相互関係
正直、ジンはライガと接していて安心していた。
ライガはヒロキの死を知らない。ミラもだ。
まるでヒロキが生きていた時のように、普通に接してくれる。
他の者たちが嫌なのではなかった。
ヒロキがまだ生きている気がするのだ。
ジンはそれが嬉しく、寂しく、悲しかった。
ライガの怪我も治ってきている。
「…ごっこ遊びも…ここまでか。」
ジンは悲しそうに呟いた。
ライガとの勝負は近い。
もうすぐだ。
彼に話さないといけないことが、ジンには沢山あった。
とても沢山あった。
正直、ライガに負ける気はしないし負けないだろう。
「…これが取れたなら…その時だろう。」
ジンは、自身に巻いている包帯に手を触れた。
ジンが帝国騎士団の団長として課せられたものである。
お宝様を守るが、影響を受けてはいけない。
「…包帯のお兄ちゃんか…」
かつて旅人に言われ、そのあとヒロキに揶揄われた言葉を思い出した。
「包帯が取れたら…何になるのだろうな…」
ジンはヒロキがいるつもりで呟いた。
村について一週間が経過した。
ライガの傷の腫れも引いてきた。
ジンに言われた通り、ライガもミラもキョウの家から出なかった。
ライガは動けないと言った方がいいが、ミラは出たくないようだった。
ずっと傍にいられるのは幸せだが、いつまでもこうしていることは出来ない。
「…もうすぐだな。」
ライガは自分の腕を振りながら呟いた。
ジンと戦うことが近い。
ライガはベッドから降りて、屈伸をした。
軽く動くことはしているが、基本的に安静にしていた体は軋んでいた。
「…流石に室内で剣は振れないな…」
ライガの様子を察したのかジンはなにやら衣服を持って部屋の前にいた。
「団長」
ライガはジンを見ると、姿勢を正した。
「…明日だな。今日は感覚を戻すのを手伝おう。」
ジンは持っている衣服をライガに投げた。
どうやらライガの服の様だった。
「…出るの?」
ミラは不安そうに二人を見ていた。
「お前は出なくていい。気にするな。」
ジンはミラの肩を叩いて、ライガの方を向いた。
「…出られるだろ?」
ジンはライガに笑いかけた。
「…当然ですよ。」
ライガはジンから着替えを受け取った。
ジンはその様子を確認すると、部屋から出た。
毎日貴族街で同じ事件が起きた。
違うのは被害者だけだった。
屋敷にいるもの全て、例外なく殺されていた。
サンズはここまでくると、薄気味悪さと何かへの不信感が湧いてきた。
「…いや、だって…消したいのは…」
サンズは首を振って考えを振り切った。
だが、頭に浮かんだ考えは消せない。
サンズは立ち上がり、身支度を整え、久しぶりに貴族街を出た。
数日前にマルコムから渡された紙に書いてあった住所。
そこを目指した。
マルコムに状況を話さないといけない。
その時に、変わってしまったリランに会うのは苦しいが、放っておけない事態だ。
行動が全て中途半端で無責任だとサンズも思っているが、それでも動かずにはいられなかった。
常連だった酒場の前を通り、少し入り組んだ住宅街に入る。
そこの突き当りから二件目のアパートの一室だった。
アパートの四階の角部屋を借りているようだ。
アパートに入り、部屋の前に立った。
彼等に会うのがこんなに緊張するのは初めてだった。
深呼吸をして、ノックをした。
ガタ
何か金属が動く音が聞こえた。
おそらく、サンズが向かって来ているのを察したマルコムたちが、武器を構えていたのだろう。
警戒心が強いことから、二人が何か騎士団とは違った動きを始めているのが分かった。
「…誰だ?」
警戒するリランの声がかかった。
「俺だ…サンズだ。」
サンズは悲しく思ったが、察せられないように平静を装って答えた。
ガタン
扉が開かれると、そこには鎧を着ていないリランとマルコムがいた。
サンズの思った通り、二人とも剣を持っていた。
部屋は狭く、武器でいっぱいだった。
「…久しぶりだな…」
サンズはとりあえず、挨拶だけした。
「そうですね。…そろそろ来ると思っていました。」
マルコムはサンズに笑いかけた。
リランは険しい表情をして居る。
サンズは、かつてマルコムから渡された紙を突きつけた。
マルコムとリランは驚くことなく、サンズを見た。
