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宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
87/135

憎み暮れる


 サンズはアランの遺体を見つめていた。


 あまりにショックと疲労でリランは倒れ、今は休んでいる。

 サンズも倒れたかった。


 仲間の死は見てきた。


 アランの死を耐えるために、サンズは自分に言い聞かせた。


 だが、それで納得しようとする自分を嫌悪して結局自分で自分を苦しめていた。


「…もう、…」

 サンズは呟きかけて言葉を止めた。


 周りには騎士がいる。

 他の自分よりも若い騎士たちが。


 悲しむのと弱音を吐くのは違う。

 サンズは出てきた弱音を飲み込んだ。



 廊下から何やら騒がしい足音が聞こえた。

 ドタドタ

 と数人が走る音だ。


 バタン


 扉が開かれると、血相を変えたアレックスがいた。


 サンズは、彼の顔を見ると縋るような気持ちになった。

 自分が騎士団の中で頼れる、甘えてもいい唯一の人物だ。

 サンズは、飲み込んだ弱音がまた零れそうになった。


「…アランのこと…」

 アレックスはサンズを見て、直ぐに安置されているアランに目をやった。

 どうやら信じられないようで、信じたくないようだ。


 サンズもそうだ。

 だが、アランは動かない。


「…俺が見つけていれば…」

 サンズは言葉を発すると、そこから堰を切ったように涙が溢れた。


 アレックスは何も言わず、アランの元に来た。


「…何があったんだ…どうして…」

 アレックスも分からないようでサンズを見た。だが、サンズにはとても聞けるような状態でなかった。


 自分がしっかりしないといけないという義務感から堪えきったヒロキの死、無力感を覚えたミヤビの死、そして今回のアランの死。


 自分よりも若い者達の相次ぐ死でサンズの精神はボロボロだった。

 アランに関しては、騎士団に誘い面倒を見てきたというものもある。


 流石にサンズが上流階級の出身であるにしても、騎士たちは彼を責めたり強く当たったりすることはしなかった。

 彼とアランの関係性を知っているからだ。

 なので、気を遣って他の騎士たちがアレックスの元に寄って、一本の剣を布にくるめて渡した。


「…これで、刺されていました。」

 騎士は辛そうに目を伏せていた。

 アレックスは受け取って、渡された剣を見た。


「…いい剣だ。」

 アレックスは呟くと、考え込んだ。


「…お前等は、アランがどこにいたのか探れ。」

 アレックスはサンズ以外の騎士たちに言った。


 騎士たちは頷いた。


「お前等がどこに不満を抱こうが今は気にしない。」

 アレックスは姿勢を正して騎士たちの顔を見渡した。


「ただ、敵は内部にもいる。慎重に動け」

 アレックスの言葉に騎士たちは少し不満そうな顔をした。


「だが、手加減はするな。」

 アレックスは騎士たちを睨んだ。

 いや、騎士たちではなく、彼等の向こうにいる何かを睨んだ。


「はい!!」

 騎士たちもアレックスを睨んだ。彼等もまた、何かを睨んでいた。


 彼等の返事に、不平や不満はなかった。


 アレックスは項垂れるサンズの元に近寄った。


「サンズ。アランを殺した者の手がかり…何か聞いていないか?」

 アレックスは気を遣うようにサンズの肩を叩きながら訊いた。


 サンズは肩を震わせているだけだった。


「サンズ」

 アレックスはサンズの肩を強く叩いた。


「アランはまだ…まだ、若かった。一番年下だっただろ?」

 サンズは縋るようにアレックスを見た。


「そうだ。」

 アレックスは頷いた。


 サンズは、ヒロキ、ミヤビ、アランの死に顔を思い出した。


「もう…俺は、耐えられない。」

 サンズは顔を覆った。


 口を引き締め、歯軋りをしているのだろう、顎が震えている。


「帝国騎士でいるのが…こんなに苦しく感じたのは…もう…」

 サンズは首を振った。


 サンズはもう、弱音を我慢できなかった。


 アレックスは無言でサンズの鎧の首元を掴んだ。

 体格のいいサンズを無理やり立たせた。


 周りの騎士たちは驚いたように身構えたが、サンズは全く抵抗をしなかった。


「辛いなら辞めていい。」

 アレックスは行動とは違い、優しい声色で言った。


 サンズは、眉を歪め、堪えきれない涙を流してぐちゃぐちゃになった顔をアレックスに向けた。


「俺は辞めない。」

 アレックスはサンズを睨んで言った。


 そして、サンズから手を放した。


 サンズは床に崩れ落ちるように座った。


「手掛かりは、情報はしっかり教えろ。」

 アレックスはサンズを見下ろして言った。


 サンズを俯いて床を見て首を振った。


 アレックスは周りの騎士たちに何か言って、部屋から出て行こうとした。


「優先しちまった…」

 サンズは出て行くアレックスの背中に声をかけた。

 アレックスはサンズの方を見た。


「俺…手掛かりの情報を聞くよりも…少しでも長く…アランに生きて欲しくて…」

 サンズは変わらず床を見ていた。


「長く…少しでも…」

 サンズは消え入りそうな声だった。


 アレックスはアランの方を見た。

「…そうか。」

 それだけ言うと、彼は部屋から出て行った。




 


