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宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
81/135

狂い始める歯車


 アランはどうにか外に出たが、このまま戻ると、アランを警戒するのではと思った。


 第一、換気口から天井裏に周り、外に出たためと手も汚い。


 埃とネズミの糞やら油っぽい何か嫌なぬめりが体中についていた。


 とにかく体を洗おうと、水場に向かった。


 王都に入り組む水路でもその中でも人目のないところをアランは知っている。

 運が良ければ、いちゃつくカップルが見られる。

 今はそんなことを考えている場合ではないが、汚れが不快だったため、アランは急いで向かった。


 水場に着くと、誰もいなかった。

 安心してアランは、服を脱いで体を洗った。


 汚れた体を水路の水で洗っていると、ふと昔を思い出した。

 昔、まだ騎士団に入る前は、よく水路の水で体を洗ったものだった。


「俺も出世したもんだ。」

 アランは着ていた服を軽く洗って、絞り、もう一回着た。


 大体、この格好だと貴族街には戻れない。

 あの警備もアランが戻ると不審がるだろう。


 騎士団の詰め所に行くのが一番だが、やはりこの格好は難しい。


「…出方も分かったし、牢に戻るか。」

 アランは気が引けるが、あの牢から皇国の者達を探ることができることが分かった。


 下手に出て騒がれるよりも、大人しく牢に入っている方がいい。

 それに、自分が捕まっていることでリランは安全だろうと思った。

 アランはヒロキの死の責任から、自分が積極的に動くことに抵抗があった。

 もし、ここで逃げてリランに何らかの追手が迫ったらと考えるとアランはそれだけで狂いそうになる。


 それに加えて、あの様子だと、自分が動いてどうにもならないだろうし、チャーリーがサンズたちに伝えてくれるだろう。


 思った以上に協力的なサンズの家の執事にアランは信頼を寄せていた。


 彼はきっとサンズに伝える。


「サンズさんに伝われば…リランは大丈夫だ。」

 アランは頼もしそうに言った。


 アランもリランも精鋭の仲間は勿論信頼している。

 その中でも、サンズは他の者と違った信頼を置いていた。


 彼は、仲間を信じ、元来た道を戻り、牢に入った。


 



 マルコムはイラついていた。

 自分が馬に乗った方が圧倒的に速い。

「もっと早くできないの?」

 歯がゆさと苛立ちもあり、棘のあるいい方で聞いた。


 普段の温厚なマルコムしか知らない騎士たちはぎょっとした。


「聞いているんだよね。俺は騎士を辞めたって…」

 マルコムは同乗している騎士たちを睨んだ。


「マルコム殿…?」


「動くために縫ったんだから、次の休憩地点で俺に馬を寄越して。アレックスさんの指示は関係ない。俺は騎士じゃないからね。」

 マルコムは舌打ちをしながら外を見た。


 圧倒的に遅い。


 雨が降って道が悪いのもあるが、単独で馬の方が速い。


「…あの馬鹿め。」

 マルコムはリランのことを呟いた。


「弱いし、大した頭のも無いくせに…行動は早いんだからな…」

 マルコムは歯軋りをした。


 そんな彼の様子を、同乗した騎士たちは見ないふりをしていた。

 腹黒いとは有名だが、ここまでくると人格自体が変わっている。


 ましてや、騎士でなくなったというなら彼は今は貴族だ。

 下手に触れない方がいいのは誰もが考える。


 そんなことを騎士たちに思われているとは知っているが、気にしていないマルコムは腹立たしかった。


 もう少し、アランに優しく言うべきだっただろうか


 だが、ヒロキの死に関して変に責任感じるアランにマルコムは苛立った。


 あの場所で、あの時に優しく言うことなどできなかった。




 