「…お前等の…仕業か?」
サンズは声を震わせながら言った。
「死んで当然の奴だ。」
リランが冷たい声で言った。
サンズは思わずリランに掴みかかった。
「お前!!…どうしてだ!?どうしてそんなことを!?」
言いたいことが沢山あるが、言葉を頭で処理しきれなく、サンズはリランに質問を投げかけるしかできなかった。
「アランが死んだのは、そいつらのせいです。言ったですよね?俺は…死なせた奴全て…」
リランはサンズを睨みつけた。
バキン
サンズは思わずリランを殴った。
リランは床に転がり、手をついてサンズを睨んだ。
「だからと言って、こんなことが許されるはずない!!だいたい…罪があっても、侍女や子供まで…」
サンズは騎士たちから聞いた、殺された貴族の子供も死んでいたことを言った。
「半端に逃げている奴に言われたくない」
リランはサンズを睨んだ。
彼はゆっくりと立ち上がり、サンズに殴られた頬を手で押さえた。
「辞めることも、続けることもできていないあんたには言われたくない!!」
リランはサンズを見て言った。
彼の本音だと、サンズは思った。そして、彼の言っていることは真実だ。
「そうだ。俺は半端だ。だけど…お前が、お前等がこれ以上人の道に逸れたことをするのは…」
サンズは歯を食いしばった。
頭には、ヒロキが息を引き取った時、ミヤビの遺体を発見した時、そして、アランが息を引き取った時が浮かんだ。
「…いつか、死んでしまう。」
サンズは声を震わせた。
「いつか…二人も死んでしまうだろ!!」
サンズは、騎士としてはおそらく思ってはいけないことを思っていた。
「人の道に逸れることも、残酷なことを考えるのも…俺は辛い。けど、二人がそのうえで死んでしまうのは…嫌だ。」
サンズは縋るようにリランを見た。
「誰も…誰も死んでほしくない。」
サンズは肩を震わせてリランに言った。
リランは溜息をついた。
「マルコムの言った通りだ…あなたは優しすぎる。」
リランは呆れたようにサンズを見ていた。
「サンズさん。あなた、どこまで現場を見ましたか?」
マルコムはサンズを尋問するように訊いた。
「…俺は、残酷な者を見たくなくて、一件目の廊下しか見ていない。」
サンズは、情けない思いながらもしぶしぶと言った形で言った。
「勘違いしています。」
マルコムはサンズの前に椅子を出した。どうやら座れと言うことのようだ。
サンズは多少警戒しながらも座った。
「俺も、リランも…ターゲットはメモの通りでは動いていません。」
マルコムはリランと頷き合いながら言った。
「…何だ?」
「警備の身元ですよ。ただの警備だと思いましたか?」
マルコムは部屋のベッドに腰かけた。どうやら彼はまだ傷が痛むようだ。
「…貴族は民間を雇うことが…」
「皇国軍の人間でした。貴族街に警備と言う形で潜んでいる。」
マルコムは指を組んで言った。
「はあ?」
サンズは予想外の言葉が出て、間抜けな声を上げた。
「でも、どうやって知った?」
サンズはマルコムとリランを見た。
二人とも腕は立つのは知っているし、マルコムは、まあ、ほどほどに頭もいい。
だが、そんな情報を仕入れるようなことは出来ないはずだ。
「俺らが殺したのは、警備だけです。」
リランは断言した。
サンズは尚更わからなかった。
「どいうことだ?だって、お前等、憎んでいるのは…」
「俺達は、警備を装った皇国軍が屋敷の主を殺しているのを確認してから殺しています。」
マルコムはサンズを見て言った。
「はあ?」
「俺達が来た時は、もう屋敷の主たち一家や侍女や執事は警備によって殺されていた。」
リランは顔を歪めていた。
「…待て、そうしたら何でメモの通りに行くんだ?」
「簡単ですよ。同じメモは他にもある。それに則って皇国軍を仕切っている奴が動いているだけです。」
マルコムは淡々と言った。
「ライガどうのうっていう問題じゃなかったです。」
マルコムはサンズを見た。
「…もし、それが本当なら王都は皇国軍があちこちにいることになる。しかも、かなり昔からだ。」
サンズは何やら寒気を感じた。
「この計画は、昔から進んでいた。けど、結局はライガが引き金なのは変わらない。」
リランは冷たく言い放った。
サンズは思わずリランを見た。