 アレックスが部屋から出て廊下を歩いていると、正面からマルコムが歩いてきた。


 他の者は急いでアランの元に来るが、彼は歩いていた。


「お前も来たんだな。」

 だが、王都に戻って来てくれたマルコムをアレックスは頼もしく思っていた。


「…ええ。予想外のことがあったので…」

 マルコムはアレックスが持っている布に包まれた剣に目を向けていた。


 アレックスはマルコムを見た。

「…マルコム。お前が戦った皇国の男…サンズが刀を折った奴だが、剣を使っていたと言っていたな…」

 アレックスはマルコムを見た。


「はい。」


「これか?」

 アレックスは布に包まれた剣を差し出した。


「…いえ、違います。」

 マルコムは剣を見て首を振った。


「なら、アランを襲ったのは違う奴だ。皇国の者は三人しか把握していないが、その男以外は刀を使う。皇国は刀使いが多い。」

 アレックスは剣を眺めて目を細めた。


「…なるほど。帝国の協力者ですね。」

 マルコムは納得したように頷いた。


 アレックスはマルコムを計るように見た。


「お前等は王都に入るまでアランの死は知らなかったはずだ。そんなお前が王都の内部まで入るのは…」

 アレックスは剣をじっと見ていた。


「…」

 マルコムはアレックスを感心したように見た。


「お父上…王都に来ているのだな。」

 アレックスはマルコムにまた、剣を差し出した。


 マルコムは溜息をついてまた、剣を見た。


「ええ。…正直、アランの死は…」


「これは、見たことのある剣か?」

 アレックスはマルコムを軽く睨んでいた。


 マルコムは質問をされて顔色を変えた。


「…なるほど、そうですよね。」

 マルコムは剣を奪うようにアレックスから受け取り、じっくり見た。


「…でも、剣なんて沢山ありますから…」

 マルコムは諦めたように笑ったが、その目はギラギラしていた。


「可能性の話だ。…リランには言うな。」

 アレックスはマルコムから剣を受け取った。


「俺なら冷静だからですか?…こう見えて、俺も怒っていますよ。アレックスさん。」

 マルコムはアレックスを睨んだ。


「知っている。だが、これはお前に言うべきことだろ?」

 アレックスは溜息をついた。


「…サンズさんは?」


「…ダメだ。…弱り切っている。あいつは、意外にもろいところがある。」

 アレックスは目を細めて疲れたような顔をした。


「…彼の死は、俺も悲しいです。」

 マルコムは呟くように言うと、廊下の奥のアランが安置されている部屋に向かった。


 アレックスはその後ろ姿を見送ると、また歩き出した。


 布にくるまれた剣を握り締め、手が震えていた。


 アレックスは立ち止まり俯いた。

「…しっかりしろ。」

 アレックスは自分に言い聞かせるように呟くと、顔を上げた。




 

 暗転した視界から、ぼやける光が見え、リランは目を開けた。


 そこに見えるのは、見慣れた天井だった。


 ああ、何だ。夢だったんだ。


 リランは安心して溜息をついて起き上がった。


「…違う…」

 リランは、自分の願望を否定した。


 アランは死んだ。


 その事実をリランはもう一度頭に浮かべた。


 悲しくて、辛くて、苦しくて逃げ出したい。

 幸せな日の思い出に逃げて、現実を見たくない。


 リランは、自分の中にあるその考えを潰した。


「…だって、殺したやつがいる…」

 リランは歯を食いしばった。


 現実を見たくないという思いで、アランを殺した人物を遠ざけるのは嫌だった。


 企みも、黒幕も、騒動も、皇国も、帝国も関係ない。


 リランは拳を握った。


「アランを死なせた奴…全部殺してやる。」

 リランは髪をかき毟った。


 黒幕は分からないけどはっきりさせて殺す。

 企みに参加していた大臣も、アランを捕えた警備も、襲撃した皇国の奴等も


「お前等が逃げたからだ…」

 リランはこの前まで仲間だったものを思い浮かべた。


「ライガ…お前がきっかけで…」

 リランは、今まで好意的だったライガに憎しみを吐いた。


 ミヤビとマルコムが怒り狂っていたのとはまた違った、異質で粘り気と黒さと暗さのあるものだった。


 死なせた奴、全部殺す。


 リランは一番許せない自分を、自分の優しさを含めた願望を徹底的に潰した。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存していた。ライガとミラを一族の村に運び匿おうとする。母親は王族に嫁いだお宝様だった。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。ライガとの戦いで右頬から右耳にかけて残る傷を負った。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。力主義が強く、弱い者を尊重しない面が強い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことや、自分の父が騒動の黒幕に加担していると考えたことから、騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことや自分よりも若い隊員の死に心を痛めている。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。仲間の死で精神的に参っているのに加え、自分が面倒を見ていたアランの死で本格的に心を病む。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。双子の弟アランの死に精神的に崩壊し始める。兄。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


キョウ:

鑑目の一族の族長。ライガたちを匿ってくれている。ジンの祖父。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の剣技に魅せられ囚われている。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めていた。弟。リランと間違われ捕らえられ、その際に黒幕たちの会話を聞き、それが見つかり襲撃され死亡。サンズに看取られる。



コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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