。」

 ジンは目を細めて笑っていた。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存していた。ライガとミラを一族の村に運び匿おうとする。母親は王族に嫁いだお宝様だった。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。ライガとの戦いで右頬から右耳にかけて残る傷を負った。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。力主義が強く、弱い者を尊重しない面が強い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことや、自分の父が騒動の黒幕に加担していると考えたことから、騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。自分よりも若い隊員の死や、それによって追い詰められている仲間達を見て心を痛めている。頑なに帝国騎士団としての行動にこだわる。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。仲間の死で精神的に参っているのに加え、自分が面倒を見ていたアランの死で本格的に心を病み、騎士団を休む状態になる。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。双子の弟アランの死に精神的に崩壊し始め、マルコムと共に騎士団とは別に動く。兄。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


キョウ:

鑑目の一族の族長。ライガたちを匿ってくれている。ジンの祖父。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の剣技に魅せられ囚われている。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。皇国二番目の軍人らしく、腕が立つ。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時にマルコムの攻撃を真に受け、ケガをしたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。皇国の襲撃犯などと接触をしており、黒幕に近い人物。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めていた。弟。リランと間違われ捕らえられ、その際に黒幕たちの会話を聞き、それが見つかり襲撃され死亡。サンズに看取られる。



コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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