 王都に戻ったアレックスを待っていたのは、頭の痛い事態だった。


 騎士団が、貴族街や王城の警備をボイコットしているのだ。


 団長代理であるアレックスの元に苦情が寄せられた。


「全く何を考えているんだ!!」

 貴族の男はアレックスに怒鳴った。


「申し訳ございません。」

 アレックスはひたすら頭を下げた。


「まったく、やはり団長は市民風情は無理だな。」

 貴族の男はアレックスの様子を見て、見下したように言った。


 昔なら殴っていただろうが、アレックスは拳を握る程度で抑えた。


「騎士も貴族に変えたらどうだ?市民…平民など、全員クビにしてしまってな。」

 貴族の男はアレックスが言い返さないのをいいことに、続けて言った。


「…助言、ありがとうございます。…しかし…」

 アレックスが言おうとしたとき


 彼の元に他の、王族の者がやってきた。


「団長代理!!どういうことだ!?」

 王族の者は、どうやら騎士団が王城の警備を放棄していることの文句に来たようだ。


 流石に貴族の者も、王族が来たなら、少し控えないといけない。


「申し訳ございません。すぐに…」

 アレックスは近くにいる騎士を見た。


 彼は一瞬嫌そうな顔をしたが、今の状況では断れない。


「いや!!他の騎士はダメだ!!…精鋭がつけ!!お宝様がいないのなら、精鋭は王族に付くべきだ!!」

 王族の男はアレックスを指して言った。


「精鋭ですか?…今は…」

 アレックスは王都にいる精鋭を考えた。


 どこに拘束されているのか分からないアランだけだ。


「お前だ。剣の腕が立つのは知っている。」

 王族の男は何やら怯えた様子だった。


 アレックスは考え込んだが、何か思いついた。

 彼は貴族の男の方を見た。


「な…なんだ?」

 貴族の男はアレックスが急に見たことに驚いた。


「先ほど、「騎士団の市民階級を全てクビにする」というご提案を頂きましたが、今は難しいです。ですので、せめて警備に付くものは全て貴族の者にします。」

 アレックスは傍にいる騎士たちに目配せをした。


 騎士たちはアレックスの意図をくみ取り、貴族の階級出身の騎士たちを呼んできた。


 彼等は、追跡部隊には参加しておらず、実力主義の騎士団で燻ぶり、鎧を着て剣を持っているだけの存在になっていた。

 そんな騎士たちをアレックスは呼び出して、貴族の男につかせた。


「今は、これだけしかできませんが、いずれ提案が反映されることを祈ります。」

 アレックスは貴族階級出身の騎士たちを見て、威圧的に言った。


 貴族であっても、騎士団の実力主義は沁みついている。

 彼等はアレックスに姿勢を正して礼をした。


 他の騎士たちは、その様子を見て少し気分が良さそうにしていた。


 アレックスは王族の者の方に駆け寄った。

「お待たせしてしまって申し訳ございません。貴重な戦力を持っていかれると困るので…」

 アレックスは王族の者を窺うように見た。

 要は、貴族に割くくらいなら王城に警備に、王族の警備につかせると示したのだ。


「なるほどな…しかし、あのどこの貴族だか知らんが、あの男はモノを知らないようだな。」

 王族の者は気分の良さそうな顔をした。


「数人の騎士を連れて行きます。今現在、精鋭部隊は自分しか王都に居ません。」

 アレックスはそれだけ言って、礼をすると騎士たちの方を見た。


 数人の騎士を集めて、顔を寄せて小声で話し始めた。

「…サンズが来たら状況説明をしてくれ、それから…アランのことも頼む。余力があれば、誰か貴族街の方に行ってもらえば嬉しいが、基本は王都を厳戒態勢で守ってくれ。」

 アレックスの言葉に、騎士たちは頷いた。


 アレックスは、その様子を見て安心した。


 そして、最後に付け加えるように


「俺達は、帝国騎士団だ。」

 とアレックスは騎士たちを見渡して言った。


 



 手当てを終えたライガは、家の中の一室に通され、布団に寝かされた。


 ライガを手当てした男は、かつてライガと会ったことがある。

 王都近くの詰め所で会った一族の男だった。その中でもリーダー格で、ライガのことを団長に似ていると言った男だ。


「ありがとうございます。」

 ライガは固定されて幾分か楽になったわき腹をさすって礼を言った。


「…この前は、感情的になってしまって…」

 ライガは以前、彼に言った多少無礼なことを謝ろうと思った。

 だが、不思議と謝罪の言葉を出すのに抵抗があった。


「いや…私こそ、君がここまであの子のことを思っているとは知らずにあの時は…」

 彼は、ライガに対してミラを見捨てるようなことを言ったことを言っているようだ。


「…名前は、何て言うんですか?」

 ライガは彼の目を見て訊いた。

 彼の目は、ミラと同じ鑑目だ。


「族長の…キョウという。」

 男、キョウは礼をしながら紹介をした。


「キョウさん…ですか。」


「ああ。」

 キョウはライガが名前を呼ぶと、安心したように笑った。


「キョウさんは、父、レイ・タイナーと知り合いなんですか?」

 ライガは彼の目を見て、単純に気になったことを聞いた。


「ああ。彼は一族を帝国から救おうと努力をしてくれた。…私が族長になる前から、私に良くしてくれてね…」

 キョウは思い出すように笑った。

 ただ、その笑顔は複雑な感じがした。


「父と何があったのですか?」

 ライガは気なったことは聞いてしまう。鑑目の特性に従い、キョウに質問をした。


「君は、団長の言った通り休むといいだろう。」

 キョウはライガから目を逸らした。


「団長が…全て話してくれるだろう。」

 キョウは遠くを見つめていた。


「団長が…?」

 ライガは首を傾げたが、考えてみると当然な気がした。


 ライガの父と戦ったのもあるが、彼は父と複数の騎士と一緒に皇国に行っているのは、ヒロキの話から分かった。


 だが、考えてみると騎士団入団試験は15歳以上なのに、ジンはそれ以下で騎士団にいる。

 王族で剣の腕も確かだから特別なのかもしれないが、少し引っかかった。


 ジンは、父と皇国の接点や、一族を助けるための活動を見ている。

 ライガの知らない父を知っている。




ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存していた。ライガとミラを一族の村に運び匿おうとする。母親は王族に嫁いだお宝様だった。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。ライガとの戦いで右頬から右耳にかけて残る傷を負った。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。力主義が強く、弱い者を尊重しない面が強い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことや、自分の父が騒動の黒幕に加担していると考えたことから、騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことや自分よりも若い隊員の死に心を痛めている。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。単独でブロック伯爵の元に向かう。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。リランと間違われ捕らえられる。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


キョウ:

鑑目の一族の族長。ライガたちを匿ってくれている。ジンの祖父。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の剣技に魅せられ囚われている。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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