「本当のことです。利用されていたからって…俺は、ライガもいつかは殺したいと思っています。」
リランはサンズを睨んだ。
「アランは、昔に戻りたがっていた。お前だって、そうだっただろ?」
サンズはリランに縋るように言った。
「戻れない。それだけのことです。」
リランは冷たく言い放った。
「ライガのことは、今はどうでもいいです。ただ、これだけはわかります。」
マルコムはサンズを見た。
「…あの時、俺達が一族と接触した時に、皇国軍が一族と接触を試みたのは確かです。誘拐しようとしたと言われていますが、それだけではなかったはずです。」
マルコムはサンズを注意深く見た。
サンズは息を呑んだ。
「…ライガと接触した奴もいましたが、それ以外の動きが達成できたから簡単に撤退したのではないですか?…簡単に自死を選んだんでないですか?」
マルコムは険しい顔をしていた。
帝国騎士に化けていた皇国の者を捕えたが、直ぐに仕込み毒で自殺されたのを思い出した。
そう言うものだと思っていたが、確かに考えると不思議だ。
「伯爵が言っていた。ライガの父親は、一族を皇国に逃がすつもりだった。…もしそれを引き継ぐものがいたら…一族は皇国への亡命を目指している。」
リランは顔を歪めていた。
「だが、一族の場所を探っていた皇国の奴らと噛み合わない。」
サンズは執拗に一族の場所を探っているイメージのある皇国の者達を思い浮かべた。
「だから、団長が邪魔だったんです。団長は、王族と一族のパイプ役だけでなく…一族を隔離する役割だったんじゃないですか?」
マルコムは腕を組んで言った。
「王都は危険。…一族のいる場所にきっと皇国軍も来る…そして、王城も狙われている。」
サンズは腕を組んでマルコムを見た。
マルコムは頷いた。
「…俺は、何をすればいい?」
サンズはマルコムとリランを見た。
もう彼は、動かないでいるのが考えられなかった。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存していた。ライガとミラを一族の村に運び匿おうとする。母親は王族に嫁いだお宝様だった。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。ライガとの戦いで右頬から右耳にかけて残る傷を負った。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。力主義が強く、弱い者を尊重しない面が強い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことや、自分の父が騒動の黒幕に加担していると考えたことから、騎士を辞めることを決める。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。自分よりも若い隊員の死や、それによって追い詰められている仲間達を見て心を痛めている。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。仲間の死で精神的に参っているのに加え、自分が面倒を見ていたアランの死で本格的に心を病む。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。双子の弟アランの死に精神的に崩壊し始める。兄。
チャーリー:
フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。
キョウ:
鑑目の一族の族長。ライガたちを匿ってくれている。ジンの祖父。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の剣技に魅せられ囚われている。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めていた。弟。リランと間違われ捕らえられ、その際に黒幕たちの会話を聞き、それが見つかり襲撃され死亡。サンズに看取られる。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




